永遠少年症候群

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帝国歴312年1月中旬

 年が明けて半月。大佐になって3ヶ月半。変わりばえのない日々はそう長くは続かないものだ。
 何故って、第二の執務室に第四部隊の大佐が来ることなんて、有事しかないからだ。

「こんにちは、アリスちゃん」
「こんにちは」

 ランカスター大佐は腰まである長い髪を背に流しながらくすりと笑った。
 大佐になる人達は大体何を考えているかわからないし、どこか挙動がおかしい。この人はその最たる人だ。

「同じ女性の大佐としては仲良くしたかったわ」
「……ソウデスネ。で、何かご用ですか?」

 ランカスター大佐がニヤニヤ笑う。気味が悪い。

「大変なの。アルダナ、ランビナート、ビットエル、ワーブルド。以上4地点で諜報活動をしていた部下との連絡が取れないのよ。激しい混乱が起こっている、もしくは部下が死亡するほどの何かが起こった地域ってこと」
「第四の隊員が死亡するとなると……相当なことですね」
「でしょう?」

 第四部隊の隊員は総じて判断力と戦闘力がかなり優れている。時には潜入中に命を狙われ、時には暗殺を命じられる。割に合わない部隊ナンバー1だ。ついでに精神を病む部隊ナンバー1でもあるし、そこで大佐にまでなるなんて最重病患者だがここでは関係ない……いや、あるな。ここでにっこり笑うのはおかしいだろ。

「それで?」
「戦争が起こる。間違いなく」

 部下が息を飲むと、ランカスター大佐はその反応が見たかったとばかりに唇の端を吊り上げる。
 その第四の隊員と連絡が取れないとなると、確かに少し大変なのかもしれない。けれどそれがイコール戦地であるというのは早計である。

「アルダナには未だ難民が多く、しかも塹壕になる場所がない。戦地としては最悪」
「おっしゃる通りね」
「ビットエルは、マド神国の真横で神の逆木が近い。皇帝殿下の宗教倫理が問われる」
「そうね、同意見だわ」
「ワーブルドは王妃様の妹君がおられる。皇帝殿下が戦地に選ぶとは考えにくい。よって……」
「よってランビナート、ということね。同意見よ」
「最初からそうだと言ってください」

 ランカスター大佐は楽しそうにくすくす笑う。

「だって、楽しいじゃない」

 戦争が関わるのにそんなこと言ってられるか。
 ランビナート、か。傾斜は緩やかながら平面はかなり少ない。鬱蒼と生い茂る森の木々の中には有毒な花粉を落とすものもある。縦横無尽に延びる太い根が邪魔で戦車は使い物にならないだろう。うちのスナイパーライフル小隊やヘビーマシンガン小隊も同じだ。

「……あとは会議で詳細を聞きます」
「そうね。バトラー大佐はなんて答えるかしら。戦争から戻ったらお友達になりましょ」
「えぇ」

 ランカスター大佐の背中を見送ると、部下が一様にこちらを見ている。こういうとき何を言えばいいのだろうか。激励? どうやって?
 溜め息を吐いてランビナートの地図を表示する。何を言おうか。何と言おうか。

「……第一と第三との連合部隊になる可能性がある。AとBの二つに部隊を分けようか」
「と、言いますと?」
「Aはレイス中佐が隊長のアサルトライフル、ショットガン、サブマシンガン連合隊。Bはブリューゲル中佐が隊長のヘビーマシンガン、ライトマシンガン、スナイパーライフル連合隊。私と……うーん、グラッス上級大尉はスナイパー持ってA部隊について行こうか」
「はい!」
「いい返事だ」
「大佐、それは危険なのでは……」
「私が前線に出ては危険かな?」
「…………」

 それ、というのは多分グラッスくんを前線に連れて行くことだろう。まだグラッスくんのGPSを外していないことから、反意を疑っていることは明らか。確かに、前線で何かされては戦争の敗北に繋がる。真っ先に手にかけるとしたら上官である私だ。しかしそれ以上に私の監視下に置いておいた方が楽だ。目の届かないB部隊への不安も取り除かれる。

「大丈夫だよ、ドーソン少佐。……そうだね、じゃあ君に特別任務を課そうか。危なかったら止めてくれ」
「……」
「私を撃ってでもね」

 誰かが息を飲む。
 上着と腕章を着用し、一度執務室を見渡す。何人ほど生き残るだろうか。ただの勘ではあるが、これが死力を尽くした最終決戦となるのではないかと思う。

「それじゃ、そろそろ大佐会議だと思うから行ってくるよ」
「待て、アリス」
「何?」
「お前はそれでいいのか」
「戦争のこと? 反対したら消されるよ」
「お前が前線に出たらエヴァさんはどうなるんだ」
「戦場にならないなら安全だ。それにもし殉職してもエヴァの生活は保障される」

