永遠少年症候群

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僕は勇者になりたくなかった

 ある日突然、街が揺れたのを覚えている。僕の知らないところで、どこかの英雄が国の危機をあっという間に救ったのだという。いつも僕を哀れんで売れ残りのパンをくれるパン屋さんが、ふわふわの焼きたてのパンをくれてとても幸せな気分でいられたんだ。
 城下町では、僕のような浮浪者もある程度は生きられる。ギルドの周りをうろつくと、たまに傭兵という人々が食べ物をくれる。僕は一人っきりだけど、一人っきりではなかった。きっとそのうち、僕も傭兵になるんだろう。そう思っていた。だって、お店をやろうにも計算はできないし、今も雇ってくれるところといえば遺体処理なんかだった。
 しばらくしてから、もう一度街がざわついた日があった。魔王がどうだとか聞こえたし、隣の通りに大きな火の塊が飛ぶのを見た。その日僕には、遺体処理の仕事が舞い込んできた。
 翌日、いつものようにパン屋さんの前を通ると、パンは一つも並んでいなかった。

「おばさん、何かあったの? 昨日仕事があったから、今日はふわふわの……」
「しっ、教皇様が緊急の声明を発表するのさ。あんたも聞いた方がいいからそこで聞いていきな」

 おばさんが指差したのは、小さな箱だった。昔の勇者が使えたという雷の魔法をもとに、雷の力を使って声を届けるという機械らしかった。

『昨日、魔王復活の報が世界を絶望に陥れたことは、既に知られているところであると思う。しかし、神は我らを見捨てていなかった。昨晩、神より神託が下された。魔王復活の地、マクドリア王国城下町、そこで魔王の魔力に触れてしまった少年、ワールに降りかかった魔王の魔力の呪いを解くとともに、神の祝福を与えた、と』
「ワールだって。僕と同じ名前だ」
『このワール少年こそ、次代の勇者であり、全世界で手厚く支援すべき者である』

 パン屋のおばさんが、僕を見た。

「あんた、昨日の仕事って……、死体処理かい? そこの路地の」
「うん」
「魔王の魔力に触れたんだ……。名前は、ワールだね」
「うん」
「あんただよ! 勇者様!」

 不意に、おばさんの目がギラギラした気がした。

「うちのパン? いくらだって焼き立てをあげるさ。うちは勇者様御用達のパン屋だ!」

 おばさんが通りに出てバンザイする。同じように外に出てきた人達で突然街がお祭り騒ぎになって、僕はいつもの路地に戻らなくてはと思った。お祭りの時は路地に隠れていないと怒られるからだ。そうして過ごすと、平穏で十分幸せだった。
 それなのに、僕は路地に隠れる前に騎士団の人に捕まってしまった。

「ごめんなさい、僕、すぐに戻るつもりだったんです」
「何をおっしゃるのか。まずは王様に面会していただきます」

 お城に連れていかれて、何か月かぶりの風呂に入れられて、美味しいご飯を食べさせられた。そして、穴の開いていない服を着せられて、広い部屋に連れて行かれた。

「……おぬしが、勇者か」
「わ、わからない、んですけど……、何かの、間違いだと、思います」
「確認の方法は一つしかない。やれ」

 さっと、何か小さい箱に入れられて、とてもとても痛くて、見たことのない、自分の背中が見えた。首、つながってない。
 気が付くと、また王様の前に座っていた。さっきとても痛かった首は、もう痛くない。

「神の祝福は本物のようだな」
「……」
「勇者ワールよ」
「は、はい」
「世界はおぬしを支援し、魔王の打倒を望む。まずは、この城に住み、この城の騎士団の訓練を受けてもらう」
「はい……」
「聖剣を奪われている今回の旅、苛烈を極めることとなるだろう。心せよ」
「? はい」

