永遠少年症候群

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ファンタジー、恋愛要素、ハッピーエンド多め。
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Animals

 見知ったコールガールの瞳から光が失われていく。ヤバい。
 逃げないと。
 俺はとっさに、身をひるがえした。焦っていて、木の枝が服に引っかかって少し破れたし、その先で防犯カメラに映ってしまった。
 最悪だ。

 コールガールの連続殺人。ニュースにはなっていないが、この前ので4件。目の前の彼女は怖くないのだろうか。

「こんにちは。さ、始めましょうか」

 冷たい氷の中に青く燃える炎が揺らめいているような、そんな女。
 顎を持ち上げると、俺が見下ろしているのに見下されているような。金を払ってるのはこっちだぞ、と思わず心の中で笑うと彼女はすっと目を逸らした。それが一度目を伏せるもんだから、俺は強がっちゃって、なんて思うわけだ。
 ただのコールガールじゃないんだろうな、って思うわけ。美人だけど、髪をブロンドに染めてちょっと傷んでる。バカなふりをしてるけれど、きっとかなり賢い。プライドの高さを隠そうとしていないのは、ちょっとどうかと思うな。
 さてどうするか。

「どう? 服を着たまま」
「汗かいちゃう」

 急くように俺のTシャツに手をかける彼女の腕を掴むと、彼女はちらりとこちらを見上げた。
 かなり好み。やるじゃんって思うけど、このまま帰った方が良さそうだ。たぶん抜け毛はないと思うけど、きょろきょろとあたりを見渡すと彼女は不意にバッグを引き寄せた。
 盗らねーよ。なんとなく脱力して、彼女をぽんと突き放す。
 まったく、コールガール相手に何もしないで帰るなんてこと、あっていいのだろうか。

「今日は帰るよ」

 そうして、彼女の雇い主に電話をした。今日の女の子は最低だった、クビにすべきだと。一応俺は上客だしね。きっとクビになるだろう。
 もう会うことはないかな。きっと、担当を外されるだろうから。
 さてどうしようか。彼女がやけに脱がせたがったのは、たぶんわき腹のタトゥーを確認するため。防犯カメラにこれが映ったんだろう。タトゥーをどうにかしないといけない。どうにか色を抜いて……、いや、そこに彼女や代わりの担当者が現れたらおしまいだ。正規の手段はとれない。
 逃げるのは癪だな。本当に帰ろう。
 適当に入ったビジネスホテルで、勝手に厨房に入って裏口から出る。一本裏の通りってだけでゴミが落ちてるだけで何もない。人も車も通らない。何事もなかったかのように帰ると、家に何か違和感があった。

「……?」

 廃棄されたトレーラーハウスの山のうちの、一つ。誰も寄り付かず、人が住んでいるとも気付かれない。
 腰に差し込んでいた銃を取り出すと小さな小さな、床がきしむ音がした。小柄な……子どもか、女。
 こういうときに銃って必要なんだよな。銃社会ってこうなんだ。悪いけど。
 そうして銃を構えたまま部屋に入ると、どうしてそうなったのか、一瞬にして腕をひねり上げられた。

「おかえり、お客様」

 なんで。彼女を呼んだホテルからの捜査員は撒いたのに。先程の彼女が俺の腕を掴んでる。
 ゾッとするほどの瞳の強さに、思わず後ずさる。

「コールガールはクビだろう?」
「そうよ。どんなクレームをつけたの? あんなに怒られたの久しぶり」

 細いヒールで俺を蹴り倒して、腹の上にまたがる。俺のTシャツを乱暴にめくりあげて彼女は舌打ちした。

「やっぱり。このタトゥー……」
「不法侵入だ。これじゃきちんとした証拠にはならない。そうだろう? 大体、あんたは潜入捜査で失敗して、捜査を外されたたはず。これを見れなかったんだからな」

