永遠少年症候群

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ファンタジー、恋愛要素、ハッピーエンド多め。
たまに暴力やグロテスクな表現があります。
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    帝国歴312年1月下旬

     ヴィンセントの提案で、ヴィンセント以下A部隊と打ち合わせをすることになった。

    「ウィルソン大佐とグラッスはスナイパーライフルだけでは不便でしょう。何か他の銃も持っていきますか?」

     ヴィンセントが眼鏡を押し上げた。ここまで他人行儀なのも辛いな。

    「私はサブとライト持って行く。2丁ずつあれば十分」
    「マシンガンだな」
    「自分は……スナイパーしかうまく扱えないので、遠慮します」
    「あ、レイス中佐。あの森には毒の花粉をまき散らす花がある。ガスマスクが必須だ」
    「ですね」

     両肩にライトマシンガンを下げて、両手でサブマシンガンを持つ、背中にはスナイパーライフル。腰には短刀と拳銃。フル装備だな。しかしそれくらいでちょうどいい。

    「大佐って自分の担当武器に縛られなくていいね」
    「普通は前線に出ません」
    「ドーソンくん、最近冷たいなぁ」
    「そんなことありません」
    「そう?」

     ドーソンくんはぷいっと視線をそらしてしまう。私何かしたっけ。思い当たる節はない。きっと虫の居所が悪いんだな。

    「グラッスくん、スナイパーで撃つのは花だ。敵の上に毒を降らせる」
    「花……は、あの、的が小さすぎませんか」
    「そんなことないよ。直系10センチある大きな花だし」
    「大佐、訓練しましょう! 訓練です! 射撃場に連れて行ってください!!」
    「……アリス、うるさいから連れていけ」

     ヴィンセントに言われ、やれやれと立ち上がる。

    「射撃場の場所くらい覚えてよ……。レイス中佐、後は任せたよ」
    「はい」

     グラッスくんは子犬のようについてくる。こんなに近い射撃場も一人で来れないのか、朝以外はちゃんと食べているのだろうか。スーパーに行けません、と言われても納得しそうだ。
     直径10センチの的を数百メートル先にランダムに置く。スナイパーライフルをグラッスくんが準備している。

    「そういえば大佐、華奢なのにマシンガンなんて持てるんですか?」
    「持てなかったら君が持てばいい」
    「そんなぁ」

     試しに持ってみようとマシンガン4丁とライフルを背負う。確実に移動に支障が出る。やっぱり半分はグラッスくんに持たせよう。

    「ドーソン少佐は、大佐のことが好きなんですね」
    「……ドーソンくんはエヴァが好きだよ」

     そうだ。そうだよ、アリス。
     こんなに胸が苦しいのもきっと、私は恋愛をしないと言い聞かせていればなくなるんだ。

    「え? てっきり自分は、それで少佐に目の敵にされてるんだと思ってました」
    「何故君を? お門違いもいいところだ」
    「自分が大佐を独占してるからですよ。ここにも二人っきりじゃないですか」
    「二人っきりなんて色気のあるものでもないけどね」

     ライフルを持ちあげる。構えると、ずっしりと重く手に馴染む。

    「グラッスくん、的は1分ごとにランダムに現れる。3分でできるだけたくさん撃つように」
    「はい」
    「スタート」

     グラッスくんが撃つ間に構えてみる。筋肉が落ちたかな。
     グラッスくんはゆっくりと照準を定めて、確実に撃ち落としていく。確実ではあるけど、ちょっと戦場では命取りの遅さだ。分速だいたい7発。
     この狙撃銃の装弾数は5発。1秒でボルトハンドルを引き、2秒目で照準を定める、3秒目で撃ち抜く。16秒目で装弾。21秒目で次の5発。それで1分に15発前後は撃てるはずだ。

    「終了」
    「……どう、でした?」
    「20発20中。精度はよくなったね。けど、遅すぎる。命取りだ。……グラッスくん、ワルツ踊ったことある? 聞いたことでもいいけど」
    「ワルツ……ですか……?」
    「そう、ワン、ツー、スリー、ワン、ツー、スリーってリズムとる曲調ね。テンポは問わない。ダンスだと思って1、2、3、で撃ってごらん」

     1、2、3、と言いながらやって見せる。と、グラッスくんはよくわからない笑顔を見せた。自信か、不安か、なんだその顔は。
     グラッスくんは緊張した面持ちで1、2、3……と呟く。

    「それじゃあ、また3分ね。はい、スタート」

     今度はさっきよりは多少マシだ。分速9から10発。まあ、イイ線いってるといったところか。あまり厳しくしてストレスになってもいけないし、素直に褒めてランチでも奢ってやろう。

