永遠少年症候群

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ファンタジー、恋愛要素、ハッピーエンド多め。
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    聖剣を手に

     僕のおじいちゃんは、セントラル大聖堂のあたりで暴れて逮捕されたらしい。それがきっかけになってお父さんが縁を切ったから、かなり長いこと会っていない。
     澪標の転移魔法でセントラル大聖堂に着いたとき、またあの体を引っ張られるような感覚と、ピリッと電気が走るような感覚がした。
     歩きながら手や足をストレッチさせていると、澪標は面白そうに僕の真似をした。澪標は人の姿になることができた。本来の姿でないと三割程度の力しか出せないらしいが、それでもある程度の人間の力は上回るようだ。そして何より美しかった。
     セントラル大聖堂は、相変わらず人が多く騒がしかった。ただ、以前来た時と違って観光客よりも参拝者らしい人が多かった。その奥で、神官たちがばたばたと走り回っている。僕の顔はそんなに知られていないらしく、町にいそうな格好で歩けば誰も気に留めなかった。

    「ここはいつ来ても慌ただしいなぁ」
    「魔王様が結界を破りましたからね」

     澪標がこともなげに言う。

    「あー、そうなんだ? 前来た時も結界が破られたって言って、ちょうど居合わせたから教会の騎士と一緒に聖剣の護衛したよ」
    「たぶん、それも魔王様が破ったのだと思いますよ?」
    「……え? だって、その時は普通にただの傭兵だったし……」
    「魔王様というのはただの呼び名ではありませんよ。きちんとした血筋と継承される力があるのです。あ、おじいさまが出ていらっしゃいました」
    「お、おじいちゃん!」

     おじいちゃんはピンと背筋を伸ばして歩いていて、元気そうだった。

    「何年ぶりかのう。息子の若い頃にそっくりじゃから一目でわかったわい」

     ぐりぐりと頭を撫でられて、少し照れる。

    「行こう。牢屋ってどんなところ?」
    「毎日聖書を読むんじゃ。もう暗唱できる」
    「そっか」
    「それにしても、もう家族の縁は切られたものじゃと思っとった」
    「うーん、まぁ、話せば長いんだけど……、澪標がおじいちゃんを迎えに行こうって」
    「えらいべっぴんを連れてきたのう」

     僕が大聖堂を出ると、澪標はそっと袖を引いた。

    「聖剣を破壊する絶好のチャンスですよ」
    「うん、わかってるさ」

     小高い丘の上にある寂れた教会は、今は騎士が常駐しているようだった。教会の前にぼんやりと座っているのが遠目にも見える。

    「おじいちゃんは何で逮捕なんかされたの?」
    「魔王の血筋としてな。聖剣を破壊すべく大聖堂に行ったら追い出されたのじゃ。それで、あちらにも行ったら聖剣に触れて怪我するわ逮捕されるわで大変じゃった」
    「……あの聖剣を守る神官の日記にあった自称魔王の農民っておじいちゃんだったのか」

     確かに、酪農も農家か。

    「それで、なんでおじいちゃんは魔王の血筋だと思ったの?」
    「なんでって、そりゃ代々続く家系なんじゃ。ディス、お前さん、先代魔王の時代に戦場からの引っ越しを重ねたと聞いているじゃろ」
    「うん」
    「引っ越す先が戦場になるのは、ご先祖様本人が戦禍の種、魔王だったからじゃよ」

     澪標がおじいちゃんを迎えに行くと言ったのはこういうことだったのか。お父さんはきっとおじいちゃんの話を信じなくて、僕に教えてくれることはなかったのだ。
     だけど、荒唐無稽にも聞こえる魔王の血筋の話は本当で、僕は人すらも殺してしまっていて……。
     僕、力が強いばっかりじゃなかったんだな。

