永遠少年症候群

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神話

「魔王様、ご両親、そして神官。あなた方が知る英雄譚は、所詮、勝ったものが伝えている偽りの美談です」

 この中で誰よりもその美談が大好きで勇者を目指していたのは僕なんだけど。

「我ら四天王が」
「わらわはもう側近で、ガーディーの上司です」
「……わしや青蛇が」
「わらわを同列に考えないでくださいまし。その青蛇というのも失礼です」
「……澪標? 他の四天王に心当たりがあったら連れてきてくれる? えーと、その、側近の君にしか頼めないから」
「はい! 承知しました魔王様!」

 澪標がスキップで出ていくのを見送って、ガーディーがごほんと咳払いした。

「ありがとうございます。魔王様。あやつが戻ってきたら体制を見直しましょう」
「はい……」
「それでは、講義を始めますぞ。我ら四天王が先代魔王様に聞いたお話と、事実の……」

 創造神が世界を創った際に、創造神は人を導く人間に魔法を与えた。しかしその人間は魔法を一人占めし、神を名乗った。
 偽神は魔物を創り出し、抗議する人々を襲わせた。

 人々は、襲い来る魔物から少しずつ魔法を研究し、魔法を使えるようになり対抗する術を手に入れていった。

 危険な中でも人間が平和に暮らし始めた時期に、創造神が与え偽神が捨てた魔法を打ち消す力を偶然拾った少年がいた。その少年は魔法を使う魔物に対抗し、英雄となった。
 英雄はその血により受け継がれ、代々英雄として偽神を打ち倒そうとしてきた。幾代目かの英雄もまた、偽神を打ち倒す旅に出た。その英雄は人の言葉を解す四体の魔物すら仲間に引き入れ、偽神にあと一歩のところまで迫った。

 魔法を打ち消されてしまう偽神は、英雄を人間に倒させることを思いついた。
 時代を経て魔物に対抗することに気を取られ神と戦う理由を忘れた人間が増えた頃、偽神は英雄を魔王と呼び、魔物を引きつれて世界征服を企むものと流布した。そして勇者という人間を指名し、聖剣と称した英雄のみを傷付ける剣を与え、勇者が死ねば生き返らせ、魔王が力尽きるまで戦わせたのである。

「……そんな……」
「では、私達はその偽の神を信仰していた……?」
「左様。偽の神は人間の怒りを自らからそらすことで、本来英雄である先代魔王様を打ち倒した。そして、力を蓄えるために魔王様の家系はひっそりと暮らし始めたのです。……大体、復活の加護と言いますが死してなお生き返らせ戦わせることこそ、人間を道具としか見ていない証。祝福でも何でもない」

 神官がかぶっていた帽子をとり握りしめた。

「……」
「神官さん……」
「世界の常識が根底から覆されたのです。素直にすんなり信じるとは言えません。しかし……、どこかで、納得している自分がいる」
「わしは息子には伝えとったんじゃがのう」

 おじいちゃんが言うと、父さんが肩をすくめた。

「どこがだよ。俺は魔王だなんて言われても気が狂ったのかと思うに決まってるだろ」
「魔王さん、」
「ディスって呼んでください」
「ディスさん、私はますます、帰るわけにはいきません。私は、生きて、あなたの活躍の先で本当に信仰するべきは創造神であると伝えねばなりません。回復魔法も使えますし、使ってください」
「三人目の配下は人間でしたのう。人間の子よ、名前は何と言うのじゃ?」
「ダリオです」
「よろしくね、ダリオさん」

 ガーディーが目を細めたとき、澪標が帰ってきた。心なしかしょんぼりしている。後ろには、かなりいかつい鎧をまとった魔物がいる。僕の背後にいる両親やダリオさんに緊張が走ったのが背中越しでもわかった。

「魔王様、こちらは武術を極めたツヅラです。……もう一体の四天王であるオーククイーンのマリアンヌは何者かに倒されたようで……」
「ツヅラ、よろしく」
「魔王様、拙者が盾になります! お任せあれ!」

 ツヅラがびしっと頭を下げる。ツヅラは澪標やガーディーと違って人の姿にはなれないようで、顔が犬のように細長く、肌が真っ黒だった。鎧がガシャガシャと音を立てている。
 そういえばオーククイーンって、カレンと再会したときのでっかいオークのことじゃないだろうな? あのオーク、喋れたのか……? 怒りで喋ることも忘れていただけ?
 あの時は正義のことだと思ってたけど、なんか……罪悪感が……。