    「自分でどうだった?」
    「もうちょっと、早くできると思います」
    「うん、まだまだ速くできる。でもかなりよくなったよ。そろそろお昼時だし、帰ろうか」
    「はい」
    「ランチは何か食べたいものある? 頑張ったご褒美をあげよう」

     グラッスくんが瞳を輝かせる。

    「いいんすか?」
    「早く決めないとヴィンセントの好きなものになるよ」

     執務室にはヴィンセントとドーソンくんがいた。部屋に入るとヴィンセントは集中力が切れたようにぐっと伸びをした。

    「アリス、飯行こう」
    「うん。ドーソンくんも行こう? 私とヴィンセントの奢りだよ」
    「え……でも」
    「行こう?」
    「はい」

     ドーソンくんが慌てて立ち上がる。こそこそ何をしているのかと思えば財布をお尻のポケットに突っ込んでいる。いらないのに。

    「グラッスくん、お店決めた?」
    「えーっと……」
    「はい、じゃあドーソンくんどこ行きたい?」
    「は? 俺? や、焼き肉!?」
    「あ、ドーソン少佐ずるいです! 自分の射撃訓練のご褒美なのにー!」
    「休憩時間長くないからあんまり待てないよ。それじゃあ焼き肉行こうか」
    「焼き肉も好きです」

     グラッスくんが言って、さっさと歩き始めたヴィンセントを追いかける。ゆっくり歩こうと特に急がず歩いていくと、ドーソンくんが隣に並んだ。

    「あの、すんません」
    「何が?」
    「いや、あの焼き肉とか言って……その……高いし」
    「気にしないで。戦争が始まったら食べれなくなるだろうし、今の内に食べなきゃね」
    「そっすね。あの、大佐、……戦争が終わったら、二人で――……」
    「大佐ぁ! 焼き肉は食べ放題ですか!? レイス中佐に聞いてこいって言われました!」
    「食べ放題でいいんじゃない? ヴィンセントに先に食べてていいって伝えといて」
    「はい!」
    「ごめんね、ドーソンくん。戦争が終わったら何?」

     ドーソンくんの緑の目がすっと逸らされる。綺麗な色だ。なのに、挙動不審に揺れている。

    「……何でもないっす」
    「私はね、戦争が終わったらみんなでご飯食べたいなー。うちの庭でさ、あ、エヴァも含めさせてもらうけどバーベキューとかしたいね」
    「いいっすね」
    「ドーソンくんはエヴァが好きだもんね」
    「エヴァさんはキレーだと思うっす。でも、俺の好きな人はエヴァさんじゃないっすよ。好きな人は別の人っすよ」
    「え……」

     好きな人、いるんだ。

    「エヴァさんは憧れっす」
    「憧れかー。あのさ、その好きな人に戦争前に告白しときなよ。待ってる人がいた方がよくない?」
    「フラれたら俺使い物にならないっすよ。帰って、自信つけてからの方がいいんす」

     彼はくしゃっと情けなく笑う。大丈夫なのかとこちらが不安になってしまう。
     でも幸せそう。彼の好きな人はきっと幸せだ。

    「いっぱい焼き肉食べなきゃね」
    「はい」

     こういう、部下の話をもっと聞いた方がいいのかもしれない。数日の内に、隊の不和を取り除くことも必要だ。
     頭が痛い。私が大佐になった今、果たして数万人の部下は戦場で帝国への忠誠を誓えるだろうか? 一度は立ち消えた不安が自信に影を落とす。
     焼き肉店に入るとヴィンセントとグラッスくんが既に大量の肉を焼いていた。焼きすぎだ。

    「お、来たな。ほら、ドーソン、食え食え」
    「はい!」
    「こんなに頼んで食べきれるの?」
    「足りんくらいだ」

     味のしない焼き肉をたらふく頬張る。これを食べたら、各小隊の訓練を見てこよう。
     お金をヴィンセントに渡して、先に店を出ることにした。今日の午後は全ての小隊に訓練をするように言ってある。向かうは射撃場だ。
     耳をつんざく銃声の合唱に射撃場の入り口で立ち止まる。大尉がこちらに気付きギョッとして号令を出す。

    「練習止め! 大佐に敬礼!!」

     大尉の声にびしっと揃った敬礼が飛んでくる。返礼をすると数名の大尉が一斉に駆け寄って来た。

    「邪魔して悪い。練習を続けてくれ。一通り訓練を見させてもらう」
    「はい」

     まだ、戦争がはじまるまで1ヵ月半ある。これで少しでも多くの部下に指導できればいい。
     そうして戦争で生き残ってくれればいい。