 ヴィンセントは、姉に告白はしないつもりだろうか。しないだろうな。死ぬかもしれない男が告白するなんて重すぎる、とでも思ってるんだろう。
 私の肩をゆっくりと放して、ヴィンセントはうなだれる。

「ねぇ、私が死んだらエヴァを頼むよ?」
「馬鹿言うな」

 早く行けとヴィンセントが背を押す。
 大佐会議は特に新しい情報はなかった。第四の報告通り、進軍はランビナートへ。そして、第一部隊と第二A部隊、第二B部隊と第三部隊は共闘となる。部隊を分けていてよかった。中距離武器の面倒なところだ。

「もう隊を分けたとか。優秀ね」

 ランカスター大佐が隣でニヤニヤとこちらを見下ろしている。見下ろされるのは好きではない。
 肩を竦めて見せるとランカスター大佐はひひひ、と悪戯っぽく笑った。

「殉職なさらないようお祈りしてます」

 にっこりと手を振りながら普通は言わないであろうことを言うのだから辟易する。
 仕事は確かなんだろうけどなぁ……。
 第四はこういう人間の集まりなのだ。仕方ない。潜入や暗殺で少し人格が破綻してないとやっていけないのだ。
 生きて帰ったらじっくりといい友達になろう。

「バトラー大佐、第三部隊と共闘する部隊はブリューゲル中佐に任せています。彼と打ち合わせをしてやってください」
「わかった」

 バトラー大佐が去っていくと、ブリューゲルさんが外で待っていた。さすがだ。

「アリス」
「……ベイル大佐……」
「そんな顔すんな。別に取って食おうってわけでもない。侵攻に関して打ち合わせしよう」
「はい。地図はご覧になっていますか?」

 ランビナートの地図を広げる。南北に細長い楕円形の森だ。

「この森の西に進んでいきます。一応、初日は着陸したところでキャンプ、翌日の到達目標がこの西にある洞窟です」
「おう」
「シャハト大佐との話では森の北東に大きな更地があるのでそこに着陸するとのことです。この時点で軍用機の風圧で花粉が舞うのでガスマスクの着用を厳命しておいてください」
「花粉?」
「あの森は吸いこんだら中毒症状を起こしたり、最悪死んだりする花粉を撒き散らす花を咲かす木が大半です。……アディントン大佐が言ってましたよね」
「そうだったな」

 大真面目な顔で頷いているけど、この人大丈夫なのだろうか。

「ベイル大佐、小隊をいくつかに分けましょう。それぞれ、そうですね……前線へ赴く中尉以上の人は何人いますか?」
「中佐が3人、少佐が15人、大尉が45人、中尉は……135人だったはず」
「そうですか、こちらは中佐1人、少佐3人、上級大尉1人、大尉が9人、中尉27人です」

 中尉を隊長とした小隊は大体10人前後。その小隊を組み合わせて中隊を作った方がいいだろう。
 中隊長は少佐以上。……例えばヴィンセントに50人、まとめられるだろうか。

「……大佐は森の中で何人ほど指揮できると思いますか?」
「多くて……7、8小隊だな」
「中佐で5小隊、大丈夫だと思います?」
「大丈夫だろう」
「それでは、私と大佐は第一6小隊と第二2小隊の8小隊、そして4人の中佐には第一4小隊と第二1小隊の5小隊を指揮してもらう。いいですね?」
「書いてくれ」
「……はい」

 この脳筋め。

「少佐は第一3小隊と第二1小隊。うちの上級大尉には第二3小隊と第二の大尉、そして第一の大尉には1、2小隊を任せます」
「その上級大尉って、アルダナ出身の奴だろ?」
「ご心配なら私の目の届く範囲に置きます。私は第一5、第二5で大佐は第一7、第二2にしてもらっていいですか」
「おう」

 100人か。指揮できるだろうか。
 ベイル大佐にメモを渡して、よろしくお願いしますと執務室に戻る。
 ブリューゲルさんも既に戻っている。

「みんな、今日はもう帰っていいよ。今日が最後の……体を休められる日だよ」

 半月後には、私達はランビナートの森にいる。