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永遠少年症候群

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ファンタジー、恋愛要素、ハッピーエンド多め。たまに暴力やグロテスクな表現があります。
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篠崎くんの傷心

 面と向かってロボットと言われるのは初めてで、少しだけ戸惑ったのは確かだ。悪意のないその言葉に思わず頷いたのは後悔していない。
 けれど彼女には堀田という彼氏がいて、しかも奴には何かよくわからない自信があるらしい。今思い出してもなんだか焦る。オレの方が絶対モテるのに。

「すいません、相席いい…あれ?篠崎くん?」

 歯切れのいいアルトボイスに顔を上げると、懐かしい顔が目に飛び込んできた。中学の同級生だ。
 そっか、この店、山代ん家の近くか。

「久しぶりじゃん」
「相席いい?」
「うん」

 トレーを引き寄せると、山代もトレーを置いた。相変わらず運動部なのか、片手で大量のハンバーガーが載ったトレーを軽々と持ち上げている。

「山代、元気だった?」
「うん。篠崎くんは?」
「オレ?まぁ…変わらず」
「そういえば、篠崎くんって得意教科なんだっけ?忍がね、第一高校行きたいんだって」

 変わらないなぁ、と思わず目を細める。
 この山代珠美の、気の強そうな目が好きで、少しだけ恋人だった期間があった。けれど幼馴染の話ばかりする彼女が妙につまらなくて、すぐに別れた。
 横溝忍。会ったこともない山代の幼馴染に、嫉妬したこともあった。けれどすぐにわかった。山代がオレより幼馴染を大切にしていたこと。嫉妬以前に、そもそもオレの出る幕じゃなかったのだ。

「オレ、中央高校だよ。第一に行く奴の勉強なんて見れないよ」
「あれ、そうだっけ。華宮じゃなかった?」
「華宮には行きたかったけどね、特待取れなかったから蹴ったんだ」
「そうなんだ。どう?高校は」
「んー…あんま同じ中学の奴いないし、けっこうつまんね。ロボットなんて言われちゃってさ」
「ロボットって。何?人工知能?」

 思わず山代の顔を凝視する。

「…何?」
「い、いや、それ言ったの、二人目だから…びっくりして」

 一人目って、大事なんだな。
――君も、鴨川さんに救われた一人なんだね。
――1人目、だよ。
 堀田がわざわざ訂正した意味も、今ならなんとなくわかる。こんな些細なことで鴨川さんを思い出してしまう今なら。

「その一人目の人が好きなんだ?」
「…フラれたけどね」
「うっそ、篠崎くんフるなんて信じらんない」
「それ、自分はどうなんだよ」
「えー?あたしがふられたんじゃん」

 けっこう、鴨川さんと山代は似てるのかもしれない。突拍子もないところや、オレが一番になれないところなんかが。
 誰かが好きで一生懸命な子が好きなんだろう。報われやしない。

「それで、山代は彼氏とかできたの?」
「あたしはさ、男の子の方から告白してきてほしいわけ」
「その『忍くん』はしてこないわけだ」
「そう。やっぱ、あたしはただの幼馴染なのかなー」
「山代が告白したらいいじゃん。言わなくて後悔するよりいいんじゃない?」
「…できないなぁ。あたし変なプライドは高くって」

 ハンバーガーを一つぺろりと食べて、山代は苦笑する。

「篠崎くんは、どうなの?ちゃんと告白したの?」
「いや、オレは人間だと思われてないんだって。人工知能って信じてるみたいだから」
「え…えぇ~?」

 意味がわからないというように山代が首を振る。オレだってなんでそんなことになったのかわからない。
 ふと窓の外を見た山代が、いきなり立ちあがって手を振る。

「あ、来た来た。忍、こっちだよ~」
「え」
「あたしがこれ一人で食べるわけないじゃん。会いたいってさっき言ってたし、ちょうどいいよね」

 横溝忍。中学生にしちゃがっちりした体つきだ。へぇ、こういうのが好みなのか。いや、この子だから好きなのか。
 だが、言わせてもらうなら見てみたいとは言ったが会いたいとは言ってない。

「あ、初めまして」
「ども。姉ちゃん、彼氏いるとこに呼ばないでくれよ…」

 ひそひそと文句を言っているのが聞こえて少しだけ笑ってしまう。それにしても『姉ちゃん』ね。

「友達だよ。たまたま会ったから相席したんだ。篠崎くんです。こちらは忍です。はいこれ、忍のハンバーガー」
「サンキュ」
「あ、ごめん電話だ」
「え?」

 オレ、初対面の忍くんと二人っきりですか。ちょっと、そういうの苦手なんですけど!
 居心地の悪い沈黙の中、忍くんはポテトを一つ摘まんで口を開いた。

「篠崎サンって、姉ちゃんの元カレっスよね」
「え、あぁ…まぁ、うん。情報通だね」
「詳しくは聞いてないっスけど、一週間くらい、篠崎くんがね~って話ばっかりしてた時期があって。なんで別れたんスか?理由がよくわからないってずっと泣いてたんスけど」
「オレはその一週間くらい、ずーっと忍がねーって話を聞かされてたから」

 思わず苦笑して言うと、忍くんは目を丸くした。飲み物を慌てて飲みこんで咽ている。

「珠美姉ちゃんが?」
「うん。だからオレ、あんまり君には会いたくなかったな。見てみたかったけど」

 忍くんは顔を真っ赤にして「俺もっス」と小さな声で言った。
 山代はすぐに戻ってきて、忍くんの腕を引き寄せた。傍から見れば、うざったいくらいラブラブな恋人達なのに。片想い同士の両想いか。
 山代がもう少し遅く帰ってきてくれたら、告白しろって発破かけたのに。

「ごめんねー、忍、それ持ち帰りにして帰ろ」
「えっ、うん、あの、それじゃ」
「またね。気を付けて」

 後姿を見届けて、思わず溜め息をつく。
 山代がオレのせいで泣いたことあるなんてね。知らなかった。きっと忍くんに泣きついたんだろう。それを彼は、不器用に慰めたんだろう。

「女って、わかんねー」

 まぁ、楽しいからいいのだ。ロボットだと思われてても、幼馴染の大切さを力説されても。
 オレはまだしばらくは、鴨川さんを好きでいるだろう。あぁ、もう、報われないなぁ。

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