永遠少年症候群

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化学教師の化学反応

 俺の好きな人は、どのクラスメイトよりも美人で、どのクラスメイトよりもスタイルがよくて、どのクラスメイトよりたぶん俺のことを知ってた。高2の時の担任で、化学担当だった飯野先生。
 俺が1年の時新卒で、ただ化学の授業しか接点がない時から可愛いと思ってた。それで、2年目で担任。優秀なんだろうなぁと思った。けどその時は別に好きとかそういうんじゃなかった。決定打は、2年の秋の昼休み。親父と喧嘩した母親が俺の分まで弁当を作らなくなった頃、先生がそれに気付いてパンをくれた。そんだけのこと。だけど俺にとっては人に気にかけてもらってるという事実が嬉しくて、そのときの先生の憐れむでも心配するでもない笑顔が特別に可愛く見えた。
 俺が高校の見学に来た2歳下の弟も可愛いと言っていた。だろ?とか言ったら俺の好きな女の方が可愛いとか言う辺り妙に素直でバカな奴だ。2年経った今でも彼女はいないようで、一人暮らしだという親友の家に入り浸っているようだ。まぁ、弟のことはどうでもいい。
 俺はとにかく飯野先生が好きで、化学の成績が特別よくなるわけでもなかったけど授業はまじめに聞いていたし先生の手伝いとかもした。実験もバカ高校の生徒に合わせて塩の結晶見るとかで先生はつまらなかっただろうけど、それでも笑ってて可愛かった。
 先生がたまに目を伏せて笑うのも、俺の前だけで。ちょっと特別なのかと思ってた。
 だけど連絡先を聞いても上手くかわされたし、告白もしなかった。卒業したらアタックしようと思ってた。
 3年の時、両親が離婚した時、関係ないのに先生に相談したときは黙って聞いてくれた。両親の離婚は薄々感じとっていたから別にショックでもなんでもなかったんだけど、先生に相談という名目で話せればよかったから。先生はごめんね、と言った。いいアドバイスができなくて、ごめんね。
 母親が出て行って広くなった家で、なかなか帰ってこない親父と弟を待つでもなくだらだら過ごす。俺は高校を卒業して、先生を忘れられずにいるただのフリーター。就職して、それから先生に会いに行くのも悪くない……。そう思って早数ヵ月、だ。

 そんな、走馬灯のような2年間が駆け巡った。耳の横をガンガンと殴りつけられているような頭痛がする。

「いたのか、篤司」
「ひ、久しぶりだね……宇治川くん」

 何で、先生がここに。何で親父の隣に。
 両親の離婚は先生のせいで。母親が弁当を作らなくなったのも、きっと先生のせいで。
 何それ。

「ごめんね、って、そういう意味だったんですか」

 目を伏せて笑うのも、俺に申し訳ないから。
 そういうことか。
 こっちは今でも先生のことが忘れられねぇってのに。

「……帰ります、宇治川さん」
「いいよ、知花」

 チカ、とか。名前で呼んだことなんて、俺はない。ただそれだけなのに、打ちのめされたような気分で。
 俺なんかが先生の手を握れないことは、予感してた。ただ、その手を握るのは、俺の知らない勝ち目も何もない完璧な男であってほしかったんだ。