永遠少年症候群

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ねずみと牛

 春。桜が舞う中で、明るい色の髪がスローモーションでさらりと流れた。

「明石!」

 髪切ったのか、とか。お前、第一高校じゃなかったのかよ、とか。言いたい事がいろいろあった。ろくに連絡先も知らなかった。会いたかった。
 俺の声は届かなかったのか、明石はそのまま立ち止まらずに人の波に飲まれていった。
 ひそひそと、俺を遠巻きに見て陰口をたたかれている。金髪だからか、ピアスを開けてみたからか。仕方ないだろ。他に、身を守る方法を思いつかなかった。両親が入学式に来ない、可哀想な奴なんてレッテルを貼られたくなくて。
 足早に教室に入ると、ざわついていた教室が一瞬シンと静まり返った。宇治川は、出席番号2番。そして、目の前に座る明るい色の髪。ショートカットに、したのか。

「……明石」
「あ?」

 濁点のつくような「あ」に、伸ばしかけた手が止まる。
 振り返ったそいつは、明石――明石恵では、なかった。

「……悪い、人違いだ」
「明石であってるけど」
「え? でも、……ん? 明石……恵?」
「あ、お前恵の知り合いかよ。おれ、明石忠明。イトコ」

 明石よりわずかに低い声で、制服も男物。男と好きな女を間違えたのかと軽くヘコんだ。
 そうだよな、卒業式で第一高校に行くって、ちゃんと教えてくれたもんな。

「名前は?」
「宇治川、充」
「あー。あれだ。ミッツン、だな? 恵から聞いたことある。でも、もっと硬派な感じって言ってたけど」
「硬派っぽいだろ」
「悪いけど、おれ、地毛だから。ミッツンと一緒にいたら疑われそうだから不良仲間は他でよろしく」
「ミッツンって呼ぶな」
「じゃあ牛だ」

 鼻を指差しながら、明石忠明はニヤけた笑いを見せた。こいつ、明石に似てるのに全然可愛くねぇ。

「そこの二人、仲良いのはいいけど私語はやめて。あとホームルーム終わったら職員室に来なさい。みなさん、担任の飯野知花です! さっそく自己紹介しましょう!」

 さっそく、俺と明石忠明は不良仲間認定されたようだった。

「さて、宇治川くん。その髪は地毛ですか?」
「おれは地毛です。小さい頃からの写真とかあります」
「あ、ごめんね。明石くんは、中学校の先生からの連絡があるから大丈夫だよ。職員室に来なさいって言ったのは、宇治川くんだけ」
「なんだ……」
「俺が髪染めて、せんせーに迷惑かける?」
「かけるわよー。頭が堅い先生に怒られるの、私だし」

 茶髪にして、ピアスも3つもあいている教師は、へらりと笑って目をそらした。こいつ、俺のこと怖がってる?
 兄貴が言ってた好きな女教師って、こいつじゃなかったっけ。天真爛漫で、可愛くて、とかなんとか。若い女の教師は他にもいるけど、茶髪はこいつくらいだし。

「ふーん。脅されましたとか言えば?」
「困ったなぁ……」
「じゃ」
「あ、おい。おれも帰る」

 忠明が横に並ぶ。身長も明石と変わらないな。

「いいのかよ、先生困ってたけど」
「元々俺みたいなのばっかりだろ、この高校。一応注意しましたってことだろ。それよりお前はいいのかよ? 俺と一緒に居たら絡まれるかもしれないぞ」
「もうセットになっちゃったよ」
「残念だったな」
「お前、けんか強いのか? おれのピチピチの肌を守れよ!?」
「言われなくても――」

 その顔には怪我させない。他は知ったこっちゃないが。

「おれ、昔から変なのに絡まれやすいんだよな」
「女みたいな顔だしな」

 下手な女よりは可愛いかもしれない。いや、明石に似た顔なんだから可愛いわけだが。
 明石、元気かな。あいつの彼氏も、馬鹿そうだと思ったが第一に入れたのだろうか。あの、明石を何とも思っていなさそうな男。ほんとむかつく。

