永遠少年症候群

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    ブクログのパブー……電子書籍形式。詩の投稿はこちらのみ。
    小説家になろう……ガラケー、スマホ対応。pdf形式の縦書き対応。

    恋愛感情を届けるナルシストな幽霊

    「何やってんの?」

     ここは屋上。
     屋上は出入りが自由だけど、鍵を閉めてしまったので、俺以外にはいないはずだった。
     振り向いてみれば、さわやかな顔の優男。

    「……お前、どうやってここに入ったんだ?」
    「あぁ、驚いてるね。まぁ、仕方ない……僕は美しいからね」
    「は?」
    「あぁ、それとも血を流してなお美しいから、驚いてるのかな?」

     そう言いながらそいつが髪をかき上げると、確かに頭から出血していた。

    「お、おい、こんなとこでのんきに喋ってる場合じゃねぇだろ! 救急車呼ばねぇと!!」
    「あ、待って。大丈夫だから……あー……ほんとは大丈夫じゃないんだけどね」

     俺が携帯を取り出すのを制しながら、男は笑う。

    「何言ってんだよ」
    「もう手遅れだから」
    「諦めるなよ!!」
    「いやいや、僕、幽霊だから」
    「!!!!!」

     幽霊はさわやかに笑った。

    「あ、驚いてるね。こんなに美しい幽霊、見たことなかったんだろ?」
    「美しい美しいって……お前ナルシストだな」
    「何言ってるんだい。美しいものを美しいと言って何が悪いんだ?」

     ついでにその気取った喋り方も癇に障るが、言ったらまた何を言ってるんだい、と返されるのが関の山だろうから、黙っておく。

    「お前、何でこんなところにいるんだよ。まだ日中だぞ」
    「どういう基準か知らないけど、君には関係ないね。君に関係あるのはあの女の子じゃないのかい? あぁ、まだ泣いてる」

     幽霊がチラリと見遣った教室では、確かに栗色の長い髪の奴が泣いているのを見て取れた。

    「お前には関係ないだろ」
    「ないことはないさ。でも、美しいものはいつだって何かしら差別化されるものだね。可哀想に、あの子も」

     こいつ、絶対この性格のせいで殺されたんだな。

    「あの子は何で泣いてるの?」
    「さぁな。俺がムカつくとか嫌いとか言ったからじゃねぇの」
    「じゃあ、何でそんなこと言われて泣くと思う?」
    「……知るかよ」
    「質問を変えよう。君は、あの子が泣いていて心が痛んでいるだろう?」
    「……全然」
    「じゃあ、何であの教室が見えるところにこうして座っているんだい?」
    「偶然だろ」

     癪なので移動することにした。

    「おや、図星かい?」
    「…………」

     やっぱりムカつくのでその場にとどまることにした。

    「君は、何で心が痛むんだと思う?」
    「だから痛んでねぇって」
    「何であの子が気になるんだと思う?」
    「気にならねぇ」
    「じゃあ、何であの子を傷付けるようなこと言ったの?」
    「……それは、」
    「気に入らないね。意味もなく傷付けたのかい?」
    「違、」
    「君は彼女が好意を寄せてるのを知っていて傷付けたんだろう? これ以上好かれないために。嫌われて自分が傷付くのが嫌だから」
    「違う! 俺は! あいつが傷付くのが嫌だった!! 俺は……もうすぐここからいなくなるから……」
    「それを愛って言うんだよ」
    「……………………は?」

     呆気にとられて見ている俺を尻目に、幽霊はバサッと手を広げた。

    「さぁ、伝えておいで、今の言葉を! あぁ、世界はなんて愛に満ち溢れてて美しいんだろうね!!」

     うぜー。
     ……けど……。

    「……わかったよ。じゃあな、幽霊」
    「あぁ、恋の相談は僕にお任せ!」

     俺が歩き出すのを、幽霊は見送ったようだった。

    Soliloquy――独り言――

    「ふぅ……」

     彼が去った後、僕は額の血糊を拭った。

    「馬鹿だなぁ……幽霊なんているわけないじゃないか」

     ついでに、カラーコンタクトレンズを外すと、彼の教室を見た。
     彼と、泣いている人が何か話している。

    「貸し一つだからね、姉さん」

     彼もあんな悪女に捕まって可哀想に。引っ越すのは正解だ。
     まぁ、弟である僕は一生彼女のパシリなんだけど……。

    「しかし、単純と言うかなんというか……」

     彼の言葉は、ほぼ姉のシナリオ通りだった。
     あの女、蜘蛛みてぇ……。
     僕は、そんなことを思ってくすくすと笑った。
     ちょうど、その時、屋上の扉が開いた。

    「ふふふふふふ……ねぇ、うまくやったようね、諒ちゃん」
    「……どうなったの?」
    「『遠距離で良ければ付き合って』って言われたわ。もちろん即OKよ」
    「…………で、彼をどうするの?」
    「ボロボロになるまで私に会いに来てもらうわ。それで、擦り切れそうになった時に優しく会いに行ってあげるの。そうしたらきっと……」

     チェックメイト。
     恍惚として言うのが恐ろしい。

    「とにかく、貸し一つだからね」
    「えぇ、諒ちゃんのことだから購買の焼きそばパン一つでいいんでしょう?」
    「はぁ!?」
    「いいんでしょう?」

     え、笑顔が怖い。
     僕は首が千切れるかと思うほど強く縦に首を振った。
     姉が嬉しそうにくるりと一回転する。スカートがふわりと広がり、そして元の形に戻った。

    「今日はなんていい日なのかしら、ねぇ諒ちゃん」

     僕はため息交じりに笑う。
     結局は僕も、姉が笑顔ならいいのだ。

    恋愛感情を届けるナルシストな幽霊――了
    お題元:水性アポロ

    2015/05/10公開