永遠少年症候群

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ファンタジー、恋愛要素、ハッピーエンド多め。
たまに暴力やグロテスクな表現があります。
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    パーティー

     カレンと再会した日、僕は夜遅くまでカレンと語り合った。
     僕が今までの依頼の話を一つしたら、カレンも今までの学校の話か僕を探し出すまでの話を一つした。

    「いくら掲示板を見てもディスの名前がなかったけど、最近は出るようになったからこの町にいるんだって向かってる途中だったの」
    「そうなんだ……。ギルドに入ってね、僕は決まったパーティーは組んでないんだけど、依頼のためだけに即席のパーティーを組んで活動すると、即席のパーティーでもパーティー名が表示されるからね」
    「あぁ、それで、ああああ、とか、おっぱい、とか変なパーティー名があるのね。ふざけた名前って思ってたわ」

     ああああは僕が報告役になった時の即席パーティー名だし、おっぱいはすごく有名な変人の固定パーティーだ。
     ふざけた名前って思われていたのか……。

    「カレンは、ギルドには入ってなかったんだね」
    「えぇ、同じ名前の人が活躍してるみたいだったし、その経歴を汚すのも悪いしね。きっと、素敵な人ね」

     太っちょのカレンを思い浮かべて、曖昧に笑う。

    「カレン、こういうのは男から言うべきなのかなと思うんだけど」
    「……うん」
    「僕とパーティーを組んでほしい」
    「うん。……え!?」
    「い、嫌かな?」
    「うーん、パーティーね。いいわ。誰ともパーティーを組まなかったって言うし、ディスにしては上出来」
    「?」
    「だけど、パーティーより、パートナーじゃない?」
    「?」

     僕が意味を理解したのは、翌日、起きてからカレンとの会話を思い返している時だった。これ、だいぶ長い間馬鹿にされるやつだ。気付かなかったって。
     カレンのいうパートナーとは、公私共にということで、つまりは恋人たちをさすらしかった。
     昼は定食屋として開いている酒場に向かい、依頼を眺めながら呆けていると、いつの間にかカレンが向かいで食べていた。

    「おはよう。どの依頼が良さそうなの?」
    「魔法使いって固定パーティーにしかいないから、魔法使いがいなきゃ受けられない依頼を受けたことがないんだ」
    「魔法使いがいなきゃ受けられない依頼……? 物理ダメージが効きにくい魔物ってこと?」
    「そうそう。そういうのを受けたいなと思うんだけどいい?」
    「えぇ。いろんな依頼をこなして、とにかくてっぺんを目指しましょう」

     カレンは、全然変わってなかった。可愛いところも、同じ夢を追いかけるところも。
     そして、カレンは魔法使いとしてかなり強い。高位の魔法も大抵は使えた。助けてくれたときも、村を出る前に倒した青い魔物を倒した時に使った業火の魔法よりも上位のものだったらしい。あの時よりも魔力も格段に増えているし、ギルド内の魔法使いの中では一、二を争う強さだろう。
     考えてみれば、僕はいつの間にかカレンを探すことばかり考えていた。
     強く、ならなければ。
     だけど、強くなることに関して、心配いらなかった。カレンに怪我をさせたくない一心で、僕は際限なく強くなっていく気がした。し、それは気のせいではなかった。

    「私達って、運命なのかも」
    「運命?」
    「バトルでもプライベートでも、相性がいいじゃない?」
    「うん」
    「同じ夢があって、幸せで……、きっと、魔王が現れたらディスが勇者に選ばれる」
    「カレンかもよ」
    「ううん、やっぱり勇者は聖剣を使えないといけないもの。そうだ!」

     カレンががばっと起き上がる。胸をぷるんと揺らしながら、カレンは天井に向かって拳を突き上げた。

    「聖剣、見つけとこうよ!」
    「レプリカが教会に飾ってあることを考えると、教会側が持ってるのかな?」
    「あ、そうだね。神から与えられた装備だから勇者の手を離れて教会が持っててもおかしくないか……。私はてっきり、岩か何かに刺さって封印されているかと思ってたわ。絵本の勇者も、神の試練でいろいろなところに聖剣と聖鎧とかを取りに冒険してるじゃない」
    「そういう冒険、したいね。目標として聖剣はちょうどいいね」
    「でしょ? いろんなことを知ってる人に心当たりがあるから、行ってみましょう」
    「わかったよ」