 僕は、何かの試験に合格したようだ。あたりを見ると、騎士団でもお姫様でもなさそうな女の人が、腕を組んでみていた。その人は、魔王が復活した時にすぐに対抗した魔法使いで、カレン先生として僕に魔法を教えてくれることになった。
 剣の訓練はとても痛くて、一人で何度も死にながら魔物を倒さなければならなかった。僕にとって魔法の訓練は安らぎの時間だった。カレン先生は厳しかったけれど死なないから。

「……魔王は、私の幼馴染だった」
「先生の?」
「騙されてたのね……。嘲笑ってたんだわ。悔しい。絶対に倒したいの。だから勇者、強くなってね」

 カレン先生は優しいけれど、つまりそれは、強くなるために何度も死ねということだろう。
 そして、一度も死なずに一体の魔物を倒せるようになった頃、魔王は魔物を全て魔の大陸に呼び寄せた。魔物がいなくなって、訓練の相手が騎士団の人となった。僕は木の剣、騎士団の人は本物の武器を持って、戦うのだ。
 死ぬ度に、心がすり減る。
 死にたくない、死にたくない、死にたくない。
 どうして神は僕を選んだのだろう。

「勇者」
「あ……カレン先生……」
「……私ね、子どもを授かったの。ねぇ、一緒に、逃げる?」

 その時のカレン先生は、出会ってから初めてみるような穏やかな顔をしていた。魔王を倒したいと言っていたことなんか忘れたかのようだった。

「……僕が逃げたら……先生も危なくなります」
「大丈夫なの。詳しくは言えないけど、大丈夫なのよ」

 カレン先生が掴んだ腕を振り払った。カレン先生は、悲しそうに転移魔法で消えた。その後、騎士団の人にお願いしてカレン先生を探してもらったけれど、完全に行方不明となってしまった。
 その間も、僕は騎士団の人に殺され続けた。二人がかりで来た時は大丈夫だけど、三人に囲まれたら殺されてしまう。そして、騎士団の人々はなかなか強くならない僕にいらだち、訓練では一日に一度死ぬ毎日だった。
 人形のように、ぼろ屑のように、槍を突き立てられて倒れた。あぁ、今日はもう死ぬんだ。早かったな。そうして目を閉じようとしたとき、僕の前に人がいた。
 真っ白な服で、羽が生えている。回復魔法をかけられて、死んで蘇ったときのような不快感がなく体が楽になる。

「天使、さま……?」
「これまでご苦労様でした。ふがいない人間に代わり、わらわが勇者に祝福を与え強化いたします」

 気を失う前に見た天使さまは、とてもとても、美しかった。
 天使さまに連れられてきたところは、石積みの薄暗い牢屋のような部屋だった。あたりを見渡すと、カレン先生が駆け寄ってきた。

「勇者、元気そうでよかった」
「……先生……!? 先生が天使さまと一緒にいるということは、やはり僕は……」
「あぁ、死んでないわ、勇者。よく聞いてね、ここは魔王城よ」
「……そんな。先生も、囚われて?」
「えーっと……、私、魔王のお嫁さんになったの」

 どういうことなのか、説明するわ、とカレン先生が言った。
 僕を勇者に選んだ神は悪い神だったのだという説明だった。その神を既に倒し、魔王はもう何かと戦うことはないらしい。

「僕はもう、死ななくてもいいんですか」
「えぇ」
「本当に?」
「えぇ。というか、もう祝福はないかもしれないから、生き返る保証がないの」

 死ななくて、いい。
 神を恨んだ日もあった。そうすると、神父様に殺された。
 心さえ殺してしまった。とてもとても久しぶりに、涙が出た。
 僕は、勇者なんてなりたくなかったのだ。

 あんまうまく描ききれなかったけど、偽神は浮浪者の少年を選ぶことにより、勇者が死んで復活する悲惨さにより偽神に怒りが向く可能性を軽減してました。っていう設定があります。
 だから、ディスは魔力がないのに「魔王の魔力に触れた少年」と言っている。