永遠少年症候群

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帝国歴311年8月31日

「はぁ……」
「また溜め息吐いてる」

 くすくす笑う姉に溜め息を返した。
 手には汗で湿ってふやけた昇進辞令。額縁にでも入れたいくらいだ。2階級の昇進なんて、殉職でもしない限りないと思っていた。

「大佐なんて荷が重すぎるよ」
「総帥になるんじゃなかったの? ウィルソン大佐」

 姉ののんびりした声に、思わずテーブルに突っ伏して地団太を踏む。

「なるけど! 今の私には大佐なんて荷が重すぎるの!」
「あら、アリス、制服を脱いで。しわになっちゃうわ。ほら、着替えて! ロゼッタ達が来るんでしょ?」
「うん……」

 適当な私服に着替えて、またリビングのテーブルに突っ伏すと姉の呆れた声が名前を呼んだ。

「あなたが認められたってことじゃないの」
「……」

 違うんだ。大佐も中佐も、亡くなってしまったから。繰り上がっただけなんだ。
 返事に詰まって、拳銃を引き出しから取り出した。拳銃の手入れをするとき、姉は私に話しかけてこないから。

「あら、来たんじゃないかしら」

 姉の声に顔を上げると、確かに外に人の気配がする。拳銃を引き出しに押し込んで玄関へ向かうためにリビングを出ると同時にベルが鳴った。

「はーい」
「アリス、昇進おめでとうー!」
「うわっ」

 ドアを開けた瞬間にクラッカーが鳴り響く。
 呆けていると気の置けない数少ない友人達はずかずかと上がり込んで姉と談笑している。本日何度目かわからない溜め息を吐くと、控えめに声がかかった。

「失礼する」
「いらっしゃいラウロ。ロゼッタ達と一緒にあがって良かったのに」
「一応初めて来たから」

 ラウロを連れてリビングへ向かう。

「すごいよ、アリス。306年卒で最速の大佐ね!」
「……他にいなかったんだよ、きっと」

 アルダナ戦――つい最近あった戦いで、戦地に赴いた大佐・中佐が会議をしていたところに、爆撃を受けて多くの有能な人材が一度に亡くなってしまった。少佐であった私に白羽の矢が立ったのは、特別不思議なことではないように思う。
 最悪、出自を調べられている可能性もある。どうして自信をもって実力だと言えようか。

「アルダナ戦でのアリスの小隊の働きはでかかっただろ」

 部下になる友人。奇妙で、居心地の悪い上下関係。
 ヴィンセントの褐色の肌が笑顔に歪む。そんなに、嬉しそうに笑わないでほしい。私は逆の立場だったら、そんな風に笑う自信はない。

「みんな、ご飯が出来たからどうぞ座って」
「エヴァさんの料理が食べられるなんて、昇進した甲斐があるわ」

 くすくす笑いながらロゼッタが言うので、姉がふんわり微笑む。テーブルに料理を運んでしまうと、昇進祝いの食事会が始まった。

「みんな昇進したんですってね」
「そう! 私、やっと少佐よ」
「ロゼッタは、第七部隊なの。第七部隊は救護部隊のことね」

 姉に説明すると、大真面目な顔で頷く。ロゼッタの深緑色の目が嬉しそうに細まって、手のひらで隣の男を示した。

「ラウロは、空軍なの。戦略を立てるのが得意な第五部隊の少佐よ」
「初めまして、エヴァンジェリンです。おめでとう」
「ありがとう」

 ラウロはロゼッタの恋人。私達より一歳上だが、浪人して入学したため士官学校では同級生にあたる。といっても、士官学校も陸海空にそれぞれ分かれているため、ロゼッタとラウロが出会ったのは士官学校を卒業した後の入隊パーティーだ。
 姉には、事前にラウロのこと――主にロゼッタの恋人であること――を説明していたので、当たり障りのないことだけを言おうとしたようだった。姉はよくモテるので、素っ気ないくらいがちょうどいい……とはいえ、気にしすぎてギクシャクしてるかな。微妙な空気が流れる前に、と私の隣に座る男を示した。

「ヴィンセントは中佐になったんだよ」
「明日からアリスの部下です」
「アリスをよろしくね、レイスくん」

 姉が食べ物をとりわけながら微笑むと、ヴィンセントは頬を染めて俯いた。そんな柄じゃないはずなのだけど、ヴィンセントは姉の前ではあまりしゃべらなくなってしまう。
 食べ始めてすぐに、ラウロがうまいと言った。ラウロは社交的だし人を褒め慣れているから、素直に思ったことを口にする。一方、ヴィンセントはもくもくと食べている。

「どう? ヴィンセント、おいしい?」

 私は料理に関しては少しも手伝っていないのだが、ヴィンセントに感想を促す。彼は食べる手を止めずに、ちらっと姉を窺った。

「おいしい、です」

 その言葉にふんわり笑う姉。それを見て、今度は耳まで真っ赤にして俯くヴィンセント。もっとも、彼の褐色がかった肌ではわかりにくいんだけど。
 まったくもう、アシストしなきゃ美味しいと一言言うこともできないんだから。
 でも、ヴィンセントが義兄になるのは想像つかないなぁ。そんなことを思いながら美味しいディナーを頬張る。

「明日は入隊式だね」
「何人入るのか知ってる?」
「第二は士官学校の卒業生が一人で、あとは100人くらいかなぁ。第一なんかは300超えるって聞いたけど」
「そんなに? 第五なんてほんの数人らしいぜ」
「第五は試験のレベル高いじゃない。第七も出入りが激しいわけではないし、あんまりいないんじゃないかしら」

 大きな一口を頬張るために、茶色の髪を耳にかけながら言う。その仕草はとても女性らしい。救護隊とはいえ同じ軍人なのに。いや、同じ女性なのに。

「アリスの第二部隊になってからの新入隊員なんて、特別可愛いでしょうね」
「そうかなぁ。少佐の時も一応部下はいたし、変わらないと思うけど」
「そういうものなのよ」

 こんな風にみんなでお祝いの食事ができるのも少なくなるのかもしれない。変わらないものがあればいいのに。
 明日は入隊式。新入隊員はどんな子なんだろう。