「ちなみに……ちょっと気になるから聞くだけなんだけど……アイスドラゴンとかは……知り合い?」
「いいえ。あの種族は獰猛で話が通じませんから」
「そ、そっか」

 僕が今まで倒してきた魔物も、魔王と呼ばれるきっかけとなった殺してしまった人も、大切な誰かがいたのだろうか。
 僕が殺してきたのは、誰かの大切な人や魔物。
 みんな、僕に期待してる。いい人であれ、正義であれ、と。
 だけど僕は、もう、この手を汚してしまっている。カレンの体が汚いなんて、僕が言える言葉なんかじゃなかったのだ。

「……後悔してはなりませんぞ」
「え?」
「マリアンヌは、どちらが先に仕掛けたにせよ人と対立したのでしょう。アイスドラゴンとて、人に被害を出した。それは我々も本意ではないし、討伐されても仕方のないこと」

 知っていたのか察したのかはわからないが、それはきっと、僕が言ってほしい言葉だった。
 ここで「でも」とか「だって」とかごねても仕方ない。
 ガーディーも澪標も、おそらく僕を甘やかし正当化する手伝いをしてくれるだろう。それを僕が望むのなら。

「……ありがとう。それじゃこの話は終わり。四天王って四人も必要なの? 人間が攻めてきたら僕も戦うし……」
「四天王は、ただの戦闘要員というだけではありません。神界を開くために四体で結界を張る必要があるのです」
「それじゃあ、澪標とガーディー、ツヅラと、ダリオさん」
「いえ、ダリオは戦えますまい。結界を閉じさせようという敵勢力に対抗しうる力を持つものでなければ」

 ある程度戦える者、か。

「あのさ、喋れる魔物ってそんなに都合よく四人だけ現れるものなの?」
「いえ、けっこういますよ。ただ、先代魔王様の時代から生きている者はわしら三体というだけです」
「それじゃ、そのみんなをできるだけ集めて、みんな仲間にしよう」
「一筋縄でいく連中ではありませんが……」
「大丈夫だよ」

 話がひと段落したところで、両親やダリオさんの寝床をどうしようかという話になった。

「一応、修道士たちのための粗末な寝具はありますが……。地下も一緒に移動しているのでしょうか? 案内します。こちらへ」

 ダリオさんが地下へ両親を案内していく。僕も、一人になれる部屋がほしいなぁ。

「ガーディー、わらわの泉もこの教会の横に転移してくださいまし」
「何故?」
「何故って、わらわは魔王様の傍に控えておかねばなりませんもの」
「貴様にも転移など容易だろう。本来の姿ならば、な」
「本当に嫌な奴ですわね! どうせこの建物を転移して魔力切れでも起こしたのでしょう。ふん!」

 澪標が教会から出て行った。澪標の本来の姿、人魚のような姿になるのかな。何度見ても綺麗なんだよな。

「魔王様、見ないでやってください。あいつも、本来の姿を見られたくなくてわしに頼んだのでしょう。まったく、魔力切れは図星なのでございます」

 ガーディーは教会の椅子に座って天井を仰ぎ見た。

「な、仲良いよね」
「まぁ……若気の至りでいろいろありましたから」
「もしかして今恋バナしてる?」
「……まぁ、そんなところでございますね」

 ガーディーと澪標。だめだ想像つかない。今はそんな関係なんて微塵も感じさせないけど、今も信頼し合ってるのはいいなぁ。
 僕はどこで間違ったのだろう。カレンだけのせいとも言い切れないのかな。いや、でもあれは本当にひどいよな……。人間不信にもなるよ。

「ところで魔王様、伴侶のあてがなくなったようですがご世継ぎはどうされます?」
「は?」
「ご両親は高齢ですから、魔王様が伴侶を見つけるしかありません。魔王様の力は血筋で継承されていくものですから……。第二、第三の偽神が現れないとも限りませんし」
「……はい」

 来月で三十歳。
 もしかして、ガーディーには偽神を倒してからっていう選択肢はないのかな。そうだよね、偽神が倒せる保証なんてないし。となると、僕は魔王業と婚活をいっぺんにしなきゃいけないのか。

「……伝承の魔王らしく、どっかからお姫様さらってくる?」
「それでは本当に悪者になってしまいます。紳士的になさってくだされ」
「……はぁ……。難しいなぁ」

 女性にアプローチってどうしたらいいのかわからないな。
 まず、女性がいないからな。
 婚活の方がよっぽど絶望的じゃない?

