永遠少年症候群

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晴れの学校

 それはたぶん、偶然だった。生徒会室の近く以外で見るなんて珍しい。そう思って、ちょっとテンション上がった。

「会長!」
「ん?」
「!」

 角から姿を現した会長の横には、教育実習生の先生。べったり隙間もないくらいにくっついていた。

「おぉ」

 よっと気さくに手を上げるのは相変わらず。だけど、その左にいるのは何なの。
 教育実習生の先生。大学生の、女の先生。21歳だっけ。3歳も年上じゃん…。
 先生は、見透かしたような目でこちらを見て、鼻で笑った。
 イラッとする。何でこんなにイライラするんだろう。おかしいよね。私別に彼女じゃないし。友達だし。会長が彼女いるとか考えたこともなかったけど。

「…何…?」
「何か言った?」
「…えっと。…ううん、何でも…」
「じゃ、ちょっと帰り急ぐから、またな」

 何、楽しそうに話してんの…。何でもう振り返りもしないの…。
 ぺたん…と、思わずその場に座り込んでしまっていた。…え?教育実習生の先生って、まだ1週間しかいないよね。それとも、もう1週間…?
 何も言えなかった…。言いたいことを飲み込むのは私の悪い癖。知ってる。知ってた、けど。
 ごしごしと涙を制服の袖で拭き、立ち上がる。スカートや太股についたごみをはたき落とす。パン、と両手で自分の顔を叩いて気合いを入れる。

「見てろよ、おばさん…」

 独りごちると、少しだけ笑えてきた。おばさん。直接言ったらどんな反応するんだろう?
 スカートだとか、荷物を置いてきたとか、関係ない。体育の時でも見せたことないくらいのダッシュで駅まで向かう。

「!」

 いた。いたよ、やったよ私。間に合った。

「かい、ちょっ」
「…?」

 生徒会長が振り返る。前髪、走ってるからおでこ出てるよね。どうしよ、何て言おう。

「ま、って!」

 やった。

「つか、ま、えた…っ」

 腕を掴んで肩で息をしていると、会長は驚いた顔で立ち尽くしている。

「どうしたんだ、お前。大丈夫か?水飲むか?」
「あのっ、私、あんな、あんなおばさんに会長取られんのやだ…っ」
「おばさん?」
「私の方が若いしっ、会長が飴隠し持ってるって知ってんの、私だけで、それで!」
「ま、待て。待て。落ち着け」

 がっとミネラルウォーターのペットボトルを口に突っ込まれる。

「自分で飲むか?俺が傾けるか?」
「いぶんでろむ…」

 呼吸を整えて、水を流し込む。あ、なんか気分も落ち着いてきた。ごくごく水を飲んでいる間に、ベンチに連れていかれた。

「落ち着いた?」
「うん」
「それで、どうしたんだ。俺、電車逃したんだけど」
「あの、彼女さんはどこに…」
「カノジョなんていねぇよ。わざわざ嫌味言いに来たのか?」
「あれ」

 じゃあさっきのは。腕絡めてて。それで、ひそひそ楽しそうにお話しちゃって…。

「せ、セフレ!?不健全だよ会長見そこなったよ!」
「何の話だ不名誉なこと言うな!自己完結するな!」
「………。教育実習生の先生と、べたべたくっついて歩いてたよね」
「…べたべたくっついてたんじゃない、捻挫したって言うから肩貸してたんだ」
「ねんざ」
「捻挫」

 あの、なんというか。空気が重い。

「……あの、じゃあ、帰ります」
「待てコラ」
「だって!だって!!!恥ずかしい!」
「何が!」
「勝手に勘違いしてっ、わた、私っ、私の会長取られたって思ってっ」

 あ、やばい。なんで。やばい。

「そりぇでぇっ、とられんの、嫌でぇっ!私の、かいちょ…っ、う、うぇ…かいちょ…うー…」

 ズズッと鼻水が垂れそうになるのをすする。
 涙止まんない。止まんない…っ。かっこ悪…!

「俺はいつからお前のものになったんだ」
「わかんないっ、すきなの…」
「ん」
「好きぃー…」

 涙が落ちるのが嫌で、天を仰いだ。でも会長がいなくなったら嫌で、掴んだ腕は絶対放さなかった。
 会長がぽんぽんと頭を軽く叩く。

「じゃあさ、今からちゃんとお前の会長になるから泣きやめよ」
「私のとかっ、会長はモノじゃないもんー…っ」
「何なんだよお前」

 くくっと会長が笑う。ぐっと指の腹で涙を拭かれる。いつも動くのが不思議に見える、長い指。

「泣き顔、ブサイク」
「な…!」
「あとね、」
「ん」
「俺も、好き」
「……ん」

 だいすき。