永遠少年症候群

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ずっと好きだった

 忘年会、とっても楽しかった。記憶が途切れ途切れだけど、あまりに酔っぱらってしまって、同じくらいひどかった男の子と一緒に友達の家に放り込まれた。うん、確か。それで、同じくらい飲んでた彼が先にソファーに寝てて。
 寝顔眺めて。
 キス、した。

「~~~~っ、見てたの!?」
「見間違いかと思ったけど2回したから」
「……なんというキス魔」
「ずっと好きだったじゃん」
「……うん、でも、諦めたんだよ……」

 頭が痛い中、りょうが出してくれたスープを飲む。
 彼はいつの間にかとっくに帰っていて、朝ごはんは食べられそうにないから出してくれたスープを飲みながら、記憶を整理していた。そこで思い出したのが、私が寝込みを襲った状態になった件のキスである。

「篤司くん、覚えてるかな」
「どうだろう。あいつもかなり飲んでたからな……。ったく、真面目に仕事をしだしたのはいいけど、鍵開けっ放しで帰ってるし」
「……すごいよね、今日も仕事、なんだ」
「今日が仕事納めって言ってなかったかな」

 りょうは、篤司くんとは仲良いんだっけ。
 ていうか、それも悩みどころだけど、りょうにはいつも泊めてもらっちゃうから何かお返ししないとなぁ。

「ごめん、彼氏来るからお風呂入る。ゆっくりしてていいけど、どうする?」
「あら、デートだったの? 帰るよ」
「ごめんね」
「彼氏さんはフットサルしないの?」
「淳は球技下手だから」

 普通の会話なんだけど、その言い方でなんだかのろけられたような気がした。またご飯食べに行こうね、とかそんなことを言って外に出ると、冷たい空気に身震いした。

「……はぁ」

 諦めた、はずだった。
 篤司くんには当時彼女がいて、今回は結婚かなんていう話まであった。
 だから私は、ちくちくと痛む心を隠して、別の人を好きになろうと思った。同じ社会人フットサルサークルに入ってきた篠崎くん。
 私が篤司くんを好きだったことはりょうにしか言ってなかったから、別の子が篤司くんに相談に乗るように口添えしてくれた。厚意なんだと思うけど、実は最悪の采配だった。
 そうして、篠崎くんは年下が好きとかで告白する前に玉砕して、私が酔い潰れやすくなったのはその頃からだ。
 諦めたはずだったのだ。
 ……全然。大好きだ。

「……篤司くん」

 でも、少なくとも、相手が覚えていなければ、なかったことになる。
 昨日、何話したっけ。何か、運命論の話だった。

「俺は、運命で全部決まってると思うんだよね」
「んん? よくわからない」
「何かミスっても、それはもう運命でミスるって決まってたの」
「じゃあ、重要な選択をするときも、自分で決めたって思うんじゃなくて……」
「そう選ぶってことが運命で決まってる」
「……ふーん」

 私は確かその時、篠崎くんに関する相談を篤司くんにするはめになった選択を思った。人に言うんじゃなかった。後悔しても遅いけれど、決まっていたのなら仕方ない。そういう、ことだろうか。
 それまでに、何か、受け入れたくないことでもあったのだろうか。決まっているから仕方なかったと受け入れるしかないことが。
 婚約寸前の彼女と別れたこと? それよりもっと前に?
 そして、その後に酔い潰れて、りょうの家でキ――。

「あー、もう、思い出しちゃう」

 唇をなぞると、なんだか感触が残っている気がした。
 篤司くんは覚えているだろうか。
 覚えていたところでどうすればいいのだろう。
 篤司くんは、私が篠崎くんを好きだと思ってる可能性がある。

 答えは出ないのに、篤司くんのことばかり頭に浮かぶ。

「あら、しょうゆがない。買ってきて」
「はぁ? 今日大晦日だよ」
「だから買ってきてほしいんじゃないの。明日はスーパー開いてないんだから」
「えー、今日は家にこもる気で」
「家にこもる気だったならなんで化粧してるの?」
「……」

 A.外に出たら篤司くんに会えるような気がしたから。
 そんなわけないのになー。
 だって、スーパーに行って帰るだけだもん。大体、篤司くんの家に近いスーパーはここじゃないし。
 心の中で言い訳しながらしょうゆを買って、家に帰る。
 コンビニ行こうかな、でもコンビニでお菓子とか飲み物とか買うと節約できないんだよなぁ。そう考えて通り過ぎたコンビニに見慣れた車が停まっているのが目に入って慌ててUターンした。

