永遠少年症候群

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ファンタジー、恋愛要素、ハッピーエンド多め。
たまに暴力やグロテスクな表現があります。
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    帝国歴311年11月下旬

    「おはようございます」

     風邪が移るといけないからとずっと来ていなかったグラッスくんが、久しぶりに朝ご飯を食べに来た。

    「あら、おはようジェイドくん。風邪は大丈夫なの?」
    「はい! 今日から訓練も参加していいですよね、大佐」
    「うん」

     あれから、ドーソンくんはいつも通りだ。私は何故と聞いたとして、どういう答えが欲しかったのか。それすらもわからない。
     足元の影をのぞきこむ私の横で、グラッスくんが首をかしげる。

    「大佐、考えごとですか?」
    「んー?」
    「そういえば、ドーソン少佐とはどうなったんですか? 告白とかされました?」
    「は?」
    「えー、そういう空気だったじゃないですか」

     いつだ。『そういう空気』っていつのことだ。
     ていうか何故ドーソンくんが私に!?

    「……だって、ドーソンくんってエヴァのことが好きなんだよ、確か」
    「え? いやいやいや……大佐、それ、絶対間違ってますよ。自分にとってはそっちの方が好都合ですけどね」
    「?」

     私、こんなに部下の言葉の意味が図れなかったっけ。
     だめだなぁ、日に日に大佐としての自信がなくなっていく。

    「……雨だ」
    「そうですね」

     今日の訓練は控えよう。湿気が綺麗な音を歪ませる。
     静かに執務だけをこなしていたが、突然の珍しい来客に執務室は騒然とした。

    「お、女の子だ……」
    「女がいる……!」

     私は何なんだ。
     口々に言うメンバーの視線を辿ると、入り口にちょこんとニコル・アーレントが立っていた。

    「ウィルソン大佐、いますか」
    「ニコル。久しぶりだね」

     執務室の外に出ると、ニコルは少しだけ首を傾げた。

    「大佐だったんですね」
    「うん。でも友達なんだからアリスって呼んで。ね、ニコル」

     ニコルはこくりと頷いた。
     場所を近くのカフェに変えて、コーヒーをすする。ニコルはココアを冷ましながら少しずつ飲んでいく。可愛いなぁ。

    「元気だった?」
    「うん、アリスは?」
    「私も元気だよ」
    「この前、第一の……大佐との、対決、見たよ」
    「えっ」
    「アリス、負けちゃったけど、かっこよかった」
    「そ、そう?」
    「うん」

     ……一体何人が見てたんだろう。

    「蹴り飛ばされてたけど、大丈夫なの?」
    「うん、防弾チョッキ着てたし。大したことは……」

     ドーソンくんに担がれて第七に行ったら蹴られたところが熱を持ってたんだっけ……。
     それより、と言うとニコルはぱちくりと大きく瞬きをした。

    「何か用があるんじゃないの?」
    「……あ……」

     ニコルは少しモジモジして、恥ずかしそうに俯く。

    「アリス、告白って、されたことある?」
    「え……ないけど」
    「そうなの? アリス、もてそうなのに」
    「全然。今日だって、ニコルを見て女の子だ! だってさ。私だって女だっつーの」

     そりゃあ、女だと意識させないように振る舞ってるのは自分だけどさ……。

    「役に立たないだろうけど一応聞かせて」
    「最近ね、急に二人の人に告白されて……」
    「おぉ、モテるねー」

     もう、とニコルははにかむ。ココアをくるくる混ぜ続けている。

    「で、どっちがいいの?」
    「どっちも好きなの。あ、好きって言っても、どっちも……恋愛感情じゃなくて、好感で」
    「うん」
    「だから……困ってるの」

     ニヤニヤしながら聞いていて、ふと気付く。私、恋愛相談されるの初めてだ。というかまともな恋愛もしたことがないのに、恋愛相談を受けてもどうしようもない。
     アリスはもてそうって言ったよな。つまり、ニコルは私が恋愛経験豊富そうだと思ったから相談してきたわけだ。

    「……ちょっと待って。私じゃ恋愛相談は役に立たないから、友達呼ぶ」
    「だ、誰を?」
    「私の士官学校からの友達の第七の少佐。嫌?」
    「い、嫌じゃない」

     ニコルはちょっとだけ恥ずかしそうに、人見知りするから緊張すると言った。本当に可愛い。妹がいたらこんな感じかな。
     ロゼッタに電話して、カフェに来てもらうことにした。

    「相手は第六の人?」
    「大尉と、少佐」
    「ふーん……。少佐を断って大尉と付き合ったら大尉の立場が悪くなりそうだね」
    「ふぇ……」

     あ、今、すごく余計なこと言った。うん、ごめん。

    「ごめん、アリス。待たせたわね」
    「あ、ロゼッタ。ニコル、ロゼッタだよ。こっちはニコル」
    「初めまして、ニコル」
    「こ、こんにちは」
    「アリスにこんな可愛い友達がいるなんてねー……。それで、どうしたの?」

