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永遠少年症候群

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ファンタジー、恋愛要素、ハッピーエンド多め。たまに暴力やグロテスクな表現があります。
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恋の泡

「足を得る代わりに声を失うなんて、フェアな取引とは思えないわ」
「そうか?」
「そうよ。おまけに足は針山の上を歩いてるように痛むなんて」

 子供向けの薄く古びた童話を太股の上に置いて、彼女はひどい話だわ、と言った。二人でソファーに座っているが、彼女は隣にいる俺を背もたれにして足を伸ばしていた。ソファーからはみ出した足をぶらぶら揺らしているのだろう、反動で重くはないが決して軽くもない体重が俺にのしかかってくる。

「君はヒロインが幸せになれば満足なのか?」
「違うわ。だけど、フェアな取引をすべきよ。声を奪うなら、文字がわかっていなきゃ意志の疎通もできないもの」
「どうだろう。人魚姫の魔女は悪い魔女じゃなかったか?結ばれることが無理なように仕組んでる」
「…そうね。身分の違いが一番のテーマだもの」

 後ろに少し体をずらしてみると、彼女は小さく悲鳴を上げて俺の足の上に倒れてきた。

「いじわる!」
「そうかな」
「ふん、あなたが謝罪するまで意地でも起き上がらないわ」

 頬を膨らませて、彼女は俺を睨みつける。

「おでこが丸見えだ」
「えっち!」

 最近気付いたのだが、額が広いのを気にしているらしい。彼女は額に前髪を撫でつけてまた頬を膨らませて抗議を示す。
 その目が言っているのはさぁ謝罪しなさいってところだろうか。

「身分違いがテーマね」

 彼女の手から『人魚姫』を取り上げる。細い指が追いかけてきたけれど、途中で諦めて胸の上で手を組んだ。

「アンデルセンは、階級が低くて好きな人を諦めなければならなかったんですって。だから、人魚姫はアンデルセン自身なのよ」
「ふーん」

 ぱらぱらと本を開くと、単語に付箋が貼ってあり、暗喩や暗示が書きこまれている。
 おそらく文学部か教育学部にでも友達がいて、付箋でべたべたのこれを面白がってその友達に借りたのだろう。
 見ていると頭が痛くなるので本を閉じてセリアの手の中に戻す。
 えーっと、何の話だったか…。思い出すより話題を変えようと、少し思考を巡らせる。人魚姫。悲恋の話。

「…俺が王子様で君が人魚姫なら、物語はきっとハッピーエンドだったのに」
「あら、素敵なことを言うじゃない」
「もし君が声を奪われても、君が考えてることならわかるよ」
「本当?」
「あぁ。今は『そろそろ起き上がらないと首が痛いわ』って思ってる」
「いいえ、クリストファーはロリコンって思ったわ」
「言ってはならないことを」

 前髪を額から払うと、彼女は額を押さえながら真顔で言った。

「そこは君が恋人だから違うって否定するところでしょ」

 これはマズイ。俺がロリコンなのが真実で彼女が童顔だと言外に言ったようなものだった。彼女はそれを額の広さ以上に気にしてるのに。ついでに俺はロリコンじゃない。
 背中を丸めて、彼女の耳元で小さく謝罪の言葉を口にする。と、彼女は勝ち誇った顔で起き上がって俺の隣に座りなおした。

「そうだ、最近覚えたカクテルを作ろうか。飲む?」
「えぇ」

 キッチンへ行って、カクテルを作る。本当はチェリーをのせると綺麗なコントラストになるのだが、まぁ今日はなくても仕方ない。
 セリアが熱心に、何度目かわからない『人魚姫』に目を通している。
 テーブルの上にグラスを置くと、ゆっくり顔を上げた。

「あら、綺麗なブルー」
「だろう?今日の君にぴったりだ」
「この泡は人魚姫なのね」

 バスケットに個包装のチョコレートをひっくり返して、彼女の隣に座る。

「あなたの瞳の色ね。とっても綺麗」

 グラスの底から揺らめいて浮き上がる泡は、まるで何もないところから沸き上がってくる、彼女を愛しいと思う気持ちのようで。

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