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永遠少年症候群

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ファンタジー、恋愛要素、ハッピーエンド多め。たまに暴力やグロテスクな表現があります。
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化け物の侵略

 我が主は泰平の世を築いた後も野心が衰えることなく、海を隔てた琉球に服属要求を行ったり朝鮮への派兵を行ったり、果ては天竺まで征服すると言い出した。これに反対したと噂されるじいさん――千利休殿の切腹など、元々忠誠を誓っているわけでもないわらわの心が離れるには十分ないくつかの事件があり、わらわは次第に主に呼ばれた時にしか聚楽第へ赴かなくなっていった。
 主も五十路を過ぎ一年。そろそろ死期も近かろう。里に戻れるであろう。……そう考えてから、五年が経ち、主も五十六歳。もう七年ほど主に仕えていることになる。

「はやて!」
「ん?」
「次の朝鮮出兵ってこの前言ったけど、あっちはええわ。土佐に行ってほしい」
「土佐にござるか」
「この、増田を護衛や。南蛮船が土佐で座礁したさかい、書状を届ける」

 増田長盛奉行か。
 仕事柄であろうが、よく三成殿といるので顔は知っている。おそらく向こうもそうであったのであろう。道中は此度の土佐行きのことか共通の知人である三成殿の話ばかりであった。

「でな、我が忍城に忍び込んで城の内部を偵察したのだが、その際三成殿が……ふふっ、俺の戦術に間違いはない、と」
「言いそう。俺の戦術に間違いはない」
「あ、似ておりまする。俺の戦術に間違いはない。――で、唯一攻め落とせなかったのが三成殿が総大将を務めた忍城と」
「いやはや、若気の至りでござるなぁ」

 ……まぁ、楽しい道中であった。三成殿が聞いたら手討ちにされそうであるが。
 土佐は京とは違い、何か力強い活気があった。堺の方が似ているか。

「きさんらが太閤殿の使いのもんか」
「?」
「こっちやき」
「増田殿、我は南蛮語はわからぬ」
「はやて殿、心配召されるな。今のは長宗我部殿。土佐弁にござる。書状を伝えてくるので時間を潰しておってくだされ」

 増田殿が奉行の顔になり、長宗我部殿について行ってしまう。
 急に時間ができたわらわは、土佐の街をぶらつくこととなった。時折南蛮人が歩いていたが、役人が連れて行った。
 南蛮人とは、背が高く、ぎょろりとした目が空の色であった。
 不意にぎゅっと左腕を掴まれ、とっさに懐からクナイを取り出していた。

「我が誰か知っての狼藉か?」
「……え……? 巴姫……?」
「む?」

 口から零れ出た後に、駿河の国で見た潤んだ瞳を思い出した。
 巴姫といえば、小田原征伐の際に主が面白がって付けた偽名だ。
 わらわよりも小さかった背丈は父親譲りなのかぐんと伸び、ふわふわの頬は面影もない。ただ、眼差しに面影を残したまま大きくなっている。

「……服部、正重か?」

 頷く大男は、あの頃のように幼く目を潤ませた。

「姫様が、このようにやさぐれて……!」
「おい、待て。貴様の父上から聞いておらぬのか」
「父は……最近はずっと床に伏してござる……。姫様、かような言葉遣い、らしくありませぬ」
「……しばし、ゆっくり話そう」

 茶屋は人が多く、人気のない海岸へと出た。ごうごうと海鳴りが響く海岸はあまり海を見たことのないわらわの心を吹き飛ばすような、無心になれる場所である……が、今は違う。
 誤解を解くうちに落ち込んでいく正重は、見ているこちらが気の毒になるほどであった。