     カレンのお腹に腕を回して、ゴロリと寝転びながらキスをする。

    「明日出発しよう」
    「もう……」

     僕は毎日幸せだ。
     カレンもそうだと嬉しい。

    「エラい人って、なんでこう、変なところに住むのかな」

     僕は今、へろへろになったカレンを背負ってもしかしたら天国にでも続いているんじゃないかという螺旋階段を上っている。
     カレンが通っていた魔法使いの学校に特別講師で来た賢者様の家が、この螺旋階段の先にあるというのだが、泥人形のような魔物が倒しても倒しても襲い掛かってくるし階段は果てがない。

    「もしかして……、魔法使いも体力をつけろという賢者様からのメッセージ……!? ディス、私、歩くわ」
    「賢者様は、転移魔法とか使えるんじゃない?」
    「転移魔法は使える人がほとんどいないっていう古代魔法だけど……。うーん、あり得る……けど、歩く!」

     宣言したカレンが歩き出す。うん、扉が見えてきたからね。
     カレンについていくようにして螺旋階段を上りきると、既にカレンがノックをしてドアが開いたところだった。

    「賢者様、魔法学校でお会いしたカレンです。こっちはパーティーを組んでいるディスといいます」
    「よくきたね。下でチャイムを鳴らしてくれれば迎えに行ったのに」

     賢者様は優しそうなおじいさんだった。かなり長生きだと聞くけど、かくしゃくとしていて老いを感じさせない。

    「私達、聖剣を探そうと思うんです」
    「聖剣、とな。初代の勇者が使ったという剣のことか?」
    「はい。賢者様ならご存知ないかと思いまして。勇者の英雄譚はいっぱいありますけど、その後のアイテムの話などはないので」
    「聖剣なら、教会に飾られておるよ」

     賢者様は僕達に飲み物を出して席につくなりそう言った。カレンと顔を見合わせる。

    「あれはレプリカですよね?」
    「普通はそう思うじゃろ? 全ての教会にレプリカが飾られておるが、一つだけ本物なんじゃ。木を隠すには森の中。全員がレプリカと思っとる中にこそ、本物があるんじゃよ」
    「ど……どこの、教会ですか」
    「セントラル大聖堂……の、手前の名もなき教会じゃ。あそこなら貧しすぎて盗賊も襲わん」

     あっさりと言われて、少し拍子抜けした。
     賢者様は読んだ本を全て覚えているのか、膨大な本の中から迷うことなく一冊を引き抜いた。その本は聖書だった。

    「聖剣を守ってきた神官のメモじゃ。ほれ」

     本に挟まれていたのは、本を破ったような紙だった。それが数枚ある。読めということだろう。目を走らせると、神官のメモというよりは、日記のようだった。

    『教皇より勅命と聞いてきたのに、赴任先が大聖堂ではなくその手前の、ここまで寂れた教会とは……。全ては神のおぼしめしとはいえ、修業が足りないわが身を恥じ入るばかりである』
    『自称魔王だという農民が大聖堂で追い出されたとこちらへ来た。暴れるので騎士団が捕らえて連れて行った』
    『なんと、大聖堂が近いとはいえ教皇が。……驚いたので、日記が途中になってしまった。教皇が言うには、この教会にある勇者の装備は、本物だという。冗談をおっしゃる方ではないが、冗談かと思った』
    『確かに、言われてみると、大聖堂の聖剣よりも鋭いような……。レプリカで新しいから煌めいているわけではないのか』
    『しかし、魔王以外の魔物にすらダメージを与えることはできなかったという伝承があるが、あの自称魔王という農民が暴れた時に聖剣に触れた際に怪我をしたことから、これだけはただの伝承であると思われる』
    『あまりに暇で、台座となっている岩から聖剣を抜こうとするが、びくともしない。やはり勇者にしか抜けないのだろうか』
    『大聖堂のレプリカを抜けるかどうか試そうとしたら、めちゃくちゃ怒られた。これから荷物をまとめるところだ。こんなことしなければ、ここまで貴重な教会の神官に選ばれたのだから、次期教皇は私であったのかもしれない』