「あ、篤司くん、偶然だね!」
「おー、マリエちゃん。このへんだっけ?」
「うん。買い物頼まれて」
「そっか。俺はこれから中学の同窓会」
「そっかぁ……。あの、さ、この前の忘年会、りょうの家のこととか、覚えてる?」

 聞いたとき、篤司くんはヤバいというような変な顔をした。心臓がバクバク鳴っているのが聞こえる。たぶん顔も赤くなってる。

「俺何かした!? 三次会から記憶なくって」
「……あ、そう、それならいいの。私も記憶なくってさぁ……あはは」
「楽しかったもんね」
「うん。それじゃあ、今日は飲みすぎないようにね」
「わかってるって」

 自然な笑顔で、自然に手を振って、コンビニで適当なジュースを買った。
 会えないかなぁって思って、偶然(半分は偶然じゃないけど)会えた方が運命感じちゃったよ、篤司くん。
 家に帰って母にしょうゆを渡してりょうに電話をかける。

「りょう! 篤司くん覚えてないって!」
『本人に聞いたの? チャレンジャーだね……』
「とにかくよかったよ。安心して年が越せるよ。ま、そういう報告」
『はいはい』

 こうして、私の心を泡立てる自損事故は、自分の心だけをかき乱して幕を下ろした。
 ……はずだった。

 フットサルがメインなのか飲み会がメインなのかわからないこの社会人サークルは、月に一度の練習のあとに大体飲み会がある。
 だから、新年1回目の練習の後、今日は新年会を兼ねた飲み会。だけど、もう記憶があいまいなんてことにならないようにしたい。

「マリエちゃん、歌ってよ」
「えー」
「じゃあ一緒に。斎藤和義好きだよね。『ずっと好きだった』歌おう」
「……うん」

 ずっと好きだった。
 篤司くんのこと、ずっと好きだった。
 なんていう選曲なんだろう。
 思わず心までこもっちゃう。

「ずっと好きだったんだぜ、相変わらず綺麗だな」

 あぁ、好き。
 斎藤和義はもちろん好き。
 だけど、篤司くんのことが好き。
 しかも、篤司くんが歌詞とはいえずっと好きだったなんて言ってくれてる。私を見てくれる(交代で歌うからなんだけど)。
 浮かれていたと思う。この歌詞が出るまでは。

「教えてよ、やっぱいいや。あの日のキスの意味」

 驚いた顔を、してしまったと思う。
 これ絶対覚えてる。
 それまでにやけていたのに、背筋に氷が伝ったようだった。
 素面ならこんなことしないんだろうけど、篤司くんを引き摺って店の外へ連れて行く。上着も着ていないのに、寒さも感じない。

「お、覚えて、るの?」
「え?」
「忘年会で、私、き、キス、した」
「え?」
「覚えてて、今の選曲じゃないの? あの日のキスの意味とか、歌詞にあるし」

 篤司くんが口元を押さえるので、ちょっとドキッとする。

「それは覚えてない」
「え」
「もうちょっと素直に受け取ってほしかったな。『ずっと好きだった』の方で」
「え」

 かぁっと顔が赤くなる。突然のことで酔った頭では理解がおいつかない。

「……わかりにくいよ……」
「マリエちゃんが考えたやつの方がわかりにくいよ」
「……わ、私も、好き……。か、帰る。これ以上飲んでまた記憶なくしたらいけないし」
「じゃあ、俺も帰る。今度は二人で出かけよう」

 これも、篤司くんにとっては運命なのだろうか。そうだといいな。
 ずっと好きだった。ほんと好きだった。
 あっちに行ってこっちに行って、ぐるぐる回って、結局君にたどりつく。そんな運命も、おもしろいかも。

 斎藤和義、『ずっと好きだった』です。
 これ書いた後に「ハッピーエンドセール」書いた。
 歌詞を入れるかどうか迷ったけどこれはこのずっと好きだったの歌詞でドキドキするまでが一つの話でして。
 歌詞を入れるまでは「ハッピーエンドの作り方」というタイトルでした。
 この掌編小説は、著作権を放棄します。