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永遠少年症候群

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ファンタジー、恋愛要素、ハッピーエンド多め。たまに暴力やグロテスクな表現があります。
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帝国歴311年9月8日2

「本当に恋にでも落ちたか?」

 ヴィンセントが後ろでツヴァイクくんと話しているグラッスくんをチラリと見る。
 ツヴァイクくんはまだしも、他の少佐を置いて上級大尉をディナーに呼ぶとはどういうことだ、といったところか。

「エヴァのご飯を食べてもらおうと思ったんだけど、それ以上に重要な連絡事項ができたんだよ」
「お二人は本当に仲良しなんですね」
「違うってば」

 後ろでのんびり笑うグッラスくんを見て溜め息をつく。
 本当に軍人という肩書きが似合わない子だ。

「ここだよ。エヴァ、ただいま」
「おかえりなさい」

 姉が後ろの3人を見てぎこちなく笑う。

「早かったわね、もうちょっとかかりそうなの」
「そっか。じゃあ先に用件を伝えとこうか。エヴァ、ちょっと応接間使うね」
「えぇ」

 応接間に通して3人を座らせる。

「コルッカ少佐についてだが」

 口を開くと、ヴィンセントとツヴァイクくんが背筋を伸ばした。仕事の姿勢だ。

「奥さんが妊娠したそうだ。奥さんの健康のためにも彼にはしばらく定時に帰ってもらうほか休憩を長めにとってもらう。グラッス上級大尉の指導はツヴァイク少佐だけに任せるわけにもいかないので、私も手伝う。変則的になるのでレイス中佐も把握していてくれ」
「はい」
「まだ今は簡単に流産してしまうような時期だ。安定するまでは他言無用。以上」

 立ち上がりネクタイを緩めるとヴィンセントも伸びをした。

「グラッスくんも彼女がいたら連れてきなよ。ツヴァイクくんも」
「え、自分はそんな」
「一応、シモンのとこは特別だけどね。奥さんは体弱いし、無理するし。そういうのは把握しといた方が柔軟な対応がしやすいでしょ? だから、ね」

 なるほど、と頷くグラッスくんの横で、ツヴァイクくんがしれっとした顔で口を開く。

「僕は結婚する気ないので」
「そうなの?」
「もしかして、男好き?」
「馬鹿言わないでください」
「さ、向こうでご飯食べようか」

 リビングへ戻ると既に夕食の準備は終わっていた。

「お仕事のお話?」
「うん」
「あ、すみません、手伝いもせずに」
「いいのよ。さ、食べましょう」
「はい」

 姉の横に私、私の向かいにヴィンセント、その隣にツヴァイクくん。私とヴィンセントが挟む形でグラッスくんを座らせる。
 ご飯を食べようとフォークを掴んだところで、はたと気付いて手を止めた。

「紹介が遅れたけど、姉のエヴァンジェリン。彼はツヴァイク少佐、そしてグラッス上級大尉」
「初めまして、エヴァです」

 姉が笑うとグラッスくんもはにかんで笑った。ツヴァイクくんは目を細めて頭を下げた。
 やっぱり姉は誰から見ても綺麗なのだろう。私に生活力さえあれば結婚も迷わずできるのだろうか。

「アリス、体調でも悪いのか?」
「あ、いや……大丈夫」

 ヴィンセントがいぶかしげに首を傾げる。

「ジェイドくんはどこの出身なの? 珍しい髪の色ね」
「えーっと……アルダナ……です」
「えっ」

 小さく驚嘆を漏らし、姉ははっとしたように口を押さえた。
 私もヴィンセントも最初にグラッスくんの経歴を見た時は思わず黙り込んだ。
 アルダナ。上官が大量に殉職した先の戦争で戦場となった地だ。国境付近にあった街はほとんど壊滅した。グラッスくん達のように士官学校の寮など家を出ていた者は無事だったが、あの時点でアルダナにいたであろう家族に関しては聞くまでもない、そんな悲劇の戦場。

「あの、ごめんなさい……えっと」
「気にしないでください。生まれがアルダナってだけで……、あんまりいい思い出はないんです」
「そ、そう……?」
「すいません、重い空気になっちゃって……」
「…………」