    「……クビ!?」
    「うーん、この人がクビになって、他の教会に移転とかされてはいないのでしょうか?」
    「……この神官は、口封じをされた。大聖堂の地下で、幽閉に等しく神職を続けている。おそらく、移転はされていないだろう。この教会の場所は、大聖堂を守る騎士団がおっても不思議ではないという利点もあるのじゃ」
    「そんな大事なことを、教えてくださって良かったのでしょうか?」

     僕が尋ねると、賢者様はちょいちょいと僕の袖を引いた。カレンから少し離れて、小声で言う。

    「カレンは、誰に笑われようとも勇者のパーティーに入るのが目標と常々言っていた。もちろん、君が勇者になるのが最もいいが、もしもこのまま魔王が現れず勇者が選ばれなかった場合、『聖剣を見つけ出した』と勇者の冒険に携わらせてやりたいのだ」
    「……賢者様……」
    「それに、『そんな彼女に聖剣のありかを教えた』と、わしも物語の一部になりたい。……まったく、わしの若い頃を思い出すよ」

     賢者様は顔をくしゃくしゃにして笑った。

    「カレン、せっかく来たのだ。転移魔法を教えよう」
    「きゃー! 本当ですか!? 賢者様!」
    「この転移魔法と最強呪文を覚えれば、旅がかなり楽になるだろう。様々なダンジョンで経験を積むといい」
    「じゃあ、僕は、螺旋階段の魔物でも倒しておきます」

     僕はカレンが新しい魔法を覚えるまで、ひたすら一人で修業した。
     一人の方が、自分の体力だけを考えればいいので随分楽だ。マーロンは本当にすごい奴だったんだよな。

    「……強くならないと」

     この時僕は、大抵の魔物に反撃されずに倒すことができるようになっていた。
     カレンを守るため、勇者に選ばれるため、死にもの狂いで戦った成果が出始めていたのだ。
     僕達は、カレンの転移魔法でセントラル大聖堂へと向かった。転移魔法は大きな手で頭と足を掴んで伸ばすように引っ張られるような感覚があって、着地の際にはビリビリと体が痛んだ。確かに一週間かかるところを一瞬で移動できるのは楽ではあるけど何度も使いたいものではなかった。
     セントラル大聖堂は教皇が暮らしていて、そこで世界の安全を祈っている。聖剣が煌めきを放ちながら大きな台座の上に鎮座しているので、きちんと参拝に訪れる信者だけでなく、観光客も多く訪れる場所だ。

    「……なんだか、慌ただしいわね?」
    「そうかな?」

     カレンに言われて見てみると、確かに観光客に紛れて神官が走り回っていた。
     やがて聖剣を見物する番が回ってきた。装飾はほとんどないのにとても美しい剣で、レプリカとわかっていながらも見とれてしまう。聖剣を覆うガラスは、見物客の指紋がたくさんついてしまっていた。
     続いて、近くにある教会へ向かう。神官のメモにあった通り、本当に寂れていてがらんとしていた。聞いていたよりも大聖堂を守る騎士はあたりにいない。真面目そうな神官が黙々と掃除しており、シスターさえいなかった。

    「こんにちは、お祈りさせてください」
    「おや……、これは失敬。人が訪れるなど数ヵ月ぶりで」

     僕は形式だけのお祈りをして、聖剣を見た。

    「……大聖堂のと違って、ガラスに入っていないのですね」
    「こちらはレプリカですから」
    「触ってみてもいいですか?」
    「あぁ、お土産用に木の棒を削り出した物と、冒険者さん用には鋼を鍛えて特別に装飾してもらったレプリカを大聖堂で販売しています。昔怪我をした人がいまして、触れるのは禁止なのです。大聖堂のものよりも近くで見るのは構いませんよ」