「つまり、巴姫という姫様は、存在しない……」
「左様」
「ようやっと、再びまみえたと……、いや、姫でないのならなおのこと良い。ぜひ拙者の正室に」
「は?」

 正重はいいことを思いついたとでもいうように、顔を輝かせた。
 子どもは、男へと成長したようであった。

「巴姫であろうが、はやてであろうが、拙者が惚れたのはそなたにござる」

 真っ直ぐな瞳に胸が高鳴る。
 いや、これは、おかしい。何故わらわが口説かれているのだ。
 目が回るような思いに、首を振る。

「……日が暮れた。もう戻らねば」
「はやて殿、返事を……!」
「阿呆なことを言うておらずに……、」

 瞬間、ガサリと音がした。日が落ちると共に目が慣れていたとはいえ、飛びかかられて浜に転がる。正重ではない。何かを叫んでいる。

「貴様、謀ったのか!?」
「姫様っ、おのれ、俺の姫様に何を」

 抵抗しているのに、俺の姫様という言葉に思わず力が抜ける。まぁとにかく、正重の手先でもないようである。
 言葉が通じない――南蛮人か。揉み合ううちに、首に鋭い痛みが走る。じゅるじゅると不快な音が耳の傍でした。
 手探りでクナイを掴み、相手の胸に突き立てる。……と、同時に、南蛮人の首が飛んだ。おびただしい量の血液がまき散らされる。その血は、わずかに悲鳴を上げたわらわの口の中へ飛び込んできて、吐き気を催す。しばらくするとわらわに掴みかかっていた首から下はさらさらと砂になり、砂浜に溶けて行った。

「……今のは……?」
「お怪我は? 俺が使ってる宿に行きましょう」

 有無を言わさずに正重に抱きかかえられ、宿へ連れて行かれる。傷と言えば首くらいのものであったが、そこから蚊のように血を吸われたらしく、帰ろうにも動けない。しばらくの間貧血に悩まされた。

「あぁ……俺の布団に、姫様が……!」
「近付くなよ……。しかし、助かった。ありがとう、正重。あと姫様ではない」

 動けぬ上に、熱烈な想いに風魔小太郎を前にした時以上の貞操の危機を覚悟したが、正重はにこにこと笑いながら甲斐甲斐しくわらわの看病をしていた。一晩中。

「ある意味寝かせてもらえなかったな……」

 障子を開けようとした瞬間、指に激しい痛みが走った。見ると指が黒く焼け焦げ、皮膚が灰のようにぱらぱらと散った。
 伊賀の秘術? いや、正重はぐうぐうと寝ている。
 どくんと胸が脈打ち、何やら歯がかゆい。妙に心臓がせわしない。座り直して体を落ち着かせようにも、何かむかむかする。

「お、ぇ……っ」

 口の中に何か固いものがごろりとあり、吐き出してみる。それは白く固い……歯であった。歯が二本、抜けている。
 口の中を確かめると、歯が足りない場所はない。その代わりに二ヵ所、妙に歯がとがっている場所があった。

「……なんだ、これ」

 夢であろうか。
 試しに頬をつねってみるが、それなりに痛い。

「……つばき? もう大丈夫?」
「貧血はなんとか。しかし、何か妙で……、障子を開けようとしたら火傷を負ったし、おぞましい速さで歯が生え変わり……」
「……小田原に行こう」
「まだ言うておるのか。我は伊賀の者とは……」
「違う。日に当たってはいけない。小田原に、同じような南蛮人がいる。その者は……吸血鬼だ」

 聞きなれぬ言葉に、首を傾げる。

「吸血鬼?」
「とかく、急ぎ小田原へ」
「……まずは共に来た奉行殿に事情を話さねば」

 正重と押し問答しても仕方がない。
 増田殿には主から早馬で戻るように伝言が来たと伝え、土佐を出て小田原へ向かうこととなった。日に当たれないので、日が暮れてから出ることとなった。

「……何故土佐にいたのだ」
「土佐で南蛮船が座礁したと聞き……、もしも南蛮人の通訳ができるものがいれば、小田原へ連れてくるよう密命を受けていた。お国が違ったようだが」
「……そも、何故小田原に南蛮人が」
「焼津沖で同じく座礁した船があった。大層美しい女の南蛮人が一人で乗っていた。その女は船員を全て食らう化け物で……我が主が引き取った。おそらく、太閤殿と取引するつもりであったのだろう」
「……もしかしたら、わらわも同じような化け物に……」

