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永遠少年症候群

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ファンタジー、恋愛要素、ハッピーエンド多め。たまに暴力やグロテスクな表現があります。
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不思議な夢を集める天然な問題児

「渉汰が超能力者で、篠崎くんがロボット、足立さんが楽譜を食べちゃう超能力者で……。あ、そうだ、先輩は霊感があるんだ……」

 写真を見ながら、ブツブツ呟く笑美。
 今までの『変人』達とのツーショット(双子の時は3人だが)写真だ。

「はぁ……。なんで私には特技とかないのかなぁ」
「……足立のは超能力なのか?」
「今の問題はそこじゃないでしょ!」

 特技ならあるだろ、という言葉を飲み込む。なんでも幻想的に変えてしまう特技。紙袋で生徒会長が倒れた時に処置したのも、魔法のようだった。だって、ただの紙袋だぞ?
 だけどその称賛は、笑美にとって「魔法のよう」という例えでしかない。

「空を飛びたいとか言ってたな」
「お姫様だっこじゃいや」
「わがまま」
「だって……」

 笑顔はふいに泣きそうな顔に変わる。
 俺はこいつにとって人を消す超能力者だったか?
 ”えみ”を消す男。俺と一緒にいることは幸せなのか?

「くだらない幻想なのかな。やっぱり」

 ぼそりと呟かれた言葉が彼女特有の温度と柔らかさを失っていたのは、きっと聞き間違いじゃないだろう。
 彼女は出会った頃のような静かな声で、ぽつりぽつりと語りだした。

***

 おとぎ話なんてくだらない。これはね、ママの口癖だったの。私は小さい頃から夢見がちで、おとぎ話が大好きだった。
 だけどさ、ママから本格的におとぎ話を取り上げられたのは小学校入学のときだった。お受験ね、失敗したの。頑張ったんだよ。でもね、だめだった。知ってる? 小学校のお受験って結局はくじ引きなんだって。
 おとぎ話なんてくだらない。ひらひらしたレースも、甘いお菓子も、勉強より遊ぶことが好きなお友達も、くだらない。ママはそれらが私にとって毒だと言ったの。それでね、公立の小学校に通うことになった小学一年生の私は思ったの。それらが好きな私は、……私も、きっと毒なんだ、ってね。
 毎日塾に行ったよ。……今も行ってるけど、今よりずっとハードだった。
 ママがひどいと思う? だけどね、私ママが好きだったの。だから、「いい子」になろうって頑張ったの。「毒」を避けて過ごしたし、毎日毎日勉強も礼儀作法も、何もかも頑張った。
 神様なんていないのかな、って思ったのは……中学受験の時。私、熱出しちゃって……。結果は……聞かないでね? ママは……それからは、もう私のこと見てくれなかったなぁ。
 そんな顔しないで、渉汰。私、もうママの顔色を窺ったりしてないんだから。
 ふふふっ、私の名前ね、『美しく笑う女の子に育ってほしい』っていう意味があるんだって。ママが言う『美しく笑う』っていうのは、優雅で清らかに微笑むだけ。中学のクラスメイトがね、面白いことを言ったときに思わず噴き出して声上げて笑っちゃってね、みんなが驚いた顔で可愛いって言ってくれたの。あ、違う違う、可愛い自慢じゃないの。ちゃんと聞いて。それまではね、笑ってる顔だけど本当に笑ってない顔だったって。死んでるみたいだったって言われたの。

***

 笑美は俯いたままくすくす笑った。骨ばった肩がかくかく揺れる。それはまるで頭を支える糸が切れた操り人形のよう。

「あれから、私はあんま現実見れてないのかな……。わかってるんだ、私……」

 顔を上げた笑美は笑っていた。これが、『美しい笑み』なのだろう。ずっとずっと、この笑みを張り付けていたんだろう。泣くことを、知らないんだ。
 思わず、引き寄せていた。

「わっ」
「泣け。こうしてればお前のママには見えないから」

 ぎゅうっと頭を抱きしめる。

「私ね、泣けないの」
「うん」
「泣い、ちゃ、だ、だめっ、で」
「誰がそんなこと言ったんだ? 神様か? 神様なんて、いないんだろ」
「ふぇ……っ、うっ、しょうたぁ」

