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永遠少年症候群

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ファンタジー、恋愛要素、ハッピーエンド多め。たまに暴力やグロテスクな表現があります。
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恋人たち

 即席の魔王城は人間たちが魔の地と呼んだ小大陸の中央に位置し、平地が広がる東側には、海がぼんやり見えた。呆れるほど遠くにあるはずだから、本当は海じゃなくて蜃気楼なのかもしれないけど、僕には関係なかった。
 やらなくてはならないことがたくさんある。
 この大陸でうまく生態系を保てているか見なければならないし、偽神が隠れている神界を開く準備もしなければならない。魔王業は意外と大変だ。
 そして、ギルドが取り潰しになって自棄を起こし、魔の地へ来る過去の冒険者が日に日に増え、魔物の引っ越しから1年経った今では毎日のように冒険者が現れるようになっていた。毎回、魔物たちが傷付けられる前にガーディーが転移魔法で帰している。

「魔王様、東の海岸に船が」
「またぁ? いつもみたいによろしく」
「いえ、今回は海を隔てた王国からの使者です。行きますぞ」
「え、まだ、心の準備がぁぁぁ」

 ガーディーの転移魔法で、久しぶりに海へ来た。既に澪標が仁王立ちで使者団と相対しているところだった。
 使者団は疲労の色が見えるが、気丈に並んで立っている。

「……こんにちは、何かご用でしょうか」
「あなたが、魔王ディスペア様でしょうか。私どもはザディーロ王国の使者。王より、書状を」
「用件だけお願いします」
「その……姫様を、どうか妃に、と」
「……は?」

 並んで立つ使者団が両側に分かれると、僕の正面に青白い顔をした女性がちょこんと立っていた。確かに、美しく着飾っているし本人も美しい。

「……えーっと――……、そうだなぁ。とりあえず、部下に送らせるので疲れを癒してください。返事は帰るときに」
「いえ、我々はもう」

 姫がチラリと使者の一人を見た。その表情は相変わらず蒼白だが、瞳に宿る感情が読み取れない。しかし、普段は騎士か何かなのだろう、よく鍛えられている使者の方は表情を取り繕えないほど、寂しげに目をそらした。
 ありありと二人の関係が見えてしまい、僕の方が赤面しそうだった。
 彼女のためにと国へ帰しても、彼女が肩身の狭い思いをするのだろうか。他の政略結婚の道具にされるのだろうか。
 とにかく全員を魔王城でもてなすことにして、宴会を催した。

「ま、魔王様」
「はい?」

 僕の部屋を訪れたのは姫だった。あんなに青ざめていたのに、意外だ。

「その……夫婦に、なるのですから、夜を共に」
「それは誰の命令ですか? 使者の人は監視役?」
「……」

 姫は、正直に黙りこくった。肯定だ。
 ソファーを勧めると、姫はちょこんと座った。

「名前は?」
「キニアです」
「キニア姫、僕は自分の結婚相手は自分で選びたいと思っている。あなたを献上だなんて、ひどい話だ。あなたがいなくても、僕があなたの国を侵略することはない」
「……王は……父は、そうは思いません」

 だよなぁ。

「……そうだ、もう夜遅いが、城内を案内しましょう。こちらへ」
「え?」

 城内、その中心部にはガーディーが移転させた教会がある。ちょうど、ダリオさんが聖剣に水を吹きかけていたところだった。ダリオさんはこのところ、聖剣の材質などを調べているらしい。錆びさせようとしているのだろうか。

「教会が……」
「ダリオさん、こちらザディーロ王国のキニア姫。姫、こちらはダリオさん。人間だよ」
「こんばんは。姫君が魔の地へ……どうなさったのですか?」
「政略結婚のために送り込まれてきたんだよ。ダリオさんがどうしてここにいるのか話してもいいかな?」
「えぇ。情けない話ですから、せめて自分の口から。キニア姫、粗末な椅子ですが、かけてください」