 じゅるじゅるという音が耳にこびりついて離れない。

「大丈夫。つばきは俺が守るから」
「……生意気な奴め」

 互いの根城から遠く離れた場所で再会し、化け物と相対し、その知識を持っている。これを運命と言わずして何と言うのかと、絆され始めている自分に気付く。
 つばきつばきと、随分長い間誰にも呼ばれなかった最も呼んでほしい名を、よりによって正重が呼ぶ。昨夜、ぽろりとつばきは本名だと言ってしまったのがいけなかった。はやてと呼ぶように言えばよかったのだ。

「それにしても、つばきがはやてとは……まだ信じられない。俺、他の里の忍びに秘術教えたのかぁ」
「火遁なら、今も使うぞ」
「え」
「我は甲賀向きらしいな。まぁ、何回も撃ってようやく焚き火の種を作れるくらいのものだが」

 そういって見せてみると、今まで蛍よりも小さかった火種であったのに、まさに火柱のようにごうごうと火の手が上がった。自分で出しておきながら腰を抜かしたほどだ。

「なっ、何故、昨日までは、全く……!」
「吸血鬼に噛まれた影響が、秘術に現れたのであろうか」

 真剣な顔で悩む正重の横顔に、しばし見入ってしまった。声は低く、腰をくすぐられるような思いがする。
 このような気持ちは初めてで、どうにもこそばゆい。
 相談するとしたら誰であろうか。まさか主の子飼いの者に言うわけにもいかぬし、十郎は役に立たなそうであるが、いつかに言えば『はやて』の邪魔になるなら代わりに殺してやるくらいのことを言いそうである。言いそうというか、兼久にそう言ったことがあるらしい。まともなのは兼久か。
 しかし、兼久と共にいるところを見られ正重が変な誤解でもしたら――……。

「って、たわけが!」
「どしたの!?」
「あ、いや、何でもない」

 我ながら何を考えているのだ、全く。仮にも散舞のはやて、いくら絆されようとも正重と仲良くするわけにはいかぬ。今は、ただこの奇妙な現象の手掛かりをつかむために利用するだけだ。

「そろそろ夜が明けるな」
「一応、俺の伊賀の装束で体を全て覆って……街まで遠い……。あ、木遁の術を教え木陰を作るというのはどうか」
「そんなに秘術を教えて大丈夫なのか」
「大丈夫」

 正重の言うように印を結び、呪詛を唱える。すると、みるみるうちに大木が生えていく。北側にクナイを突き刺して木を成長させると、大きなうろができた。

「まこと、不可思議な術だ」
「つばきはまこと才能がある」

 うろにもぐりこむと、当たり前のように正重ももぐりこんでくる。

「もう一本作るから出て行け……」
「俺が日の光を遮るから。枕にもなるし」
「やめろ! 大体、服部家は一武将。正室は貴様一人で決められるものでもないであろう」
「側室がいいの?」
「ち、が、う! いいか、わらわに触れるなよ!」
「承知した」

 夜通し移動していたこともあり、正重に背を向けて目を閉じる。少し肌寒いが仕方ない。
 うろの中で縮こまって寝ていたせいか、体が痛くて目が覚めた。正重がわらわを抱きとめるような形で腕枕をし、温かい。寒くて自らしがみついたのであろうか。顔がかあっと熱くなる。

