永遠少年症候群

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スターマイン

 よし、と膝を叩いたようちゃんは、目をキラキラと輝かせている。こんなようちゃんを見るのは久しぶりだとか、その目をするときはろくなことを言わないとか、そんなことを考える。だけど、この、前しか見ないようちゃんの、キラキラと輝く瞳に私が映るの、好き。

「夏祭りを復活させる!」

 それは、ようちゃんからどうしようもなく寂れたまちへの、宣戦布告のようだった。

「洋介、本気?」
「本気だ。もうすぐ三十だし、ちっとは顔もきくようになった。今だ」

 地元に残った同級生数名での同窓会は、一瞬しんと白けた。私が、慌てて口をひらく。

「ようちゃん、何か考えがあるんでしょ?」
「花火は打ち上げたい」
「うん」
「それに、盆踊りも復活させる」
「うん」
「テキ屋も出てもらう」
「おいおい、随分デケェな」
「どうせならデッカク!」

 ようちゃんがニヤリと笑うと、他のみんなにも、それが伝染していく。昔からそう。ようちゃんには、誰も反対できない。偉そうとか、力が強いとかじゃなくて、あっという間にみんなの心を掴んで同じステージにあげてしまう。
 私の心なんて、三十年間掴まれっぱなしだ。今は一応、私がめちゃくちゃ頼み込んで付き合ってるんだけど、結婚って言う言葉は出たことがない。

「……じゃあ、農協に協力してもらえないか聞いとくよ」
「私も……何か申請がいるのか役場に聞いてみる」
「よし! じゃあ、また来週集まってやんぞ」
「何も、正月から動かなくてもいいんじゃねーか?」
「いや、本当は夏から考えてた」

 賢治くんが、肩をすくめる。この温度差、何か起こりそうで怖いな。
 私は、さっそく年始明けの役場の職員さんに祭りを復活させたいという話をした。

「んー、無理だろうね」
「か、考えもせずに無理って」
「お金はどうするの? 場所は? 花火なんかやって怪我人が出たら?」
「そ、それはまだ決まってない……んですけど……、あの、えーと、何か申請とかいるんでしょうか?」
「いや、町からお金は出せないよ?」
「お金じゃなくて……」

 無理、と一蹴されただけで、何にもわからなかった。もしかしたら私が舐められてるだけなのかも。ようちゃんが窓口に行けば、もしかしたら……。スマホの電話帳からようちゃんを呼びだしてはかけるのをためらい、報告できなかった。
 翌週、賢治くん以外のメンバーが集まった。賢治くんがいないことに、ようちゃんは微妙な顔をしたけどとにかく、全員の進捗を報告する。

「役場に、これまでの祭りのこととか聞いたけど全然……無理って言われちゃった」
「農協は前向きだったぞ。協賛金くれるって」
「悪い、遅れた」
「賢治、来ないかと……、うわ、酒くさ! 飲んでたのかよ」
「ゲスト連れてきた」
「こんばんは」

 町長、だった。

「……こんばんは?」

 賢治くんは、町長も集まる会議の懇親会で町長にお祭りの復活について話して、引っ張ってきたらしい。

「親父の会社の専務理事だからな、俺」
「彼にきいたよ。祭り、私も昔は手伝ったものだ。協力させてもらうよ」
「……え、あ、はい。すごく……嬉しいです」
「まずは、日時と場所、内容を決めて予算規模を確定させてほしい」
「はい」

 町長が一足先に帰って、全員が賢治くんを見た。賢治くんは真っ赤な顔をして酔っぱらったまま、眠そうな顔で足を投げ出して座っている。

「お前、先に言えよ!」
「……サプラーイズ」
「いやー、賢治お前最高。町長が言ったことちゃちゃっと決めてアッコに無理って言った奴の顔拝みに行くか」

 日時と場所と内容。それらを決めていったら、三月には町の事業として予算が付いた。昼間に堅苦しい会議があって、予算の関係で少しずつ理想から離れていく。
 海水浴場の前になるはずだった会場は商店街の人達が騒いで商店街になった。花火は、水中花火がいいと思ってたけど、場所の変更に伴って小学校のグラウンドであげることになった。
 盆踊りに合わせて行うから、盆踊りを練習することになった。真面目に練習に行くのは私くらいのものだ。まぁ、みんなは男だから太鼓とかなんだけど。
 疲れる。泳ぎ疲れたような気がする。すごく疲れたのに、もがいてないと沈んでしまう。

 夏祭りを目前に控えたある日、ようちゃんと全く連絡がつかないと困り果てた様子の電話がきた。折り返すと言って電話をきり、ようちゃんがいそうな場所に行ってみる。……いた。黄昏れて町を見下ろしているようちゃんは、子どもの頃のままだった。

「ようちゃん」
「どこに隠れてもアッコには見つかる」
「……なんか、理想と離れちゃったね」
「そういうもんだ。町長も半年後には選挙がある。いいイメージ戦略になったろうさ」
「そうなんだ」

