永遠少年症候群

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帝国歴311年11月中旬

 しばらくは平穏無事な日々を過ごしていただけに、その宣言は唐突で、とても迷惑だった。

「再戦だ! アリス!!」
「この11月の冷え込んできた時期にTシャツに迷彩パンツとは……なんとかは風邪引かないと言いますしね……尊敬しますよ、本当」
「尊敬だと? おだてるな」

 おだててない。少しも、まったく。
 視界の端で、グラッスくんがくしゅんとくしゃみをした。

「……ドア、閉めていただけますか」
「お、悪い」

 ベイル大佐が執務室へ滑り込む。カチャリと、意外にも小さな音を立ててドアを閉め、私の机の前に立つ。
 ストーブを囲んでいる少佐達がチラチラとこちらを見ている。

「怖気づいたか?」
「そうですね。ベイル大佐、不戦勝おめでとうございます」
「違う、それはお前の勝ち逃げだ!」
「あのねぇ、うちは第一と違って忙しいんですよ」
「大丈夫だ! 陸将閣下の許可は取ってきた」
「……お早い行動で」
「まだここにいたのか」
「!!」

 ドアが閉まったのは、閣下が私の目の前に来た後だった。慌てて立ち上がり敬礼をすると、まったく老いを感じさせない速さで返礼がくる。
 陸将閣下は私の髪がぐしゃぐしゃになるまで頭を撫でて、鼻水をすするグラッスくんをチラリと見遣る。

「娘も欲しかったなぁ」
「……そ、そうですか」
「いずれ息子がベイルみたいになってみろ。可愛さのかけらもない」

 あぁ、牽制か。私に目をかけているから、私に手を出すなと。部隊を裏切れば陸軍からの報復だと。

「ウィルソン、ベイルとの再戦、楽しみにしているよ」
「はい」

 閣下が言うなら本気でいくしかあるまい。ウォーミングアップも時間がない。適当にシャワーでも浴びて体を温めるか。
 何故か閣下が帰っても目の前にいるベイル大佐が首をひねる。

「閣下に可愛がられてるんだな」
「可愛いので」
「そうだな!」

 え、何この人。心理戦か?
 じんわり頬が火照ってしまう。クソ、なんでよりによってベイル大佐相手に。

「……再戦は、いつですか?」
「1時間後だ。じゃあ1時間後に大訓練場でな!」
「ええ」

 ベイル大佐が出て行ってから倒れ込むように椅子に座る。
 本当に面倒くさい。迷彩服の準備をしていると、ドーソンくんが寄ってきた。

「大佐……、自爆したっすね」
「うるさい。……シャワー浴びてくる」
「あ、大佐、一人でシャワーは危ないって言ってるじゃないっすか」
「君が護衛してくれるんだろ」
「あ、ハイ」

 何故か嬉しそうにドーソンくんが笑う。護衛呼ばわりで喜ぶなんて奇妙な子だなぁ。
 シャワーで体を温めて、柔軟体操をする。適当に髪の毛を乾かしながらしているとドーソンくんがわしゃわしゃとタオルで拭いてくれた。

「風邪ひきますよ」
「馬鹿は風邪引かないから」
「大佐は馬鹿じゃないでしょ」
「ドーソンくんはちょっと私を過信しすぎだよ。馬鹿だよ、銃器馬鹿」
「……そっすね」

 髪が完全に乾いた頃、執務室に戻るとちょうどいい時間になった。
 執務室に戻ったのは、防弾チョッキを着るためだ。前回の様子じゃ、かなりの腕力だった。レプリカとはいえ、あの力が加わったら比喩ではなく骨が折れるかもしれない。

「大佐、応援に行きますね!」
「やめてよ、今日は入隊式とは状況が違うから負けちゃうだろうし」
「その割には本気じゃん」
「ヴィンセント、エヴァには言わないでね。また男の子と喧嘩したのねって怒られる」
「わかったわかった」

 大訓練場は何故か観客がたくさんいた。迷彩服のベイル大佐がニヤッと笑って手足に巻いているリストバンドのようなものを外す。ゴトッと音がする。まさかあれ、重りか?
 定番でありながら、本当に嫌になる。

「来たな、アリス」

 陸将閣下も最前列にいる。胃が痛い。
 武器は前回とほぼ同じだ。攻撃が当たるとペイントが付きます、と説明を受ける。拳銃を2丁ホルダーにセットして深呼吸をする。

「では閣下、開始の合図をしていただけますか」
「うむ。用意。開始!」

 近付かせてはいけない。両手に拳銃を構えてすぐに撃ちだすとベイル大佐は前回よりも数段速くこちらへ迫って来ていた。
 マシンガンをとり、上下に並べて頭と急所を狙う。ジグザグと斜めに走ってくるのに、どうしてそのスピードなのか。大佐が腰の片手剣を抜く。ヤバい。
 走って間を取ろうにも、すぐに追いつかれるに違いない。

「やる気あんのか!?」
「あるっつーの」

 ライフルをとり、側転の要領でゴロゴロ転がる。ベイル大佐が居る場所と避けた先に撃ちこむ。

「やべ、かすった」
「あれを避けるか!?」

 既にベイル大佐が目の前に迫っている。素早く体を起こすとベイル大佐の靴が鼻先を掠める。片手剣は向こうに落ちている。素手で来る気か。
 凄まじいスピードでお腹に膝蹴りが入る。一瞬息ができなくなり、数メートル先に吹っ飛ぶ。