「ま、正重。起きろ、日が暮れる」

 昔はわらわの方が大きかったのに。
 起き出した正重を連れて小田原への歩を進める。途中、宿で交渉して夕餉だけをもらい、また歩く。

「我の足であればもう小田原についてもいい頃なのだが」
「わらわの方が似合うのに」
「わらわは封印していたのだ。つばきと呼ばれるとつい……まこと、調子が狂う」

 まったく、珍道中である。
 小田原へ着くころにはわらわもすっかり懐柔され、つばきと呼ばれようが腕枕をされようが、声を荒げることはしなくなっていた。
 小田原城は相変わらず堅牢であったが、一応客であるので堂々と正面から入る。そうして、大奥へと通された。大奥の、更に奥の部屋に、障子ではなく柵があった。

「誰ぞおわしまするか?」
「サクラアテ様、こちら、はやてと言うものにござる」
「はやて?」

 挨拶をしようと顔を上げると、正重の言った通り美しい女がいた。なるほど、南蛮人らしく鼻が高い。澄んだ空のような瞳は、土佐で見た南蛮人はぎょろりとしていたがこの者は宝石のようであると思った。髪は黄金の絹のよう。何から何まで、美しい。

「わらわはサクラーティ。はやて、こちらへ」

 柵に近寄ると、サクラアテとやらも柵の傍へとやってきた。
 随分とこちらの言葉が達者である。

「女に興味はございませぬよ」
「いえ、はやては餌ではござらん。この者は吸血鬼に噛まれたようで」
「あら、その場所をご覧にいれなさい」

 自敬表現……、天皇の言葉を教えているとは。それほどの価値があるとでもいうのであろうか。
 首に巻いていた伊賀の衣装をはぎ取ると、サクラアテは口を覆った。

「これはジョセフの紋にございますわ。下賤な人間の血など吸わぬというのが持論でございますのに。ジョセフは一緒ではないのでございまするか?」
「抵抗した際、砂のようになった」
「……なん……と」

 サクラアテが笑顔のまま固まる。
 いかにしてわかったのかよく呑み込めないが、わらわを襲い砂になり崩れた者は知り合いであったのか。
 怒りをぶつけられるかと思ったが、予想に反し、サクラアテはくすくすと人の悪い笑みを浮かべた。

「ジョセフ死んだの! まこと面白きこと。ふふふっ、それで、わらわに何の用でございまするか?」
「あ……えー……その、ゾセフという者に血を吸われ、我が血肉は日に当たると砂のように崩れ……」
「もしかしてジョセフの血を飲んだのではございませぬか?」
「飲んだというか……倒した際に口に入り、多少はそのまま飲み込んだものもあるやも」
「では、ジョセフの眷属になったのでございましょう。そなたはもう不老不死で、日の光に当たると灰になる……血を吸う化け物――吸血鬼にございまする」

 やはり。この鋭く生え変わった歯は、人を襲い血を吸うための。

「不老不死とは?」
「あらゆる怪我が治り、永遠に老いずにいられるのでございまする。あぁ、日の光の傷は別」

 ふと腕を見ると、以前跡が残った傷がすっかり消えていた。クナイを取り出し、試しに手の甲に乗せ横に引く……と、すうっと傷が入り血が垂れそうになったが、時を巻き戻すかのようにすうっと傷がふさがっていった。

「……わらわも化け物か」
「ようこそ」

 サクラアテは美しく笑った。

「布で全身を覆えば昼間も出歩けるのか?」
「さて……? 試したことはございませぬ。……が、目の粗い着物であれば、針で刺されるような痛みがありましょう。大人しくしているが吉ですよ」
「わらわの血を飲んだ者も吸血鬼とやらになるのか?」
「眷属にそのような力はございませぬ。……まぁ、そなたが吸血鬼を襲い、魔力を蓄えていけば同等の力を得ることも可能にございます。この日の本に吸血鬼はわらわとそなたの二人だけにございますが」

 そうして、サクラアテより吸血鬼のいろはを教え込まれた。
 南蛮の中では吸血鬼は多くおり、その中で貴族と眷属、人間との間に生まれたあいの子など、様々な方法で吸血鬼となった者がいること。わらわと正重で倒してしまったゾセフという吸血鬼は貴族の中でも殿上人のような存在であったこと。
 吸血鬼の主食は血液であり、わらわは今までのように食事をしても生きていけないこと。