     本物の聖剣は、大聖堂のレプリカほど煌めいてはいなかった。しかし、何か力を秘めていることが滲み出るような風格があった。聖剣を見ている途中、バンッと大きな音を立てて協会の扉が開いた。大聖堂の騎士が飛び込んできたのだ。

    「神官殿!」
    「おや、今日は珍しいことが二つも。どうされました?」
    「それが……、大聖堂の結界が破られたので、こちらも警備をするようにと」
    「結界が破られた?」
    「大変! 私達、傭兵なんです。警備お手伝いしますよ!」
    「しかし、うちは報酬を払うほどのお金は……」
    「そんなものいりませんよ」
    「それは助かります。まぁ、何かあるとすれば大聖堂の方だと思いますけどね」

     騎士は、聖剣の秘密を知らされていないらしい。僕達は武器を構えて頷き合った。
     だけど、万が一魔物がこちらを襲ってきたら、魔物が聖剣のありかを知っていることになる。魔王復活の近さを表すバロメーターのようだと思った。
     騎士と並んで、教会を守るように立っていると、突然キーンと耳鳴りがして頭が痛くなった。

    「結界を張り直したみたいね。ここまで届くなんて、すごい力」
    「さすが、魔法使いさんにはわかるんですね」
    「結界を張り直したってことはもう大丈夫かな。カレン、町に戻ろうか。少し頭が痛くて」
    「転移魔法、ひどかったもんねぇ」

     騎士と神官が見送ってくれるなか、転移魔法で町へと戻った。やっぱり気持ち悪いので、非常時以外は使いたくない。
     僕達は、とりあえず聖剣のありかを確認し、勇者に一歩近づいた。
     その後も、僕とカレンはバリバリと依頼をこなしていった。

    「ディス、本当に強くなったね。今日なんて、私がまだ呪文唱えてる時に倒しちゃったし」
    「まぐれだけどね」
    「知ってる? 私達、勇者に一番近いコンビって言われてるんだよ!」
    「嬉しいな……、ちょっ、見ないで、今すごく照れてるから」

     カレンとじゃれあう中で、ふと賢者様の言葉が蘇る。
     ――もしもこのまま魔王が現れず、勇者が選ばれなかった場合。
     僕もそろそろ三十歳になるし、その場合のことも考える必要がありそうだ。カレンが、勇者のパーティーに入ることだけを夢見て何もならない人生だったと言われるのは辛い。そろそろ、恋人から次のステップへ進んでもいいのではないかと考えるようになっていた。
     カレンはきっと受け入れてくれるんじゃないかな、なんて思っていた。
     だけど、せっかく勇者に一番近いとまで言われるようになったのだから、最高のプロポーズをしたかった。

    「次の依頼はどうする?」

     酒場へ向かいながらカレンと話していると、町はにわかに騒がしくなっているように感じた。酒場に着いた途端、肩を掴まれる。

    「ディス! カレン! 大変だ! 北の山にアイスドラゴンの群れが現れたんだ!」
    「群れ!?」

     アイスドラゴンは群れるタイプではなく、その分一体一体が強敵だ。縄張り意識も強く、付近は凍りつき全ての生き物が住めなくなる。だから、アイスドラゴンの群れというのは考え得る限りで魔王復活くらい最悪な出来事だ。

    「今、城の騎士団で討伐隊が組織されているらしいけど……」
    「城からは丸三日かかるじゃないか! ……カレン」
    「いいわよ。先発するって言いたいんでしょ?」

     カレンは、髪をかき上げてウインクした。カレンの腰を抱き寄せて、僕は拳を振り上げた。

    「僕とカレンで討伐隊に先駆けて先発する! みんなは、僕達がいない町を守ってくれ。それから、アシュリー」
    「は、はいっ!?」

     最近ギルド運営者として派遣されたアシュリーは、酒場のカウンターの中で飛びあがった。

    「ギルドの連絡網を通して、王都に伝えてくれ。先発のこと」
    「はい!」
    「ディス、一応、これ」

     ルコスが世界樹の葉を押し付けてくる。

    「帰ってきた僕に使わせるなよ?」
    「そっちこそ、ちゃんと返せよ」

     僕とカレンは、声援を背に受けながら北の山を目指した。
     本来、北の山の麓はのどかな場所だった。今は、アイスドラゴンに居場所を追われた魔物がうろつく危険地帯となっている。