 ずらりと並んでいる魔物を前に、思わずため息が出た。

「全員見覚えあるよ。討伐依頼が出て、僕が討伐しようとしたら逃げた奴らだ」

 相手の力量を図る知能があるから喋ることもできるのか、喋ることができる知能があるから相手の力量を測ることもできるのか……。
 正直、そうじゃないかって気はしてたけど。

「ガーディーから話は聞いてると思うけど、僕は魔王として神と戦わなきゃいけない。人間と争ってる暇はないんだ」
「その間にあっしらが人間を襲えばいいんですね!?」
「お前、話聞いてた? 人間と争う暇はないの。君達には、四天王になってもらうよ」
「よ、四体以上おりますが?」
「四天王は四ヵ所で結界を張るためのものだから、澪標とガーディーとツヅラで一人一ヵ所、ここにいるみんなで一ヵ所。文句があるならかかってくるといい」

 魔物たちはおとなしいものだった。

「それと、人間はもう襲わないでほしい。みんな、食べ物は人間じゃないんだろう?」
「……俺達に何か見返りはあるのですか? 人間から迫害されて、親や兄弟を殺されても復讐するなと?」
「それじゃ、神の思うつぼなんだよ。この魔の地にみんなで暮らそう。食物連鎖は受け入れてきたんだろう? この大陸の中で本来の生態系を取り戻そうよ。僕が責任を持って各地に通達を出す」

 魔物たちは、おぉ~っとどよめいた。

「あの……、そこにいるのは人間ですよね?」
「僕も人間だけどね。この人達も人間に迫害を受けたから一緒に暮らすし、君達を迫害しない。喧嘩くらいはするかもしれないけど、基本的に仲良く暮らしてくれればいいさ」
「魔王様、本当にそのような理想論がうまくいくのでしょうか」
「……上手くいかない要因があれば、排除していく。それじゃあ、みんな、自分の仲間を連れてきて。猶予は一週間。その後は、魔の地に立ち入る人間が死のうが、人間を襲った魔物が討伐されようが、自己責任だ」

 魔物たちは散り散りになった。

「ダリオさん、各地の王に手紙を書きましょう。手伝ってもらえますか?」
「えぇ。もちろんです」
「澪標とガーディーは、うちの牧場を持って来てもらえる?」
「はい」
「ツヅラは魔王城の建設だ」
「お任せあれ! どうにかなりましょうぞ!」

 適当に言ったけど、本当にどうにかなるのだろうか。
 僕とダリオさんは、手分けして手紙を書いた。

・二代目魔王の名において、全ての魔物たちを魔の大陸に引っ越しをさせることにした。また、親兄弟を殺された報復さえも辞めるように命じた。
・その引っ越しの猶予を一週間とし、その間魔物の討伐を控えてほしい(その間に人間を襲った魔物に関してはこの限りではない)。
・上記の討伐を控えることが破られた場合、無抵抗の者に鞭を打つ行為であり、報復は覚悟しておいてほしい。
・一週間を過ぎて魔の大陸にいない魔物に関しては討伐されても報復はない。
・一週間を過ぎて魔の大陸に許可なく立ち入った人間に関して、安全は保障しない。

 以上五点をまとめた内容だ。

「ダリオさんはどう思います? これ、うまくいくと思います?」
「うまくいってほしいと思います。しかし、まず自分が許すというのは、聖職者でも難しいことです。それを魔物のみなさんが不満に思うかもしれません。その時は、ディスさんがガス抜きをしてあげる必要があるかもしれませんね」
「ストレスが溜まるってことかぁ。……それと、僕が神を倒したら、ダリオさんや母さんには魔の地から出てもらった方がいいかもしれませんね」

 そこに、僕はいないとしても。
 各地の王から了承を得るために約束を取り付けようとしたが、答えは全て「了承するから来ないでくれ」というものだった。あの、平民であった僕の話をきちんと聞いてくれた王でさえ。
 人間の姿で澪標やガーディーに様子を探ってもらったが、魔物を討伐しないことというお触れはきちんと出回っていたそうだ。魔物たちの引っ越しもつつがなく終わり、こうしてとりあえず、人間と魔物のすみ分けができたのである。