    「じゃあ、おじいちゃんが聖剣に触れて怪我したってのは、魔王を切るっていう聖剣の伝承が本物だったから?」
    「おそらく、そうです」
    「澪標と僕で触ってみようか」
    「しかし魔王様、大聖堂からは遠ざかって……」
    「今目指してるあっちに、聖剣の本物があるのさ。だからおじいちゃんは大聖堂からは追い出されるだけだったのに、逮捕された」

     僕が魔王の末裔だなんてまだ信じられない話だけど、どうせ世界が僕を殺そうとするなら僕を信じてくれる澪標には応えたい。
     僕にはその力があるし、家族もいるのだから。

    「こんにちは」
    「!」

     騎士が慌てて立ち上がるので、僕の正体がバレているのかと思ったが、そうではなかった。

    「あの時の傭兵さんですね! お連れさん、中にいますよ」
    「え?」
    「どうぞ。……! じいさん、あんたはだめだ。出てこられたんだな」
    「まぁの。牢の見張り番から出世したと思ったら、こんな教会の見張り番かね」
    「うるせーやい。あ、傭兵さん、どうぞ!」

     騎士がおじいちゃんを止めてから丁寧にドアを開けてくれた。彼が知っている『連れ』なんて、一人しかいない。

    「……もう新しい女見つけたの? ディス」

     カレンが、賢者様と共に立っていた。
     騎士が何も言わなかったことを考えると、カレンは賢者様と二人で勇者の代わりを果たすつもりなのだろう。
     だけど、誰よりもカレンが、僕は人間で特別な力を持つ魔王ではないと思ってる。そういえば、継承される力というのがどういうものなのかまだ聞いてない。

    「僕は、これから四天王を集めたりお城を建てたりしなきゃいけないんだって。君の体は汚くて王妃には迎えられないけど」
    「言うのう、元勇者くん」

     賢者様が笑った。その笑い声はその場に不似合いで、カレンがギョッとして賢者様を見た。

    「風よ、わしの声を聴け。ここに渦巻き、吹き飛ばせ」

     聞いたことがある。竜巻を起こす呪文だ。賢者様はそれをやけにゆっくりと唱え始めた。窓の閉まっている教会で、徐々に風が賢者様に集まっていく。僕の装備は全然ない。今は本当にただの生身だ。少し狼狽えて澪標を見るが、彼女は微動だにしない。
     そうして、賢者様が呪文を唱え終わる瞬間、僕はぎゅっと目を閉じた。

    「茶番は結構です、ガーディー」
    「ウォーグラリア」

     澪標の声がして、次いで悲鳴が聞こえた。カレンの。
     恐る恐る目を開けると、賢者様は杖をカレンに向けていた。カレンは至近距離で竜巻を食らったようで、壁に叩きつけられている。

    「け、賢者様?」
    「魔王様。あれはガーディー。わらわと共に先代魔王様より四天王と呼ばれたドラゴンです」

     賢者様――ガーディーは澪標の紹介に合わせて頭を下げた。魔物だったのか。全然わからなかった。

    「お久しぶりでございますな、魔王様」
    「まぁ? わらわは側近に命じられたので? もうガーディーの上司に当たりますが?」

     澪標がにやけが止まらないとでも言うように口元を隠しながらガーディーに言う。なんかちょっと人選間違えた気がする。

    「カレン、大丈夫……?」
    「そのような人間を心配する価値はありますまい」
    「……酷い別れ方だったし、もう人は信じられないけど……それでも、何年も一緒に過ごした幼馴染だから……死んでほしいとは思わないんだよ」

     カレンに近寄ると、カレンがこちらに向かって業火の魔法の呪文を唱えた。澪標が素早く間に入り、氷の盾の魔法で相殺したので事なきをえたが、僕以上に澪標がめちゃくちゃ怒った顔をしたので、僕は怒りそびれた。

