永遠少年症候群

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    ブクログのパブー……電子書籍形式。詩の投稿はこちらのみ。
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    傭兵ディス

     酒場の掲示板の中から、身の丈に合った依頼を選ぶ。
     両親には週に一度手紙を書いた。両親からは、返事と共に食糧が届く。

    「ねぇディス、本当にパーティーは組まないのかい?」

     僕の背中に揉んだ薬草を塗りながら女将さんが言う。身の丈に合った依頼は怪我も多いけれど、着実に僕を成長させてくれていた。報酬で装備をそろえることもできた。
     僕のような一人で戦う傭兵は少なく、女将さんは何かと世話を焼いてくれる。

    「僕は勇者になるために、とにかく強くならないといけないんですよ」
    「だけど、勇者みたいな復活の加護はないんだから、ほどほどにしないと」
    「はいはい」

     「はいは一回!」と言いながら女将さんが背中を叩く。ヒリヒリした痛みに悶絶していると、ずいっとチラシを差し出された。

    「パーティー組む気がないなら、せめてギルドに入りな。人数制限がある依頼は必ず出てくる。そんなとき、ギルドの中で即席のパーティーを組むのさ」
    「うーん……ギルドは、上納金がなぁ」

     酒場でも以前誘われたけれど、それを理由に断った経緯がある。

    「それ以上に稼げばいい話だ。いいかい、いくら強くなっても毎回背中を怪我してくるじゃないか。何か欠けてる部分があるってことさ。あたしはね、あたしの宿に連泊してくれる上客がコロコロ死んでくのは嫌なんだよ」
    「……でも」
    「ギルドに入ったら、ギルド割引で一泊10ゴールドのところが8ゴールドになる」
    「入ってきます」

     女将さんにもらったチラシを頼りに、酒場のお姉さんに話しかける。

    「ギルドに入りたいんですけど……」
    「あら、前あたいが誘った時は上納金で渋ったじゃないか」
    「はい、今なら払えますし……」
    「……チッ」
    「あ、あの、入っちゃまずいですか?」
    「いーや、大歓迎さ。あの宿屋の女将と賭けてたのさ。あんたが一週間以内にギルドに入るかどうかね」
    「……」

     お父さん、お母さん、僕は優しさだと受け取った言葉が賭けに勝つためのものでした。少し心がささくれ立ちます。
     賭けのためだったとはいえ、女将さんが言ったことは本当だ。気を取り直して、ギルドに登録する。僕が上納金を出している間に、お姉さんがギルドの説明を始めた。

    「さっそくだけど、人数制限がある依頼とギルド限定の依頼を受けれるようになったからこんだけ依頼の幅が広がるよ。うちのギルドは世界中にあるから、頑張りな」
    「はい。あ、じゃあさっそくこれを受けてみます」
    「はいよ。明日の夜明け前に街の入口集合だ」

     指定された時間に街の入口へ向かうと、既に何人か傭兵が待っていた。そのうちの一人には見覚えがあった。酒場でよく会うので、仲良くなった奴で、名前はマーロンという。左目の斜め上に傷があり、歴戦の傭兵だと感じさせる。

    「よう、ディス。ついにギルドに入ったんだってな」
    「うん。1年一人でやってみたから、足を引っ張らなくてすみそうだし」
    「ディスがいれば、かなり楽できそうだな。おーい、みんな。ギルドの新米のディスだ。一匹狼のディスがついに入ってくれた」

     大袈裟に紹介されて照れるけど、みんなが受け入れてくれたのでほっとした。
     僕達の依頼は、群れで生息する魔物の巣を壊滅させることだ。僕達は慎重に進みながら依頼を達成した。
     女将さんの言う通り、ギルドの恩恵は僕の弱点を教えてもらったり他の人の技を参考にしたりと依頼の幅が広がるだけではなかった。腕試しとして個人で依頼をこなしながら、僕は自分に力がついていくのを感じていた。目をかけてくれる先輩傭兵が少なからずいて、難しい依頼にも誘われることもあった。
     その日のギルド限定依頼は、近隣の町を襲う盗賊団を撃退するというものだった。勇者を目指すのだから、僕はこういう正義の剣を振るう依頼は多少難しそうでも必ず受けるようにしていた。ギルドからの参加者の中には、マーロンもいた。