「おいおいおいおい、今年の1年は派手なのがいるなぁ」
「……宇治川、知り合い?」
「んなわけない。何か用スか?」
「生意気そうだな」
「そうっすかね?」

 相手が上着を脱ぐので、俺も上着を脱いで忠明に渡す。向こうが動いたら殴ってしまえばいい。と、どんっと突き飛ばされた。

「坂井くん! ケンカはだめって先生と約束したでしょ!」
「飯野センセーかよ。マジ犯すぞお前」
「あのね、そんな脅しきかないよって、言ったでしょ」

 担任がにっこり笑うと、坂井という上級生は一瞬ひるんだ。担任はさっき俺におびえていたのが嘘のように、堂々と対峙している。
 細い後ろ姿。見たこと、ある気もする。兄貴がかわいいだろって見せてきた時か。

「宇治川くん、帰りなさい」
「いや、俺のケンカを邪魔すんなよ」
「あのね、担任してるクラスの子がケンカしたら私の評価に関わるの。私の目が届く範囲ではケンカさせない。帰りなさい」
「宇治川、帰ろうぜ」
「……」

 忠明が上着を押しつけてきたので、ケンカをしたかったわけでもないし、と歩き出す。忠明はとことこと歩きながら長く息を吐いた。

「あの先輩、また来そうじゃない?」
「まぁ、あの担任が止めれるくらいの奴だ。大丈夫だろ」
「飯野先生、評価がどうとか……、おれ、あれはなんか違うと思うなぁ」
「あれくらい冷めてる方がいい」

 一旦教室に戻って、荷物をとる。教室にはほとんど誰もいなかった。まだクライスメイトでもいればよかったんだろうけど、忠明の高校デビューは完全失敗か。俺は一人でいいと思ってたけど、周りに俺と友達だと思われたなら悪いことしたよな。

「お前、家どっち?」
「けっこう近く。おれ、地元遠くて一人暮らしなんだ。お前は?」
「俺は……東中の……それこそ、明石の家の近くだ。電車通学」
「お前、恵のこと明石って呼ぶならおれはどうするわけ?」
「忠明でいいだろ」
「そっか」

 駅で別れて、家に帰る。兄貴は部屋、親父は帰ってこない。シンと静まり返った家は、冷たかった。
 忠明と、連絡先も交換しなかった。

「俺も前途多難」

 難しい言葉を知っているのは、恵の影響だと思う。

「あいつに会いてー……」

 俺の髪やピアスに何も言わないのは、担任だけだった。毎日入れ代わり立ち代わり、誰かしらに注意される。忠明も黒染めしろと言う。
 別に金髪に思い入れはないが、黒染めする気はない。

「構ってちゃんだ、お前は」
「は?」
「牛」
「牛って言うな」
「大丈夫だ。お前の個性が減ろうとも、おれはちゃんと話しかけるぞ」

 小動物のように、頬にサンドイッチを詰めて忠明は笑った。

「……ねずみだな、タダじゃなくてチューだな、お前」
「おれがハムスターみたいに可愛いってことかよ」
「男はどうしたって可愛くねぇよ」

 俺が言うと、忠明はサンドイッチを頬張るのをやめて俺を上目遣いでじっと見た。明石――明石恵かと思った。
 可愛くない。こいつは男だ。目元も、口元も、確かに明石に似ているのにちゃんと男だ。

「牛」
「なんだねずみ」
「今日はうちで晩飯食っていいぞ」
「家に入られるの嫌じゃなかったのか」
「牛ならおれを襲わなそう」

 さらりと言われたが、詳しい話は聞いてない。中学の時の、忌まわしい記憶らしい。というか、それで知り合いが誰もいない高校に来たらしい。
 同情はするが、詳しく聞くつもりはない。
 さっきのような上目遣いとかがいけないんだろうとは思う。

「……改めて壮絶な中学時代だったようだな」
「おれが可愛いから」
「男は可愛くない」
「うん」

 忠明の家に泊まれたら、通学楽だな。
 あの冷たい家に戻らなくていいのは、ほっとする。
 構ってちゃん、か。
 確かにそうかもしれない。
 だけど、高校生なんてそんなもんだろ。背伸びしていた中学時代も、きっと、俺は誰かに構ってほしくて。うるさく構ってくれる女がいたから、誰とも仲良くなる必要もなくて。
 ――ミッツン。
 明石に、明石恵に、どうしても会いたくなった。