永遠少年症候群

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名前を呼んだら死んじゃった

 春が過ぎかけている。桜なんて疾うに散って、もうすぐ梅雨。夏のような空なのに、暑くない。そんな季節だ。

「影がちょうどいいのに」
「影なんてねぇだろ」

 ここは真っ直ぐ続く畦道の真ん中、ドがつく田舎だ。
 自転車を押す私と、だらだら歩く孝平。高校も一緒の、小中学校までで唯一の同級生。

「変わんないね」
「あぁ。ずーっとド田舎。変わんねぇな」

 田舎もだけど、私が言ったのはこうして孝平と並んで歩くこと。くだらないこと言って笑うこと。

「ねぇ」
「なんだ?」
「高校入って…どう?」
「んー?人数多い教室も慣れてきたかな」
「うん…私も、やっとかな」

 それも違う。私が言いたいことじゃない。孝平との話、こんなに噛み合わなかったっけ?もやもやする。

「可愛い子とかいないの?」
「あー…やっぱ都会のやつは違うよな、男も女も。お前は?気になるやつでもできたか?」
「いないよ。ひ弱そうな男子ばっかりなんだから」
「もやしっ子ってやつか」

 孝平がヒヒヒ、といたずらっ子みたいに笑った。

「山賀さんとか、可愛くて性格も良さそうよね」

 瞬間、孝平の目が見開かれ、耳が真っ赤に染まった。『山賀さん』という、このキーワードだけで。
 あぁ、なんてわかりやすい。
 そして、なんて残酷なんだろう。もやもやと胸焼けのような気持ち悪さに襲われる。
 ここ数日、私の話にも上の空だったのは彼女のことを考えていたから?
 あんな可愛らしい人が、私から孝平を奪っていく悪魔なの?
 あぁ、なんて絶望的で、羨ましいの。

▼▼▼▼▼

 しんじゃった。私の思いは口をついて出てきた。

「何が?」

 その声を無視して果てしなく広がる青すぎるほどの空を仰いだ。
 『何が』ですって?
 私の、小さな恋心だ。

▲▲▲▲▲

「佐々木くん」
「な、何?」

 目を泳がせて返事を返してくれる、クラスメイトの佐々木孝平くん。
 性格が悪いようだけど、私は、この人が私のことを好きだと知っている。…というか、わかってしまった。
 その辺のチャラい男の子達とは違う、純粋なひと。私を見つめるだけの、真っ直ぐな人。
 いつの間にか彼が気になって仕方がなくて、何かと話しかけてしまう。

「佐々木くんって、隣のクラスの中津さんと幼なじみなんでしょ?」
「あぁ、えりのこと?」
「……っ」

 えり、と呼ぶその声があまりに優しくて…私は急に泣きそうになった。
 確かにこの人は私のことが好きなんだろう。けれど、中津さんはとてもとても大切な存在。彼自身も気付かないほど。
 いくら可愛くなろうと頑張っても、私は彼女には勝てない。それがわかってしまった。
 あんなに彼を思っている人が私の前に立ちはだかる壁であるという恐怖。なんか違う、なんて無様な理由でフラれたくないという私の小さなプライドが、淡い恋心を締め上げていった。

お題:少年チラリズムより「名前を呼んだら死んじゃった」