 端正な顔立ちの奥で、奥歯をギリリと噛む音がした。
 想像通り、ふるまいがコールガールのそれじゃないから警戒してみたが、本当に連邦捜査局の潜入捜査員だとは。
 正式な証拠がないから、この前逃げる時に木の枝に引っかかって防犯カメラに映ったらしいわき腹のタトゥーを手掛かりに捜査中。予想通りの無能さに笑いが隠せない。

「で、非正規の捜査をしてる捜査官さんは、シリアルキラー(仮)の自宅でどうするの?」
「自白したわね?」
「容疑者なんでしょ? だからカッコ仮。でもね、俺好みのコールガール役して不法侵入までしてもらって悪いけど、俺は犯人じゃないんだな、これが」
「でも、私がタトゥーを手掛かりに犯人を追ってる事を知ってる。それにその犯人がシリアルキラーってこともね。ただの殺人犯って言えば、発見者とでも言い訳できたのにね」

 あぁ、ミスった。これを切り抜けるにはどうしたものか。なんだか悩んでばかりだ。
 これが取調室だったら、謎の電話一本でどうにかなるのに。面倒だから通報だけして逃げたのがここまで裏目に出るとは。
 うやむやにするにはどうするか。
 見たところプライドは高そうだし、美人なのに化粧っ気もなくて恋人なんかいたこともなさそう。俺の上に乗っといて脚を閉じないあたり、スカートも何年振りかわからないくらいだろうか。香水はNo.5、とりあえず勧められたから買った感じかな。

「こんな美人な捜査員寄越すなんて、おたくの上司は俺をハニートラップにかけるつもりかな?」
「殺人犯にそんなこと」
「わからないよ、意外と運命感じちゃうかも」

 俺の言葉を繰り返すように運命と呟いて、彼女は一度ぱちりと瞬きした。
 そういう言葉に弱いのも見た目通り。予想を裏切らないね。

「現場から逃げたのは謝るよ。でもちゃんと通報しただろ?」
「何故逃げたの?」
「そりゃ、こんな風に脅されるのが嫌だからさ」

 彼女は、ばつが悪そうに俺の上からおりた。

「FBIで取り調べを受ける気はないけど、君にならいいよ。俺の名前はポールで、好みは君みたいなタイプ」

 頬を包んで親指を彼女の唇に這わすと、彼女は戸惑いの表情を見せた。
 こんなにしおらしくて、俺がもし本当に殺人犯だったらどうする気なんだろうね。ま、もし本当に殺人犯でも、FBIの捜査員に手を出したら本気で捜査されて自殺するようなもんなんだろうけど。
 それにしても、初仕事でやる気に満ち溢れていて、空回ってる。可哀想な子だな。
 一回いい思いさせてもらって、消えるとするか。

 スタバで受け取ったカップには、ポールと名前が書いてあって、Oの文字がハートマークになっていた。ウインクをして渡してくれたのは、メアリー。彼女がハートマークを書いてくれる日は何かいいことが起こるとのうわさだ。
 いいことか。
 FBIが捜査していた連続殺人は、犯人が捕まったそうだ。よかった、もう彼女がいても逃げなくて済む。
 コーヒーに口を付けてデスクに戻ろうとすると、上司が指でくいっとする。来いってことだ。もう面倒事は済んだし、恐怖の上司、ピーター・リドルも怖くない。

「ポール、お前何したんだ」
「え?」
「見ろ、FBIがお前の顔でデータベース検索しまくってる」
「えー……。何も悪いことしてない……あー、この前あなたが言っていた殺人事件、四番目の事件で第一発見者になってしまって。俺の正体がバレてもいけないし、通報だけして立ち去ったんです」
「それでタトゥーが監視カメラに映ったと」

 知ってるじゃねぇか。ニュースになっていない事件だけじゃなくてFBIの捜査状況まで知ってるって、どこまで深い所にスパイを送り込んでるんだ?
 俺も諜報員としての腕は自信あるけど、FBIに入り込む自信はない。
 さすがだ。ピーターはこの職場――CIA――でスバ抜けて優秀な元諜報員で、数々の重要な任務をこなしてきた男。そして俺が最も恐れる上司だ。父親としても優秀なのかなんなのか、娘自慢を度々してくるのが独身の俺には面倒なところ。