 町長は熱意だけで動いてくれたわけじゃないんだ。
 ようちゃんの横に座ると、ようちゃんは煙草を灰皿にグリグリと押し付けた。禁煙破ったんだな、と横目で見ていると、ようちゃんはどこか遠くを見ているようだった。

「なんでお祭りを復活させたいって思ったの?」
「んー……別にさ、純粋な目的じゃないんだ。俺、昔祭りで一目惚れしたことがあって」
「え?」

 長らく一緒にいたけど、そんな話は初めて聞いた。

「親戚の家に来てた子とかなのかな。とにかく、今でも後ろ姿だけ覚えてて」
「……そうなんだ」
「夏祭り復活させれば、なんとなく会える気がしてさ。まぁ、綺麗な子だったから同い年だとしてももう結婚してるだろうし、見るだけでいいんだ」
「ずっと……その子に片想いしてるってこと?」
「いや、好きってわけじゃない。あ、勘違いするなよ。お前と別れるつもりはないよ。あるだろ? 一生忘れられない絶景みたいな。なんかあの浴衣姿が忘れられなくて、どうにかしてもう一度見たいんだ」
「……そうなんだ」
「あ、そうだアッコ。浴衣、買っとけよ」

 言われて、ドキッとした。ようちゃん、私の浴衣が見たいってこと!?

「私達、運営スタッフでしょう? 無理だよ、浴衣なんて」
「盆踊り、先生が必要だろ。盆踊りの人が浴衣着ないと他が着にくいだろ」
「そ、そっか。うーん、浴衣かぁ。何色にしようかなー」

 笑って浴衣の話になったけど、私の胸はチクチクと痛んでいた。
 もしも、その子が独身だったらどうするの? 別れるつもりはないなんて言っても、結局は私が頼み込んで付き合ってる状態なんだから。だから、結婚の話もないんじゃないの。

「……聞くんじゃなかった」

 夏祭り当日。お盆の帰省客で会場はごった返していた。

「懐かしいなー。私達が小学生の頃だよね、前回のお祭り」
「うん。カナミの家で浴衣着せてもらったよね」
「アッコ、昔も赤じゃなかった?」
「そうだっけ? 覚えてないよ」

 本部にいると、帰省してきた同級生がたくさん来てくれた。ようちゃんは小学校にいる花火師さん達に挨拶に行っていて、そちらの搬入などを手伝うそうで、まだ浴衣姿を見せれていない。
 盆踊りは夕方からで、盆踊りが終わってから花火。
 既に屋台はズラリと並び、狭い商店街に多くの人が詰めかけている。
 慣れない人ごみにヒーヒー言いながら、盆踊りの位置についた。始めは小さかった輪も、子ども達や昔の盆踊りに参加していた人たちが参加し始めると、大きな輪になって広がっていった。
 すごい。すごく、盛り上がってる。たった一言、お正月にようちゃんが「夏祭りを復活させる」って言ったのが、実現してる。
 あ、ようちゃん。ステージの方にいる。なんでステージ?
 なんとか踊りきって汗をぬぐっていると、花火が始まるというアナウンスが流れた。

『花火の前に、実行委員長の植木洋介より、ご挨拶があります』
『ただいまご紹介にあずかりました植木洋介です。この夏祭りは、僕が小学生だった20年前に一度終わりました。今回、復活させたかったのは、昔、夏祭りがキラキラしていて、とても楽しくて、あの体験を子ども達にさせてあげたかったからです。赤い浴衣の子に一目惚れした僕のような、経験をさせてあげたかった。今日のこの夏祭りは、たくさんの人に支えられて開催することができました。来年以降も続けられるように、まちのみんなで力を合わせていきましょう。今日はありがとうございました!』

 拍手がまばらに起こる。
 次の瞬間、ヒュ~と音がした。花火の笛の音。一瞬の静寂の後に、ドォンと花が散る。しばらく見上げていたけど、後ろから腕を引かれて振り返る。

「アッコ」
「ようちゃん、すごいね、復活したね」
「おう」
「いた? 初恋の人」
「……いた」

 心臓が痛い。その人が独身だったら、ようちゃんは……?
 どうしよう。思ってたよりも動揺してしまって、言葉が出ない。

「……俺、馬鹿だからさ、幼馴染の女の子が別人みたいに綺麗になるってこと、全然理解してなくてさ」
「ん?」
「俺、ガキの頃アッコに一目惚れしたっぽい」
「……。えっ」

 次々と花火が上がるスターマインの演出で、花火も見ずに私を見てるようちゃんが色とりどりに照らされる。
 それは私が何年も積み上げてきた恋心が弾けたような花火で。
 きっと私達は、その時初めて本当の恋人になれたんだと思う。

 少女マンガフゥゥゥゥゥ!
 LUNKHEADのスターマインです。
 いい音である。
 こういう町長とか権力者を押さえて何かを成し遂げる方法、田舎ではよくありますが反感買う&お役所仕事でマンネリ化して大抵続けられなくなります。
 この掌編小説は、著作権を放棄します。