 細く柔らかい髪に指を絡める。
 人は時に、過去が重くのしかかって息さえできなくなる。泣ける人間は泣くんだ。嗚咽で嫌でも息を吸い込むから。だけど泣くことができない人間はどうなる? 体が酸素を欲して過度に呼吸することになる。
 笑美はしばらく動かなかった。子供でもあやすように、昔祖父が歌っていた下手な鼻歌をなぞりながら背中を叩く。俺、いっつもこうやってもらって落ち着いてた。忘れてたな。

「……ありがとう……」

 俺はいつもその笑顔に魔法にかかったみたいに救われているのに。こいつを離さなければ、いつか伝えることもできるだろう。

Teachers――観察者の判断

「うーん……」
「どうしました? 筒井先生」

 コトン、と目の前に缶コーヒーが置かれる。一体私の好きなコーヒーのブランドを覚えたのはいつなのだろう。こうも日課になってしまっていては彼女の反省の色も薄い。温かいうちに缶コーヒーを開けると、いつもの香りが鼻腔をくすぐった。

「すいません、今日も起こしてもらっちゃって」
「いいえ……。それより、あなたのクラスの鴨川さん……成績どうしようかしら」
「笑美ちゃんですか? 成績いいじゃないですか」
「点数はね。問題は出席数なのよ……」
「鴨川ですか」

 不意に声をかけられ、コーヒーを一旦机に置いた。ベテランの数学の先生だ。

「確かに点数上の成績はいいですが、授業態度が問題ですな。今日も授業中にいきなり教室を出て行ってしまったんですよ。まったく、落ちこぼれの代表のような子だ」

 彼女の眉が不愉快に歪むのを見もしないで、先生は続ける。

「ああいう教師をなめた態度をとる奴は留年させてやればいいんです」
「鴨川さんはとても素敵な子ですよ」
「とても素敵な子は授業中に出歩いたりしません」
「堀田くん、篠崎くん、足立さん」
「……?」
「……先生の言う落ちこぼれのおかげで、学校に来るようになった子達です。面倒見のいい、いい子です。それに鴨川さんは予習も復習もちゃんとやっています」

 いつもはおっとりしている彼女が一気にまくしたてる。

「だめ、飯野先生っ」
「授業中に出て行かれるような授業をする先生にも問題があるのではないでしょうか!?」

 ……言っちゃった……。思わずこめかみを押さえた。私の受け持っているクラスの生徒からも、この先生の授業は教科書をなぞるだけでわからないと苦情が出ているが、ベテランの先輩であることもあって言えやしなかったというのに。

「な、何だと……!」
「せ、先生……失礼ですが、鴨川さんが授業中に出て行くなんて聞いたことありません。しかも、現に鴨川さんは先生のテストで満点を取って設問の問題を指摘したそうですね……?」
「なぜそれを……!」

 わざと大きな声で言ったのは、学長にも聞こえるようにだ。目論見は成功したようで、学長がこちらへ歩み寄ってきた。ジェスチャーでもう関わるなと示され、脱力と共に椅子に座りこむ。

「はぁ、久しぶりにむかついた~」
「もう、寿命が縮んだわ」
「筒井先生、ありがとう」
「私は、個人的な感情で生徒の人格を否定するなんて許せないだけ」
「笑美ちゃんは、ちょっと天然だけどとても優秀な問題児ですよね」
「矛盾してます」
「笑美ちゃんはね、人を救える子なんですよ」

 飯野先生はあっさり言う。こういう風にあっさり言うから、誤解してしまうのだ。飯野先生はただのねぼすけでピアスを3つも付けている頼りない先生だと。

「……でも、出席数が足りないのは人格じゃ補えないのよねー」
「あう……。補講で……! 補講で勘弁してあげてください!」

 鴨川笑美。
 彼女を中心に、彼女にも気付かないうちに周りが正しく動き出す小さな歯車を持っている。人はそれを、魔法のようだと形容するのだ。

不思議な夢を集める天然な問題児――了
お題元:水性アポロ

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