    「みんなを町に残してきて正解ね」

     手が届く範囲の魔物を斬り捨てながら前へと進む。カレンも呪文を次々放っているのに疲れの色は一切見せなかった。

    「今日はおんぶしないよ?」
    「私もちょっとは鍛えたから大丈夫」

     素早さを上げる補助呪文をかけて、二人で山頂を目指す。初めは良かったが、少し標高が上がるとあたりは猛吹雪になっていた。カレンの竜巻の呪文で雪を巻き上げ、道を作りながら進んでも、さすがに一日での踏破は厳しく、野宿を覚悟しなければならなかった。

    「ディス、あそこ、山小屋じゃない!?」

     カレンが指差した山小屋はアイスドラゴンが発する強力な吹雪により凍結し始めていた。火の玉を調節しながらドアを塞ぐ雪を溶かして中に転がり込む。中には、木こりがベッドで寝ていたが、寝ている間に吹雪が始まったのか既に冷たくなっていた。

    「仕方ないわ。昨日まで暖炉を入れるような寒さじゃなかったもの」

     木こりをベッドに寝かせたまま、持ってきた寝袋を暖炉の前に広げる。暖炉に火をつけてしばらくすると、あまりの疲れにおやすみも言わずに眠りに落ちていた。
     翌日、起き出して暖炉の火で朝食をつくり、再び山頂を目指す。猛吹雪を進むうち、頂上の開けた場所に辿り着いた。

    「ついた……」

     僕の言葉にうなずくことなく、カレンが絶句する。そこには確かに、巨大なアイスドラゴンが群れをなしている。山の頂上で、大きな建物が立ち並んでいるかのようだった。
     勝てるかどうかの不安など、なかった。
     勝てる。それどころか、これだけの数のアイスドラゴンのウロコを売れば巨万の富を得られる。カレンに最高のプロポーズができるとさえ確信していた。

    「カレン、行くよ」

     カレンは、アイスドラゴンの群れの前で、大きな目を見開いてただただ立ち尽くしていた。

    「……、ここにいたら危ないから、自分の身は、守ってね」

     このままカレンを待っていたら共倒れになる。
     そう思った僕は、アイスドラゴンの前に躍り出た。

    「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

     渾身の力を込めて振るった剣は、一番近くのドラゴンの首を刎ねた。次も、その次も、その次も、その次も、その次も。ウロコの周りに付着した氷を砕き、ウロコを砕き、骨を砕いた。
     全て一撃で倒せるため、僕への攻撃は一切ない。
     余裕だった。
     あと数匹というところで残りのドラゴンが逃げ出し、そこに立っているのは僕だけだった。

    「カレン、見てた?」
    「た、倒しちゃった……ね」
    「やったね」

     アイスドラゴンの冷気が消えたので、寒さが幾分か和らいだとはいえ、氷が残ったままの山頂は冷えたので、カレンは歯をかちかちと鳴らしていた。
     アイスドラゴンのウロコを剥がそうとしていたとき、討伐隊が上がってきた。

    「吹雪が止んだから、まさかとは思ったが……」
    「すごい、英雄じゃないか」

     騎士団長が走ってきて、アイスドラゴンの遺体と僕を見比べる。

    「一人でやったのか?」
    「えぇ、まぁ。そこにいる彼女とパーティーを組んでて」
    「近くの町から先発したというギルドの方ですな?」
    「はい」
    「素晴らしい。被害がかなり少なく済んだ」
    「あ……、途中の山小屋に、木こりが一人……。逃げ遅れたみたいです」
    「ありがとう。その木こりは丁重に葬ろう」

     座りこんでいるカレンを騎士たちが労わっている。

    「あ、すまんが、ウロコは騎士団で処理させてもらう。触らないでくれ」
    「えー……。うちみたいなしがない傭兵はタダ働きですか」
    「王様から報奨があると思うから、ここは我慢してくれ。アイスドラゴンはうちの国で倒したという証がほしいのだ」
    「わかりました」