「……もう消してきました。最近のってすごい綺麗に消えるんすね」
「で、事件は済んだのに何したら検索されるんだ?」
「……寝てうやむやにした感じ?」
「……ほう? そりゃ自業自得だ。いいかポール。我々は『狩る側』だ」
「はい」
「娘にもそう教えてる。狩られる側じゃない。こんな風にうろちょろされたら迷惑だ。どうにかしろ」

 どうにかしろって言われてもなぁ。
 好みではあったけど、二回目以降はなくてもいいかなぁって感じだったんだけど。
 ちょっと探してみるか。
 情報管理室で街中の監視カメラを見ると、彼女はすぐに見つかった。ここ数日の映像を見ていると、なんか……。

「うわぁ……」

 いろんなバーで、いろんな男と、いろんなモーテルに行っている。
 俺の見立てではすっげぇお堅かったのに。

「ポール、何この女。新しい情報提供者?」
「まぁそんなとこ」
「すごいビッチ。あー、でも、なんか、モーテルから出てくるの早いし……、もしかしてドラッグのバイヤーかな?」
「いや……」

 そんなことできるような子じゃない。
 男の顔もなんか怒ってるし、モーテルに入っといて拒否してる感じか?

「あっ、わかった。寂しいけど昔の男が忘れられない、みたいな感じだ」
「……」
「これに接触するのは厳しいかもな」
「ま、行動パターンは読めたし行ってみる」
「彼女について調べとく」
「FBIだから、慎重にな」
「FBI!?」

 すっかり冷めたコーヒーを飲みながら街へ出ると、腕をガッと掴まれた。

「……見つけた」
「ワーオ、見つかった」

 彼女は、初めて見たときのような鋭い視線で俺を射抜いた。うん、この目が本当にタイプ。

「ポール・メイナード、33歳、去年から出版社勤務」
「……うん?」

 それは、情報管理室が流してる俺の情報。そういえば長期出張でも違和感ないように出版社っていう設定だっけ?

「見つけたってことは、俺を探してたのかな?」
「そうよ。あの後いくら探しても全然見つからなかった。あなた何者?」
「……さぁね。悪い奴だったら逮捕する?」
「えぇ、ずっと捕まえてあげるわよ」

 上目遣いに笑われて、ドキッと心臓が跳ねる。
 あれ、なんか、俺押されてる?

「事件のこと、何で知ってたの? 記者だから、何かルートがあるの?」
「まぁね」
「私と付き合ったら、FBIの情報を聞き出す?」
「いや、そんなことしない。君から聞いたって君にバレるからね」
「ならいいわよ。あなたの口説き文句、意外と好きだったの」
「運命感じちゃった?」
「そう。いくら探しても見つからなかったのに、ふらっと外に出たら再会したんだから――きっと運命だわ」

 あれ、やっぱ、俺押されてるな。
 彼女が俺の首根っこに腕をからめる。情報管理室のジャックから電話が来たけど、雰囲気に流されて取れなかった。彼女の素性、調べてくれるって言ってたけど大体知ってるし。名前は本人から聞けばいい。
 俺、こんなんだったかなー……。
 でもなんか、ドラマか何かみたいだ。
 ふと起きると、電話に出られなかったからかジャックからメールが届いていた。タイトルはWARNING!!……警告?

***

WARNING!!

 名前:ノーラ・サブリナ・リドル
 職業:FBI捜査官 2年目のピチピチ
 好きなスタバのメニューはキャラメルマキアート、趣味はアクション映画
 備考:我らがピーターの娘

***

 寝ぼけた頭が急に冴えわたる。
 我々は狩る側だ。娘にもそう教えてる。
 冗談きつすぎるぜ、ピーター。なんて化け物生みだしてるんだよ。
 どうやら俺は、狩られる側だったようで。

 Maroon5のAnimalsです。
 こういうスパイ×ラブコメみたいなのが好きで……。black & whiteとか、コバートアフェアとか好き。
 なんちゃってスパイ小説。
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