    「魔王様の慈悲を無碍にするとは、本当に人間ってクズですね」
    「魔王様」

     ガーディーがちょいちょいと手招きして僕を呼んだ。

    「あの青蛇は魔王様が継承する力の説明はしなかったのですかな?」
    「青蛇って、澪標のこと? 追々説明してくれるっていう話で……。本当ならここでは聖剣を破壊するだけで邪魔は入らないはずだったし」
    「左様でございましたか。魔王様が継承する力は、魔法を消し去る力です。魔法を向けられても大抵の魔法は魔王様の前で掻き消えます」
    「そうなの?」
    「左様。わしが魔法を撃っても、恐らく掻き消えるでしょう」
    「撃たれたことがないからわからなかったよ」
    「魔物どもは本能で理解しておったのでしょうな」

     ガーディーは澪標に加勢する気はないようで、魔力切れでキャットファイトの様相を呈してきた二人を並んで眺めている。

    「僕、今のうちに聖剣壊すね。その前に、聖剣を触ってみてよ」
    「本当に魔王様しか傷付けないのか、ですな? よかろう」

     相変わらずむき出しになっている聖剣の刃にガーディーが触れると、その指を押しても滑らせても傷が付かない。対して僕が恐る恐る伸ばした指は、薄く赤い線が入った。

    「本物なんだ……」
    「本物ですな」
    「この聖剣を壊しても神が新しく与えるとかいう可能性はないの?」
    「そうですな……。破壊して海に撒いたとしても、奇跡と称して剣を打ち直すのが奴らの手口……。ならば、魔王城で保管しておくのもいいかもしれませんな」

     そもそも我々は純粋なのです。と、ガーディーは言った。
     ならば純粋でないものとしてガーディーや澪標が対比するものはなんだろう。勇者なのかな。
     異変に気付いた騎士が慌てて入ってくる。

    「傭兵さん、何があったんですか!?」
    「騎士さん……えーっと、その」
    「あーっ、もう、俺思ったんですよー。元カノと今カノがやりあってるんですね!?」

     今やただの殴り合いである澪標とカレンの戦いは、見方によってはそう見えるのかもしれない。というかそうとしか見えないのかもしれない。確かにこれが魔王配下の側近と勇者パーティーを目指す者の戦いと言われても、信じられない気がする。

    「……え。あ、うん。そんな感じかな……?」
    「傭兵さん、モテますね。ちょっ、お二人とも、ダメですよ! もう、教会でケンカはダメです!」

     魔物と魔法使いと知らないとはいえ、あれに割って入るなんてすごい勇気だなと思う。少なくとも僕は止めろと言われても無理だ。

    「これは教会の騎士として見過ごせません。教会から出てください!」

     騎士がカレンと澪標の腕を掴んで教会から出ようとするのを見送っていると、ガーディーが再びちょいちょいと手招きした。

    「魔王様、教会ごと聖剣を奪って逃げましょう」
    「そんなことできるの!?」
    「転移魔法の応用です。どうなるかわかりませんが、合図をしたらおじいさまを招き入れてください」
    「わ、わかった。澪標は?」
    「青蛇は置いていったところで自力で戻れますので拾えたらで構いません。それでは、参ります!」

     ドアの外から覗き込んでいたおじいちゃんを教会の中に引っ張り、澪標も引っ張る。澪標が最後の一撃とばかりにカレンを蹴り飛ばしたのは少し呆れた。

    「広、域、転、移!」

     ガーディーが大きな声で呪文(呪文ってこんなに適当でいいのか?)を唱え終えると、教会がぐらりと揺れた。呆気にとられた騎士とカレンの顔が一瞬見えて、次の瞬間にはドスンとどこかに着地した。
     本当に教会ごと移動したらしい。窓の外を見てみると、一面の荒廃した地。

    「……ここは……魔の……」

     か細い声がした方を見ると、神官が一人へたり込んでいた。以前、カレンと聖剣の下見に訪れた際にもいた神官だ。

    「……連れてきちゃったみたいだね」
    「あ、あなたは、賢者では……ないのですね?」
    「いかにも。魔王様が手先、四天王ガーディーである」
    「ま、魔王? あなたが……。殺さないでください……」