 姫がダリオさんと話す間、ドアの外に立つ使者に話しかける。

「盗み聞きとは趣味がいいですね」
「……いえ、用を足しに」
「あまり嘘を吐かれるのは好きじゃないんだけど……」

 姫をつけていた使者が去るのを見送って、姫を見遣る。ちょうど、懺悔を終えたキニア姫が泣き崩れているのを、ダリオさんが静かに慰めていた。

「ここに住むかい? キニアさん」
「……はい」

 翌日、船の前でキニア姫を挟んで使者と言葉を交わすことになった。

「さて、改めて返事ですが……、ザディーロ王には、嘘を吐かれるのは好きではないとお伝えください」

 腰に差していた剣を抜いて姫に斬りかかる。鋭い刃がドレスを切り裂き、レースと赤い液体が舞う中倒れる姫の傍にすぐさま飛び出してきたのは、視線を交わし合っていたあの青年だ。その青年も斬り伏せると、使者たちはじりじりと後ずさった。

「ザディーロ王に息子しかいないことは知ってる。余計な真似をすると命を縮めると伝えろ。行け」

 バラバラと駆け出し船に乗り込んだ使者たちが離れるのを見計らって、キニアさんが起き出す。赤い果物の果汁が甘いにおいをさせているのでバレないかとハラハラしたが、気付かなかったようだ。

「不思議です……。確かに服は切れているのに」
「これは聖剣ですからね。僕以外の生き物は斬れないんですよ」

 無理矢理台座を壊したからところどころ岩がついたままになっているけど、まぁいいか。

「……! ダッシュ!」
「あぁ、彼は説明する暇がなかったので気絶してもらいました。恋人なのでしょう?」
「気付いていたのですか……」
「あんなに見つめ合われてはね」

 キニアさんが肩をすくめると、ダッシュという青年を揺り起こそうとした。それをガーディーが止める。

「寝ているわけではないのですぐには起きません。運びましょう」

 これで、人間が5人か。この調子で増えてもらっては困るな。けど本当に共生はできないのだろうか。僕の前を、ダッシュさんを担いだツヅラとキニアさんが並んで歩いている。そんな姿だけを見ていると共生も共存も可能のような気がする。
 魔物は植物と魔物の中で食物連鎖が完結しているため、そもそも人間を襲う必要はないはず。

「ツヅラ、キニアさん達はダリオさんに預けて。ガーディー、相談があるんだけど」
「はい」

 僕の部屋に入ると、ガーディーは開口一番に婚活の話を始めた。

「なぜあの若者を置いたのです? あのキニアという娘でも良かったでしょう」
「あのね、キニアさんにはダッシュさんがいるでしょう。僕はちゃんと好き同士じゃないと嫌なんだよ」
「……子どもではないのですから。世継ぎが必要なのですよ?」
「あのさ、ガーディーは僕が偽神に負けると思ってるの?」
「いいえ。しかし万が一にも血を絶やしてはなりません。この際感情などどうでもいいので一人に絞らず何人でも」
「嫌だよ! 最初に紳士的にって言ったのはガーディーだろ。というか、僕が呼んだのはそういう話じゃない」
「おや、違いましたか」

 ガーディーが肩をすくめる。

「この大陸だけでも人間と魔物は共生できないかと思ってさ。魔物は人間を食べるわけじゃないし、人間が育ててる野菜も羊も食べないだろう? あの新しい四天王の一角たちは復讐と言ったけど、始めは偽神の指図で、それからは復讐と報復の連鎖だと思うんだ。だから、ここではその復讐の連鎖を断ち切って、共生を目指す。どうかな?」
「……理想論ですな。魂に刻み込まれた復讐の炎は、消せと言われて消えるものではないでしょう」
「人はさ、敵対していても共通の敵が現れると手を組むよね。人間の王国同士もそんなに仲良くはないけど、魔物という脅威があって、手を組んでいた」
「偽神を世界の敵にすると?」
「そう。そこで賢者様と神父様の出番」
「難しいでしょうな。わしが四天王ということは、カレンによって既に知れ渡っているでしょう」
「カレンか……」

 ここぞという時に邪魔だな。
 共生の道は完全に閉ざされたわけではないが細くて頼りない。この道を進むわけにはいかないようだ。
 それから、僕はガーディーに連れられて人間の国にナンパをしに行くこととなった。澪標は反対していたが、ガーディーがどう丸め込んだのか何も言わなくなった。
 毎日声をかける人数にノルマを課せられ、何も楽しくないし成果はまるで挙げられていなかった。ピンと来る子もいない。

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