     カレンを連れて山を下りると、町では一足先に宴会が行われていた。

    「ディス! 無事だったんだな!」
    「ルコス。ただいま。ほら、世界樹の葉、返すよ」
    「よかった……。本当に心配したんだぞ。アイスドラゴンなんて……」
    「……疲れたから、寝るわ……」

     カレンが呟くように言って、酒場を離れる。僕は宴会で盛り上がる人々に揉みくちゃにされながら三日三晩飲み明かした。
     そうして、気付けば馬車の中にいた。

    「!?」
    「よく寝てたね」
    「あなたは……」

     アイスドラゴンを倒した時にきた騎士団長だ。そういえば王様から報奨があるとか言ってたっけ。

    「えーと……どういう経緯なのか覚えてないんですが……」
    「宴会の途中で引っ張り出す形になってしまったからね。みんな酔っぱらっていたから盛大に送り出していたよ」
    「すみません、酒に強くなくて……」
    「英雄に勧めないわけにはいかないから、仕方ないさ。ついたら着替えてもらうよ」
    「はぁ……。あの、カレンは?」
    「彼女は、倒したのか君一人だからと辞退していたよ」
    「そ、そうですか」

     ガタゴトと揺れる馬車が二日酔いの体を揺さぶる。それ以上は喋ろうとするのを諦めて大人しく寝ることにした。
     城下町の近くまでは行ったことがあったが、城下町、ましてや城なんて近付きもしなかったため、その大きさに度肝を抜かれた。城下町でも何やらお祝いムードだった。

    「お祭りでもあるんですか?」
    「あなたを讃えているんですよ。あなたはけろりとしていたが、勇者に最も近い英雄なのです。アイスドラゴンの群れなんて、何百年に一度あるかないかの国の滅亡の危機だったんですから」
    「……へぇ……、僕のことを……」

     英雄。勇者とは違うが、いい響きだ。相当に酒臭いのか、風呂に入れられて肌触りのいい服を着せられた。
     そうして、僕はついに王様と対峙した。
     王様は、若々しくどっしりとしていた。目の前に立つだけで緊張する。僕がきょろきょろしてしまうのに対して、王様はじっと僕を見ていた。

    「英雄殿にそう緊張されるとこちらが恐縮してしまうな」
    「す、すみませ……あ、申し訳、ありません。えと、自分は、ただの羊飼いの息子なので……その……どうしても緊張してしまいます」
    「どうして羊飼いの息子が傭兵になったのかな?」
    「……僕は……、あ、いえ、私は、あの……ゆ、勇者になるのが、夢でした」

     王様は真剣に聞いてくれるので、少し緊張が解けた。少し息を吸って、続きを話し出す。

    「私が小さい頃に、魔物が村を襲うようになりました。王様もご存知の通り、魔物は増えています。魔王が復活するのも、近いと……ずっと言われていました」
    「そうだな」
    「それで……、もしも、神が勇者を選ぶ基準が、強さだったら……僕が選ばれるように……。もしも、勇者は運命で決まっているのなら、そのパーティーに入れるように……。強くなりたいと思いました。そして、今も毎日鍛錬しています」
    「……素晴らしい。騎士団へ……と思ったが、騎士団にいては勇者のパーティーには入れないからね」
    「そ、そうです。あ、でも、あの、この国のことを守りたいと思う気持ちは、きっと騎士団の人達と同じです」
    「ありがとう」

     王様は、僕のような人間にも平等に笑いかけてくれる人なのだなぁ。玉座にふんぞり返っているだけの人かと思ってたけどとんでもない。素晴らしい人だ。

    「私は、ここ数日のお祭り騒ぎで思ったよ。本当は、勇者を選ぶのは、神ではなく民なのではないかと」
    「……」
    「予言でも、魔王は近々現れるという結果だそうだ。その時に君が選ばれるならば、我が国は世界中に喧伝しよう。我が国の勇者は、民に愛され世界一強い、最高の勇者だと」
    「ありがとうございます」

     これ以上ない言葉に、不覚にも泣きそうだった。
     カレン、僕達、最高のパーティーだって。