 姉が泣きそうな顔で俯く。
 グラッスくんの出身について聞かないように伝えておけばよかった。グラッスくんがどう思っていようが、この話題は暗くなってしまう。
 この空気ばかりはフォローのしようがない。

「僕はエネラッタ出身です」
「あ、そうなの? 知らなかった」
「エネラッタといったら、あれだよな。王妃様の妹君がいる……」
「そう、そうです」

 再び、シーンと沈黙が広がり、ツヴァイクくんはさっと俯いた。君は頑張ったよ。上司としてはとても褒めたい。

「あ、アリス。コルッカ少佐ってどんな人なんだ?」
「僕も、あんまり話さないので知りたいです」
「シモン? 見たまんま、無口でいい奴だよ。一兵士から腕だけで少佐まで上がってきただけあって、射撃の腕も相当なものだし」
「アリスのこと信頼してるんだなぁ。直属の上司は俺なのにさ」
「……そういえばそうだね」

 間を持たせなければ。ヴィンセントもツヴァイクくんも同じことを思っているのだろう。必死だ。

「……シモンは私が少佐の時から大尉として支えてくれてたからなぁ。スナイパーは腕の良し悪しが明確にわかるから競争もしやすいし親密にもなりやすい、かなぁ。ね?」
「あ、はい。今日も大佐と競争しました……、手を抜かれて……」
「へー、すごいな。手を抜かれたの気付いた?」
「いえ、自分はまったく。コルッカ少佐に言われたんです」
「だろうね。普通は手を抜かれたことにすら気付かないのさ」

 それは男連中の視野が狭いせいだ。

「グラッスくんに勝てる自信があったのかーなんて追い討ちかけてたしさ、ストイックだよ。シモンは。エヴァも会ったことあるよね」
「えぇ。物静かな方だったわね」
「仕事中も常にあんな感じなんだよ」
「でも、いいことなんじゃないの? お喋りするよりは」
「うーん……ただの兵士だったらそれでもいいんだけどね」

 少しずつ姉の表情もほぐれてきた。ヴィンセントも、ほっとしたように姉を見つめている。ツヴァイクくんは自分の使命は終わったとばかりに黙々とご飯を食べている。

「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした!」
「おいしかったです」
「お粗末様でした」
「それじゃあ、邪魔にならないうちに帰ろう、グラッス。ツヴァイクさんも」
「はい!」

 3人を見送って、リビングへ戻って食器を片付ける。姉は困った表情だった。

「どう? グラッスくん」
「確かに、軍人さんにしてはちょっとガリガリね。朝ご飯、いっぱい食べてもらいましょう? それで、どう? 初めての部下」
「うーん、やっぱり、シモンとはちょっと違うかも。ドーソンくんとも……ちょっと違うかな。大佐なんだなぁって実感する」
「ほらね」

 姉がくすくすと笑う。皿の泡を洗い流しながら、ビンゴ! と囁く。

「年下もいいんじゃない? ドーソンくんもよく連れてくるけど、どうなの?」

 ドーソンくん――初めての後輩――のことは、確かによく連れて行くけれど、それは彼が姉に好意を寄せているようだったからだ。そんなこと姉に伝えるわけにもいかず、言葉を濁した。

「……そういえば、シモンの奥さん、仲良かったよね?」
「えぇ、今でもヨガ教室に一緒に行くわ」
「まだ行ってたんだ、ヨガ」
「えぇ。キャロルがどうしたの?」
「妊娠したんだって」
「まぁ」

 姉が自分のことのように嬉しそうに声をあげた。女の子かしら? なんていうので、まだそんな時期じゃないとたしなめる。
 制服から私服に着替えてリビングに戻ると、姉はソファーに座ってぼうっとしていた。

「シャワー浴びないの?」
「……レイスくんのことなんだけど……」
「ヴィンセント?」
「えぇ……その……」
「ヴィンセントね、いい奴だよね。エヴァはどう?」
「……あのね、彼、お昼によく電話をくれるの。その……ちょっと、困ってるのよ」
「ヴィンセントが?」

 私の目の前ではそんな素振り、全くないのに。

「さり気なく注意しとくよ」
「ごめんなさいね。アリスの友達なのに」
「ううん」

 水くさいな、ヴィンセントの奴……。何か上手い言い方を考えなければ。

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