     神官はその場から動かなかった。腰を抜かしたのかと思ったが、よく見ると血まみれのお腹を押さえている。どうりであの騒ぎの中で沈黙を保っていたわけだ。

    「神官さん、回復魔法は使えないんですか?」
    「……え? あ、魔力切れで……」

     魔力切れになるほどの回復呪文を使ってもこの怪我? 死ぬ一歩手前だったんじゃないか?
     僕が持っている魔力回復薬と体力回復薬をありったけ渡すと、神官は真っ青な顔のままぺこぺこと頭を下げた。

    「誰にやられたんです?」
    「カレンですよ。魔王様のせいにするつもりだったのでしょう」
    「……本当に卑怯な人間」

     澪標がため息と共に言うと、ガーディーも頷いた。

    「魔王様を支えてくれるのではと思っておりましたが、あてが外れましたな。ところでこの人間はどうします?」
    「殺しましょう」
    「ひっ、ひぇ……」
    「何言ってるのさ! 殺すなんてひどいことできるわけないだろ! 神官さん、安心してください。ちゃんと帰れますから……」

     さっきよりは、少しは顔色が良くなっているので、床に座り込んでいる神官を支えて椅子に座らせる。神官は僕の言葉にうなだれ、逡巡し、そして顔を上げた。

    「あ、あの、帰りたくないです。その……聖剣を守れず、帰っても……」
    「確かに、帰った方がひどいめにあうかも」

     人間の掌を返す残酷さはもう嫌と言うほど味わった。

    「でもいいんですか? 魔王の仲間みたいになっちゃいますけど」
    「……魔物は怖い。ですが、あなたは信頼できると思うので……」
    「あはは、まだ魔物を配下に入れてないんですけどね……」

     澪標がいつの間にか傍らに立っていた。涙ぐみながら拍手している。

    「さすが魔王様、裏切る人間共も恨まず受け入れるとは心が広い……」
    「ちょっと、恥ずかしいからやめて! 父はともかく、母は普通の人間だし、神官さんも過ごしやすいと思います。澪標、父さんと母さんを起こして」
    「はい!」

     相変わらず、死人のように水球に浮かんでいる両親。水球が地面について、ぷるんと揺れた瞬間にシャボン玉が割れたように水球がはじけた。
     両親が目を覚まして、悲鳴を上げる。

    「母さん、父さん。ごめんね」
    「ディス!?」
    「ディス、嘘よね、ディスが魔王だなんて、嘘よね?」
    「ごめん、僕もよくわからないけど、本当みたい。おじいちゃんもいるよ」
    「親父……? あんたがディスをそそのかしたのか!?」
    「違うよ父さん。僕がおじいちゃんを連れてきたんだ。僕は絵本の中の魔王みたいに世界を滅ぼそうなんて思わないけど、人々はそう思ってくれないから……。父さんと母さんを守りたくて、連れてきたんだよ」

     母さんはすすり泣いた。
     父さんは怒っていた。
     僕がおろおろしていると、動いたのは神官さんだった。

    「あの、お父さんとお母さん」
    「あなたは?」
    「聖剣を守っていた神官です。今は、彼の仲間になろうと思っています。彼はなんと呼ばれていようとも、正義の人のままです。何を嘆くことがあるのでしょうか。今目の前にいるのは、あなた方の息子でしょう。ずっと離れていた息子さんに言うことは、それでよいのでしょうか」
    「あぁ……ディス、そうよね。神官様の言う通り。無事でよかった。生きててよかったわ……」

     そうしてまた母さんは泣いた。
     親子の感動の再会に、澪標が首をひねる。

    「なぜ、魔王様であらせられることがそんなにお辛いことなのでしょう?」

     そういえば、どうして勇者を盲信するのかと聞かれたな。

    「……そ、そりゃあ、魔王は悪だからだよ」
    「情操教育の賜物」

     ガーディーがぼそりと言う。

    「こんな時こそ賢者の出番ですな」

     人間は騙されているのです、とガーディーは言った。