永遠少年症候群

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    パープルのピアス

    「定本!」
    「…はよ」
    「おはよ。あのね、今日はね、6位だった。ビミョー…」
    「うん」
    「それでね、定本はね、4位だったよ」
    「そうか」
    「あとね、見て。今日のピアス、ラッキカラーなの」
    「ほんとだ。紫だ」
    「パープル!」
    「一緒だろ」

     三浦と付き合い始めてから何かが変わったということもなく、いつものように朝の情報番組の占いを見て、5分ほどしてから家を出ると三浦がうちの前を通るので一緒に学校にいく。
     何かが変わってほしいと思っていたわけではないが、あまりにも変わらないので拍子抜けした。占いで俺の星座までチェックしてくれるようになったくらいか。
     それもそうか。元々、周りには付き合っていると思われていたくらいだ。元がベタベタくっつきすぎだったのだ。
     手でも繋ごうかと手を伸ばすと三浦は一瞬引きつったような笑みで俺を見た。

    「定本」
    「何」
    「暑いからもうちょっと離れて!」

     相変わらず三浦は理不尽だ。理不尽でかわいい。

    「ねぇ、定本今日ひま?うちでテスト勉強しない?」
    「いいよ」

     三浦の部屋は。

    「………」

     いい匂いがした。

    「あ、定本!着替えるから出てって!」
    「は?」

     何がどうなって彼女の家の廊下で立ち尽くさなきゃいけないんだろう。目の前で豪快に着替えてほしいというわけでもないが。つーか我慢しろ。

    「いいよー」

     三浦は、ドラマで女優が着ている何か可愛い部屋着などではなく、変な色の中学ジャージを着ていた。
     いや、いいんだけど。別に三浦本体が可愛いからイモっぽいジャージでもいいんだけど。

    「何も考えてないっしょ」
    「えー?」
    「テスト勉強、何すんの」
    「んー…」

     三浦がデスクの上に並べられた教科書を指さしてゆらゆら揺らしながら悩んでいる。その指先には、先日教室で塗っていた赤いマニキュアがきれいに塗ってある。

    「…現社!」
    「じゃあ俺数学。教科書貸して」
    「うん」

     俺を見る時に、あの先輩を見つめていたときのように目がキラキラしている感じでもない。
     俺の前でわざわざ着飾ろうとかそういう考えも皆無っぽい。
     三浦は、本当に俺のこと好きなんだろうか。

    「三浦、キスしていい?」
    「やっ、やだっ」

     あ。
     何だその全力拒否。

    「お、怒ったの!?」
    「別に…」
    「キスしないと、怒るの!?」
    「や、怒ってないから」

     三浦の方が怒ってるんですけど。真っ赤になって怒ってる。

    「もー…やだ…」
    「あ?」

     やだってなんだよ。拒否からの拒絶って超傷付く。別れ話の流れだろ、コレ。完全に。
     俺まだなんも…付き合って一回も三浦が笑うとこ見てないんだけど。いいのかこれで。なんだったんだこの数日間。片想いし続けた1年は。

    「さ、定本はねぇ、慣れてるかもしれないけどね!あたし、か、彼氏とか初めてだし!なのに!当たり前のように手繋ぐし!当たり前じゃないの!心の準備がいるの!キスとかもっとそうなの!!」
    「…はぁ」
    「あたしはねー、そういう…定本みたいに平気でできないの」

     泣き始めた。
     さっきまで怒ってたくせに。

    「にぎやかなやつだな」

     袖でごしごし涙をぬぐうと、どんっと突き飛ばされた。

    「化粧崩れるでしょ!」
    「お前なぁ…」

     理不尽すぎる。
     三浦の手を掴んでにじり寄ると、三浦は少しだけ引きつった笑みを見せた。おい、もしかしてこの顔がお前の照れ顔なのかよ。それとも嫌なのか?

    「俺だってそんなに経験あるわけじゃねーし」
    「…」
    「でも、好きだから、ちょっとでも近くに行き」
    「いやーっ」

     どーん、と両手で突き飛ばされる。またかよ。

    「きょ、今日はだめ!お化粧崩れてるもん!」
    「お前…!俺今すっげーいいこと言おうと」
    「お前お前って!あたしには静香って名前があんのよ!!」
    「静香!」
    「何よ!」
    「ちょっと黙れ!」

     ぎゅうっと手を握ると、三浦は真っ赤になって黙った。

    「し、しずかって呼んだ」
    「悪いか」
    「悪くない」
    「俺、お前の口から俺のことどう思ってんのか聞いてない」
    「す、好きよ!悪い!?」

     悪くない。

    「全然、悪くない」

     むしろいい。
     三浦の頬に片手で触れて、そのまま首の後ろまで髪を指で梳く。ゆっくりと近付けていく。…と、ものすごい勢いで突き飛ばされた。
     正直そうくると思った。

    「今日はだめって言ってるでしょー!!?」
    「…あとちょっとだったのに」
    「キスしなかったら怒るの!?」
    「怒ってねーよ」

     三浦が真っ赤になって両手で顔を覆う。

    「定本が恥ずかしい」
    「俺がかよ」
    「わ、私、ゆうちゃんの言うとおり変なフインキにならないようにジャージ着たのに」
    「誰だゆうちゃんって…」
    「イチコーの友達…」

     第一に友達なんていたのか。余計な入れ知恵しやがって…。
     まあ、好きって言ってくれた分、一歩前進だな。

    「テスト勉強するか…。教科書貸してくれよ」
    「うん。どっちがいい点取れるか競争ね」
    「俺が勝ったらアイス買って。高いやつ」
    「やだー。じゃあチロルね」

     じゃあって何だ。

    「あたしが勝ったら…遊園地行こうね。絶叫系乗る」
    「え、やだ」
    「乗るの!」

     今日も三浦は、理不尽でかわいい。

    三浦は理不尽かわいいというジャンル。

    2013/05/20公開