「ッ、ぐ」
「終わりか? アリス」

 ふらふら立ち上がると、ゆっくり近付いてくる。ベイル大佐が自分の腰に手を回す。

「あ、あれ?」
「これをお探し?」

 短剣を力任せに投げ、更にそれを銃で撃つ。ゴム製の銃弾で加速した、ベイル大佐の投げる短剣に勝るとも劣らないスピードで飛んでいく短剣。
 これは、勝ったも同然。そう思ったのに、ベイル大佐は軽々と避けた。いや、掴み取られなかっただけマシか。
 拳銃の銃弾は残ってない。マシンガンも狙撃銃も向こうだ。……イチかバチか。
 ベイル大佐の拳が飛んでくるタイミングに合わせて拳銃の側面で受け止める。

「い……!?」

 ビリビリと手が痺れているが、構っている暇はない。思いっきり急所を蹴り飛ばしてマシンガンまで走る。

「ちょ、お前……」
「ぎゃー! 何でダメージ受けてないんですか!」
「急所は守られてるに決まってるだろ!!」

 すぐに追いつかれて、ぐいっと迷彩服の襟を掴まれた。一瞬首が絞まる。
 銃がないのではどうしても勝てない。両手をあげる。

「……参りました」
「勝者、ベイル大佐!」
「お疲れ」

 緊張が緩んで座りこんだ私を、ベイル大佐が引っ張り起こしてくれた。

「どうも」
「二人共いい動きだった。隊員達にもいい刺激になったと思う。大丈夫か、ウィルソン」
「はい、ご配慮ありがとうございます」
「また再戦がしたかったら今度は重機関銃も用意するからな」
「はい」

 その条件で負けたらベイル大佐は人間じゃないけど。

「ありがとうございました」

 閣下に頭を下げて執務室に戻ろうと歩き出す。ヴィンセントとドーソンくんが走ってきた。その後ろにはグラッスくんやツヴァイクくんもいる。

「アリス!」
「大佐、大丈夫っすか!?」
「みんな、本当に見に来たの? もう……恥ずかしいなぁ」
「大佐、第七行きましょ」
「そうだな……。その方がいい……。俺、吹っ飛ぶ人間初めて見たわ」
「大丈夫だよ、ちょっとした打ち身で……」
「大佐は女の子なんすよ!?」

 ドーソンくんが大声を出すので、びっくりしてぽかんと見上げる。みんなも驚いた顔でドーソンくんを見ている。

「いや、あれを見てアリスを女だと思えるお前にびっくりだわ」
「何? 君も女が出しゃばるなって思ってるクチ?」
「違うっす。早く第七行きましょ!」
「じゃあなんで私が女ってのが関係あるんだよ」
「アリス、大人しくドーソンに連れてってもらえ」
「嫌だ。まだ仕事残ってるし」
「あーもう! 大佐、行きますよ!!」

 視界がぐるっと回って、何が起こったのかわからなかった。ドーソンくんに軽々と担ぎあげられいて、後ろではヴィンセントが腹を抱えて笑っている。

「お、おろせ!」
「嫌っす」
「ドーソンくん!」
「後から痛くなったりするんすよ」

 第七部隊の救護室は、会場を出てすぐだ。ヴィンセントが手を振るのが見えて、抵抗は諦めた。

「……この体勢、頭に血が上りそうだからやめて」
「……」

 ドーソンくんが私の膝の裏に腕を通す。まさか。

「はい、これでどうっすか」

 顔が近い。頭がくらくらする。恥ずかしすぎて思わず両手で顔を覆った。

「わ、私をからかって面白いの!?」
「からかってないっすよ」
「あら、ヴィンセントに聞いてたより面白い格好で来たわね、アリス」
「ろ、ロゼッタぁ」

 やっとドーソンくんが下ろしてくれて、ロゼッタに泣きつく。

「みんながいじめる。ベイル大佐は思いっきり蹴り入れてくるし、ドーソンくんは女だって馬鹿にするし」
「あら大変、熱があるわ」
「熱?」
「あの馬鹿力に蹴られたんでしょ? そこが熱を持ったのね」
「寝ていい?」
「いいわよ」

 目を閉じると、ロゼッタのひんやりした手が額に触れる。きもちいい。
 目を覚ました時には、既に外は日が落ちていた。起き上がり辺りを見渡すと、ドーソンくんが椅子に座って腕を組み、寝ている。

「ロゼッタ……?」
「あら、起きたのね。熱はどう?」
「大丈夫」
「ヴィンセント達も見舞いに来たわよ。慕われてるわね、ウィルソン大佐」

 慕われてる? 守られてる、の間違いじゃないか?
 起き上がって、ロゼッタにもう一度状態を見てもらう。服を正して、ドーソンくんの肩を揺らす。

「……ドーソンくん」
「……あ、大佐、起きました?」
「なんで戻って仕事してないんだ」
「あー……持ってきてやったんすよ」

 なんで。そう聞いたら何と言うのだろうか。

「帰りましょ、大佐」
「うん……、またね、ロゼッタ」

 ドーソンくんは何も言わない。
 何で、私を女扱いするの。何で、何も言わないの。何を考えているの。

「大佐、俺にとって大佐は女の子なんすから、無理しないでください」
「……何で……」
「迷惑なら、何も言わないっすから」

 何で、そんなに悲しそうに笑うの。言ってくれなきゃ、馬鹿にはわかんないよ。