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永遠少年症候群

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ファンタジー、恋愛要素、ハッピーエンド多め。たまに暴力やグロテスクな表現があります。
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夏を待っていました

 空は悔しいほどに晴れ渡り、真っ黒な服のマサトシとは対照的だった。少し遅れてやってきたヤスヒトは、空と変わらないくらい真っ青な顔だというのに。

「もういいよ」
「……行くか」

 入り口脇にある灰皿に煙草を押し付けてマサトシが呟いた。僕らは神妙な顔で頷き合い、タイヘイの葬儀場へと足を踏み入れた。
 タイヘイの遺影は高校生のときに撮ったものだろうか、あの頃よりも大人びた顔で、あの頃のように笑っていた。

「タイヘイってさ、高いところとかも平気だったよな」
「そうだな、あの時も鉄橋にぶら下がろうぜとかさ」
「飛び降りるときも怖くなかったのかな」
「……おい、その話は」
「……悪い」

 二人がうつむいてしまったので、僕はなんとなく天井を見上げた。
 さっき口にした疑問を改めて考える。タイヘイは飛び降りるとき、怖くなかったのだろうか。
 タイヘイが飛び降り自殺だったというのは噂としてすぐに知れ渡った。自殺を信じない人もいる。飛び降りる直前まで一緒だったというタイヘイの友達は、猫か何かを追いかけて走り出して落ちたという証言をした。

「マサトシ、僕……、タイヘイから連絡きてたんだ」
「いつ?」
「タイヘイが死ぬ三日……四日前かな」

 葬儀が終わり、やっと一服とばかりにマサトシが煙草を取り出す。あんなに嫌っていたおじちゃんの吸い方にそっくりだった。というか、あの時小6で、それから7年なんだからまだ未成年だよな。一瞬自分の歳がわからなかった。僕の時はあの時から止まったままだ。
 小6、小学校最後の夏休みを目前に控えた、あの冒険から。

「……かくれんぼしたよな、最後にさ」

 あの冒険の話だ。ヤスヒトはハンカチで汗をぬぐって、ファミレスを指差した。

「長くなるから入ろう」
「そうだな」
「賛成」

 ファミレスでは煙草を吸う席に通された。マサトシとヤスヒトが向かい合わせに座るので、一瞬どちらに座るか迷ってヤスヒトの隣に座った。

「それで、タイヘイからの連絡って?」
「これ」

 ヤスヒトは携帯電話のメールをマサトシに見せた。マサトシはそれを取り落とし、ヤスヒトは黙ってその様子を見つめている。二人とも顔が真っ青だ。

「僕にも見せてよ」
「冗談だろ? 悪い冗談だ」
「……どうする?」
「あの冒険の続きをしないといけない……ってことだよね……、これ」
「見せてくれないのか。もういいよ」

 あの時、僕らはどきどきしていたし、わくわくしていた。映画のように廃線になった線路をひたすら歩いた、あの時。そして、僕らの関係を決定的に変えたあの時。

「楽しかったよな。言い出しっぺはコウタだったよな。川の向こうに廃線見つけたって」
「うん。母ちゃんに連れてかれた神社の帰りに見つけたんだったかな」
「マサトシ、ピカピカの自転車に乗ってきたよな」
「そうそう、水筒なんか首から下げちゃってさ」
「ヤスヒトは途中で疲れたって泣いたよな」

 あの日のことが昨日のことのように蘇ってくる。
 マサトシのマウンテンバイクも、タイヘイの提案で鉄橋にぶら下がったことも、ヤスヒトが泣いたことも、かくれんぼも全部覚えてる。
 大きな川沿いの廃線から、鉄橋を境に夏草が生い茂る河原へとおりた。かくれんぼをしたきっかけは、ヤスヒトだったと思う。疲れたとしゃがみ込んだヤスヒトがすっかり隠れてしまったので、そんなことがとても面白く感じて始めたかくれんぼだった。

「……僕、一瞬だけ思ったんだよ。山の上に黒雲がかかってるなって。なのに、目の前の川の危険とは結び付けなかった」
「小学生にそんなことできるかよ」
「でも、気付いてれば――……」

 僕はあの日、河原に建っていた……というより、置いてあったという方が近いような、ボロボロのプレハブの中に隠れた。膝を抱えているとき、ドドドドド、という轟音を体中で感じた。

「気付いてれば、コウタが鉄砲水に飲まれることはなかった」
「なぁ、もういいだろ? 続きを早く始めようよ。もういいよー!」

 びくっとヤスヒトが体を震わせる。

「……もういいよって聞こえた……。今度はたぶん、僕の番だ」

 画面がつきっぱなしの携帯電話には、タイヘイからのメールが表示されたままだ。

『コウタがもういいよって言ってる。コウタを探さないとヤバイ』
『俺と仲良くなったダチが大怪我する。たぶん新しいダチにコウタが嫉妬してんだって坊さんに言われた』
『あの川んとこ、ビルになってる』
『まだもういいよって言ってる』
『もう嫌だ。おかしくなりそうだ』
『てめぇなんで既読無視してんだよ』
『もういい、見つけた』

「タイヘイは一抜けしちゃったから、次の鬼はヤスヒト! もういいよー」

 僕はまだ見つかっていない。かくれんぼは、まだ続いている。


 amazarashiの夏を待っていましたをイメージソングにしたお話。
 歌詞では登場人物の名前には漢字が当てられているのですが、このお話は勝手に想像して書いたものなのでカナ表記にしています。コウタは名前作った。著作権は放棄します。

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