「……人の血を啜るなど」
「ジュースだと思えばよろしい」
「ジウス?」
「果実の汁を飲むでしょう」

 果実は悲鳴などあげぬからな。わらわの体にも同じものが流れているのに、どうして飲めよう。

「動物の血はどうなのだ?」
「美味しくはございませぬが、補えないことはございませぬ。……わらわからしたら、人間も動物にございまするが」
「……動物は、共食いはせぬ」

 目を逸らすと、サクラアテはくすりと笑う。

「もう、そなたは人間ではございませぬよ。……とかく、わらわ達の死の条件は日光。それに気を付けておればまた会えましょう」

 言うだけ言って、サクラアテがごろりと横になる。
 正重と顔を見合わせたが、もう何を言うても返事はなさそうであったので、適当な部屋を借りた。

「ふむ、化け物か」
「子はどうなるのであろうか」
「子?」
「俺とつばきの」
「阿呆。もう冗談を言う段階ではないわ」

 正重がおろおろとわらわの腹を見ている。本当にやめてほしい。

「やはり正室に迎えねば、側室では端の部屋……窓が近い」
「だから、わらわは貴様とねんごろになるつもりはない!」
「え!?」
「何がえ、だ。最初から言うておろう。大体、先の化け物の話を聞いておったのか? わらわはもう化け物で……」

 不意に正重がわらわの頬を手で包む。
 ごしごしと拭われてようやく、わらわが泣いているのだと気付いた。

「何があろうと、つばきは俺のお姫様だ」
「……生意気な、奴め」

 つばきと呼ばれると、弱い。
 夕方、寝ている正重を起こさぬようにそっと起きだし、サクラアテの檻の前へ行く。ちょうど食事の最中で、年端もいかぬ子どもが干した大根のように干からびていくのが恐ろしい光景であった。
 サクラアテはその子どもが砂になるまで血を吸いつくし、一服でもしたかのようにふうっと息を吐き口元を拭った。

「はやて。血の匂いがしましたわ」
「……誰ぞ怪我でもしたのか」
「何か御用?」
「子はどうなるのであろうか、と」
「あら。女を捨てているのかと思っておりましたわ。吸血鬼と人間の間に生まれる子は、必ず母親が人間にございます。わらわ達の体は傷も、毒も、薬も、他の体液も、受け付けぬということ。純血種ならば、他の作り方もございまするが、はやての質問の意味を考えるならば、答えは『子は為せぬ』にございまする」
「そうか」
「ですから、月の障りもありませぬよ。人間は月の障りというものがあると、魔女の友人が言うておりましたわ」

 任務は楽だと思ってしまう、己の中のはやてがいる。
 女としては生きられないのだと嘆く、己の中のつばきがいる。

「……さらば、また挨拶に来る」
「さようなら」

 正重には別れを告げぬまま、夜のうちに聚楽第へと帰る。
 はやての主は、一代限り。もう日の本は泰平で、安泰だ。主はおそらく老衰でこの世を去るであろう。そうなった時、散舞の里には戻らなくともいいのではないであろうか。不老不死ならば、抜け忍として追われても逃げ切れる。
 ただの町娘として暮らしてみたい。できれば、正重の近くで。

「はやて、久しいな」
「三成殿」
「その、首の十字の墨は気味が悪いな。土佐の伴天連に毒されたか?」
「!?」

 慌てて女中の部屋で小さな鏡を失敬し見てみると、ゾセフに噛まれたあたりに十のような入れ墨らしきものがあった。サクラアテが首筋を見てゾセフの紋と言うたのはこれのことであろうか。
 なんとか三成殿の誤解を解き、任務は日が暮れてからのみとして主には隠し通したまま、二年が過ぎた。
 主は太閤を退き、伏見城で身罷った。わらわと天下人の契約は、ここで終了と相成る。

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