     ニコルはつたないながらも一生懸命今の状況をロゼッタに話す。ロゼッタには私が質問した内容とその答えも。

    「ふーん……どちらも好感ねぇ。今はどちらか選べなくても、そのうちの一人と付き合ってみる気はあるの?」
    「あ……いえ、それも……わかんなくて。私、二人共好きだし、あ、好きって言うのは」
    「ただの好感、よね」
    「……はい」
    「急ぐことはないんじゃないかしら。その人達が本当にニコルちゃんを好きなら、待ってくれるはずだし努力をしてくれるんじゃない?」

     おぉ、さすがロゼッタ。よくわからないが答えを出してる。

    「ロゼッタ、努力って?」
    「例えば、誰よりも……アリス自身よりもアリスのことを大事にしてくれること」
    「……エヴァ?」
    「…………」

     ロゼッタがやれやれと首を振る。

    「あ」
    「どうしたの、ニコル」
    「わかった。お姫様だっこ」

     ぶっと口に含んだコーヒーを噴いていた。咄嗟におしぼりでガードしたらしいロゼッタが冷めた目でこちらを睨んでくる。
     でも仕方ないじゃないか。そのワードは今一番過敏に反応してしまうものだ。ていうか見られてたの? 何人に見られてたの?

    「汚いわね……」
    「いや、だってニコルが変なこというから」
    「お姫様だっこの人とアリス、恋人同士みたいだった!」
    「え……いや……」

     ドーソンくんと? いや……ないでしょ……。だって。

    「だって、ドーソンくんはエヴァが好きだし」
    「本当に?」

     ロゼッタがこちらを覗き込む。瞳の奥まで、心の裏まで覗きこまれているみたい。
     軍人にあるまじきことだ。先に目をそらしてしまった。

    「わ、私のことはいいでしょ。私恋愛とかする気ないし」
    「アリス、もったいない……」
    「アリスは好きにしたらいいわ。ニコルちゃん、焦って告白を受けちゃだめよ。じっくり考えて」
    「はい」

     ニコルは満足したようだった。本当に可愛いなぁ。
     二人と別れて、傘を閉じて小走りに執務室へ向かう。

    「大佐、濡れてるじゃないっすか」
    「あ、うん。すぐそこだったから」
    「風邪引いたらどうするんすか。グラッスが復活したばっかなのに……」

     ドーソンくんが乾いたタオルをくれた。その上優しく拭いてくれた。

    「あ、ありがとう」
    『例えば、誰よりも……アリス自身よりもアリスのことを大事にしてくれること』

     どうしよう。
     なんか、なんか……。顔が熱い。

    「大佐」
    「……ん?」

     タオルをかぶったまま振り返ると、グラッスくんが立っていた。子犬のような目で私を見上げている。
     ……この子私より背低いんだな。

    「訓練、見てくれませんか」
    「シモンとツヴァイクくんは……いないのか。私、雨の日は訓練しないんだよね……。あぁ、いざという時のために組み立ての練習する?」
    「組み立てなら自信あります」

     引き出しの底を外して分解されたスナイパーライフルを取り出す。

    「はい、じゃあ見せて」
    「はい!」

     気付けば、ドーソンくんの背中が遠ざかるのを目で追っている。もう、だめだ。集中しろ。
     カチャカチャ、少し湿気でくぐもった音がライフルを組み立てる。その間にシモンからの報告書を引っ張り出す。なんだ、シモンが教えてたか。……読んでなかった。

    「本当に速い方だね。びっくりしたよ。……けど」

     報告書をめくっていく。速くなっていく組み立てとは対照的に、他は全然だ。

    「命中率はボロボロらしいね。第六部隊の方が向いてるんじゃないの?」
    「そんなぁ……」
    「傷付くのは勝手だけど、戦場で役に立たなかったら死ぬのは君なんだからね。優しく指導してもらいたいならツヴァイクくんのとこに行け」

     グラッスくんはしゅんと肩を落とす。

    「自分、やっぱり向いてないんでしょうか」
    「異動したいなら人事で異動願いの書類書いておいで」
    「嫌です!」

     グラッスくんが私の腕を掴む。

    「自分は大佐の下で働きたいんです! 引き摺ってでも訓練見てもらいます!!」

     知らず、唇が笑みに歪む。

    「そうこなくっちゃ」

     グラッスくんの命中率は少しずつ精度が上がってきている。
     向く向かないじゃないのだ。
     私も、自分の大佐という階級に自信を持たねば。