    「ディス、やっぱり来たな」
    「もちろん」

     ギルドに入る前は知らなかったが、マーロンはギルドの中でもかなり強い。それにパーティーの状態を把握するのもうまかった。勇者になれた時には、きっとマーロンのような采配でパーティーを率いなければならないと思っているくらいだ。
     盗賊たちのアジトは人里離れたところにあり、気付かれないように進むために半日かかった。

    「きたぞ!」

     盗賊たちがやってきた。盗賊たちは、今までもギルド内で結成されたパーティーを壊滅させている。僕達が待ち構えているのも想定通りとでもいうように、僕達に躍りかかった。
     僕が剣で防いだすきに、毒針を持っているルコスが盗賊へと攻撃する。そしてルコスを狙う盗賊を僕が倒す。
     マーロンは頭らしい男と一対一で対峙していた。力は互角で、まだ手助けは必要なさそうなので他の盗賊を倒してからマーロンの加勢をしようと身をひるがえした。毒針使いのルコスは騎士風の重装備をしたイッカクとコンビで盗賊を倒している。僕も奮起して盗賊を更に二名倒したところだ。
     ギルド側の優勢に、気分は高揚していた。

    「あとはそいつだけだ、マーロン!」

     僕が叫ぶと、マーロンはニッと不敵に笑った。全員ボロボロで、だけど目前の勝利に酔っていた。
     そして一瞬の後、マーロンがキッとこちらを睨みつけた。

    「ディス! 後ろ!」

     瞬間、後ろを振り返るとまだ息のあった盗賊が僕に向かって剣を振り上げていた。剣を突きだし、今度こそ盗賊を倒すとルコスの太い叫び声が聞こえた。
     視線の先にあったのは。

    「……マー……、ロン」

     盗賊の頭の剣が腹を貫通している、マーロンだった。
     まだ動けるイッカクと共に、盗賊の頭に斬りつける。勝利は見えていたし、勝利に違いなかった。今回のメンバーは誰も心肺蘇生魔法を覚えていなかったし、万能の薬となる世界樹の葉も持っていなかった。それらの効果があるのは30分。30分以内に町に戻ることができれば、町の誰かが持っている世界樹の葉を使えたかもしれない。
     僕が、油断しなければ。僕を気にして、マーロンが刺されるなんてことにはきっとならなかったのに。
     マーロンが倒れる姿が、スローモーションのようだった。

    「マーロン!!!!!」

     僕が油断したんだ。
     依頼は達成したけれど、失ったものが大きすぎた。報酬はすべてマーロンの家族に渡した。マーロンには奥さんがいて、子どもがいた。泣いて遺体に縋るマーロンの家族に、僕はどういう言葉をかければよかったのだろう。
     マーロンの葬儀の日、僕は酒場に来た。

    「マーロンの、好きなのを二杯ちょうだい」
    「まったく、マーロンは一人よ。みんな同じ席についてちょうだい」

     そうして酒場のマスターが指差したのは、ルコスとイッカクだった。彼らも同じ頼み方をしたらしい。三人でテーブルを囲んで、4杯分のグラスがきた。

    「……僕が油断しなければ完勝できた。……ごめん」
    「……お前だけのせいじゃない」
    「俺達も……」
    「俺なんか、動けなかった」

     みんなで泣きながら、マーロンの思い出を語り合いながらお酒を飲んだ。僕はお酒には強くないのに、いくら飲んでも酔うことはなかった。
     この日から僕は、敵に対して必要以上にとどめをさす癖がついた。

    2016/10/14公開