永遠少年症候群

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かすみ草

「ただいま……」

 強制されて言っていたのに、いつの間にか当たり前になっていた。
 しんと冷えた部屋には暗闇と静寂が広がっていて、おかえりという返事はない。きっともう、一生ない。
 脱ぎっぱなしの寝間着が脱いだ形で落ちている。俺はそれを拾えない。フェイスがいた痕跡を消したくなかった。元々長く空ける予定できれいに片づけていた部屋には、これしかフェイスの行動が残っていなくて。洗いかけの食器でもあれば、もしかしたらカビが生えてもそこにおいていたかもしれない。
 一人で食う飯は不味く、酒も味気ない。
 こんなに、あいつの存在が大きすぎるとは思わなかった。
 結婚しようと言えばよかった。もう少し真剣に、前線に出る部隊にいてほしくないと言えばよかった。
 後悔しても遅い。
 痛み分け。叩きのめすのではなく、双方退いた今回の大戦。俺が最前線でもっと早く蹴散らしてしまえば向こうは大量破壊兵器など使わなかったのだろうか。そもそもあれは、兵器だったのだろうか。

「……くそっ」

 大佐になった。大佐になったんだ、フェイス。
 大佐になったら付き合ってあげてもいい、とか言っていたのに。大佐になれば結婚していいと。
 買い物や気晴らしなど、理由を作っては部屋を出る。何度も「ただいま」を言えば、1回くらいは「おかえり」が聞こえるかもしれない。
 フェイスが好きだった花は、相変わらず道端に綺麗に咲いている。散歩をするときに、いつも微笑んで摘んでは、部屋に飾っていた。

***

 無機質なガスマスクをつけた反逆者が、美しく笑うのを幻視する。どうやら毒を吸って幻覚を見ているらしい。一方的になぶり殺されようとしているのに、満面の笑みを浮かべるフェイスが見える。
 フェイス、もうすぐそっちに行けそうだ。なぁ、その時はかすみ草持っていくから、会いたかったって言ってくれよ。

斉藤和義のかすみ草です。
またオリキャラで書いてしまった。
この掌編小説は、著作権を放棄します。