永遠少年症候群

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帝国歴312年2月上旬2

 洞窟の奥ではガスマスクを外したヴィンセントがいた。ドーソンくんやマクレガーくんもいる。

「……みんなは、無事でよかった」
「アリス、無事だったか」
「……ベイル大佐も……。私」
「だめっすよ、大佐。遺体探しは戦争が終わってからっす。休んでください」
「………………まだ何も言ってないのに」

 ドーソンくんは肩を竦めると、ベイル大佐が自嘲気味に笑った。

「……上官の立場になったら誰でも考えることだ。……だが、俺も今は認めない」
「ベイル大佐」
「だめだ」

 しばらく睨みあって、私が折れた。折れるしかなかった。ベイル大佐だって部下を亡くしてる。無理を言ってはいけない。

「……一応、この洞窟周辺を巡回しましょうか」
「そうだな、三人一組くらいで……」
「……グラッスくんは残ってていいよ」
「え、そんな。自分も行きますよ」
「君は……方向音痴だから、むしろ残っててほしい」
「お前も残っとけ」
「何で」

 ベイル大佐が私の肩を押す。と、膝から崩れ落ちた。
 ドーソンくんが咄嗟に私の腕を掴んでくれたおかげで倒れずに済んだ。

「ふらふらじゃねーか。木登りしたんだろ。他より疲れてるんだから休んどけ」
「……はい」

 ここで言い返すのは得策じゃない。意地を張ってはいけない時もある……よね。

「大人しく待ってようか、グラッスくん」
「はい」
「アリスが行かないならグラッスは連れて行った方がいいんじゃないか?」

 ヴィンセントの提案に、ベイル大佐が首を振る。
 あぁ、そうか。ベイル大佐はグラッスくんを信用してないみたいだったから、私が見張っておけばいいのか。

「さっさと行くぞ」
「……はい」

 3組に分かれた巡回組を見送って、ぐっと伸びをする。ストレッチをしながら寝袋を引く。

「……大佐」
「ん?」
「…………自分、昨日も朝ご飯食べに行ったんですけど……、そこで、レイス中佐が」
「ヴィンセント? 告白でもしてた?」
「あの、言いづらいんですけど……」

 グラッスくんはなんとも言えない、悲しそうな表情でこちらを見ている。

「レイス中佐が」
「俺が何だ?」
「ひっ」

 ヴィンセントを見て、グラッスくんが異様に驚いて後ずさる。
 ヴィンセントだけが変に早く帰ってきたのも気になるけれど、グラッスくんの怯え方は異常だ。

「どうしたの、グラッスく」

 ん、と言う前にお腹に凄まじい痛みが走る。ヴィンセントがアサルトライフルを振りかぶり、私は洞窟の入り口の方に転がっていた。

「ヴィンセント……?」
「そこなら花粉が届くんじゃないか、アリス」
「な、何すんの」

 拳銃をグラッスくんに突きつけて、ヴィンセントが笑う。
 お腹を押さえて立ち上がるとすぐにこちらに向かって撃ってくる。転がるように洞窟を出た。
 ガスマスクはない。呼吸を抑えて洞窟の入り口から中を窺う。

「やっぱりグラッスだったんだな。言おうとすると思ったんだよ。でも、今お前らを殺せば勝手に心中したことになるだろ」
「大佐、逃げてください」

 なんでヴィンセントが。
 瞬間、銃声が響く。繁みに身を隠していると、ヴィンセントが洞窟から出てきた。

「……アリス、聞いてるんだろ? 残念、さよならだ」

 木に体を預けたまま、手で口と鼻を押さえる。足音が遠ざかり、私は洞窟に戻った。
 どうやら花粉を吸ってしまったらしい。ぐらぐら揺れる視界に吐きそうだ。グラッスくんが体を引き摺っている。

「た、大佐……」
「グラッスくん」
「……あーあ、自分、死んじゃいますね」

 なんでヴィンセントが。
 何が起こってるの? ヴィンセントに反意?

「本当は、諦めたんですけど……アルダナの、復讐」
「?」
「あー、痛い……。中佐、わざと致命傷外してるんですよ、痛い」
「グラッスくん、止血、しよう」

 手元が狂う。だめだ。毒が、回ってる。

「そうだ、これ……。言えなかった時のために、手紙書いたんです、詳細は、これで」

 グラッスくんから受け取った手紙を胸ポケットに入れる。
 グラッスくんが震える手で私の手を握る。

「…………すぐに痛覚が消えて幻覚が見えます。大佐、自分の復讐に手を貸してください。それで、生きて」

 ぐらぐら。変だ。気が狂いそう。
 グラッスくんが何を言っているのか、わからない。

「…………が、…………を殺して、あなたも殺そうとしてるんです。きっと白ウサギに騙された動物も襲ってきます。……返り討ちにしてください」

 何、それ。