永遠少年症候群

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ファンタジー、恋愛要素、ハッピーエンド多め。
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    呪い

     ボスホロヴァ先生は、静かに眼鏡を押し上げた。

    「……あなたのお祖父さまは嫌いだけれど、本当に面白い研究。名前で魔力を増加させるなんて言霊がある日本限定の呪いだわ」
    「コトダマ?」
    「魔法が確立される以前の、魔法のようなものです。仙術や占術、妖術と呼ばれるものは各地にありますよ。日本特有の、言霊信仰と魔法を融合させたのでしょうね」
    「そうですか」

     魔法史は、クライヴの専門だ。聞けば教えてくれるだろうけれど、彼はもういない。

    「しかしブレナン先生も出発を急いだものですね。呪いを習得するには時間がかかりますが……しばらくはそのままでよろしいですか? わたくしが名前を奪いましょうか?」
    「いいえ、結構です」

     そうして、私はボスホロヴァ先生に呪いを習うことになった。
     へらへらしていれば、“ココ”のようにしていられる。まるで私が私とすり替わったようだ。面白いとは思わないけれど、特に罪悪感というものもない。
     素直にヴォルターに心がないことを打ち明けた時、ヴォルターからあまり言わない方がいいとくぎを刺された。

    「あなたの彼氏は、今のままでいいと?」
    「……それは聞いていませんでした。……私達は恋人同士なのでしょうか。クライヴは昔、恋をしあっている者同士の関係のことだと言っていたわ。それなら、今は違う」
    「さぁ。気持ちが大事なのは間違いないけれど、言葉も大事です」

     1時間きっかり呪いについて習って研究室を出ると、ヴォルターが廊下に立っていた。

    「もうお目付け役もいないし、デートに行こう」
    「……?」

     デート。恋人同士のお出掛け。つまり、まだ私達は恋人ってことでいいのかしら。

    「そうね。名字まで戻ってるってことはもうクライヴの養子でもないみたいだし」

     日没後に正門の前でヴォルターと待ち合わせることになった。
     何を考えているのか、心があっても理解するのは得意ではなかったけれど、今は本当にわからない。適当に雑誌の服を真似して正門へ出ると、ヴォルターは既に待っていた。

    「行こうか」
    「えぇ」
    「可愛いな」
    「ありがとう」
    「心がないって、どんな感じなの?」
    「何もかもがただの事実よ。善悪の区別や感情の区別は、知識として仕入れておくの。人間関係にそんなに苦労しないわ」
    「そうか……。オレがどんな気持ちかわかる?」
    「わからないわ。無表情だもの」
    「オレはいつも通りだよ。君はいっつも、この無表情の喜怒哀楽をわかってくれてた」
    「そうなの。それが恋の力なのかしらね」

     ヴォルターは私の手を引いて、適当なカフェに入った。ギャラリーを兼ねているらしく、壁に絵が飾ってある。

    「……オレは、君の呪いの完成を待っていていいのかな」
    「いつになるかわからないわ。あなたは、私があなたを好きじゃなくてもいいの?」
    「オレは君にベタ惚れだから」

     そういえば、呪いが解ける前にエミィもそんなことを言っていた。
     ヴォルターが私の顔を両手で包む。

    「キスしていい?」
    「理由が……ないわ。いいよっていう理由も、断る理由も」

     目を伏せたまま言うと、ヴォルターは私にキスをした。

    「何も感じないわ。前は確か、ドキドキしたもの」
    「恥じらうって大事だな……。先生はオレが呪いをかけるっていうのを提案したんだろ?」
    「クライヴはね」
    「オレがかけたい」
    「……でも、もう私も習ってるのよ」
    「先に習得できた方がかけよう。早く君の笑顔がみたい」

     にぃっと笑ってみせると、ヴォルターは口を尖らせた。不服な顔だ。

    「作り笑いじゃない笑顔のことだよ」
    「そう」

     ヴォルターはいつものように私に腕を組んでほしいと言ったけれど、なんだか歩きにくくて仕方なかった。
     非効率も是とする感情だったんだわ……。感情があれば感涙の涙が流れたに違いない。

    「……ねぇ、ヴォルター。私がこのまま心がなかったら、どうする?」
    「今のしゃべるお人形を連れてるような状態は、終わりがあると思えるからこそ我慢できてるんだ。このまま心がないなんて、オレは泣いてしまう」
    「ご、ごめんなさい。泣かないで。大丈夫よ。呪いの勉強はきちんとしているから」
    「そういう時はね、ヴォルター愛してるよ、大丈夫よって言うんだよ」
    「そうなの? じゃあ、今まできっと間違えてたのね。愛してるわ。大丈夫よ」

     ヴォルターは、私が言い終わる前にぎゅーっと抱き締めてくれた。私、これが好きだったはずなのに……。嬉しいという気持ちは、どんな感情だっただろうか。
     エミィにも心がないことをひた隠しにしている今、感情のことを教えてくれるのはヴォルターしかいない。
     むしろ、今まで間違ってたことも聞きやすい。……私のヴォルターに対する接し方は、けっこう間違っていたみたい。
     ヴォルター……つまり、恋人が悲しい顔をしていたらキスをしてあげるとか、抱きしめるとか。そういうの、誰も教えてくれなかったわ。

    「いよいよ……、実際に呪いをかけてみましょう」

     ボスホロヴァ先生が言ったのは、呪いを習い始めて1ヶ月ほど経ったときだった。

    「まずはココロさんから。失敗しても何も起こりません。深呼吸して……はい、どうぞ」

     自分の名前を抜き取って、魔力を押し込むイメージ……。
     パリッと、胸の奥が痛んだ。ぐいぐいと心臓や肺みたいな内臓を掴まれているような痛みのあとに、ぐーっと感情が流れ込む。
     ぼたぼたと涙がこぼれた。

    「ココ!?」

     あぁ、成功だ……。

    「ヴォルター……愛して……って、あなた、嘘を教えたわね!? もう……! 信じられない!」
    「あ、ごめん。つい、面白くて」

     感情がないって恐ろしいわ。
     疑うこともしないし、周りに変な目で見られてたとしてもきっと気付かないもの。

    「先生、ありがとうございました!」
    「楽しかったですね」

     ボスホロヴァ先生が初めて笑うのを見て、なんだかほっとしながら研究室を出た。
     じわじわと達成感が広がっていく。
     1ヶ月、打っても響かないような状態の……人形のような私を支えてくれたヴォルターには、感謝してもしきれない。

    「ヴォルター、私、あなたのこと好きよ」
    「……嬉しいよ」

     ヴォルターが、私をぎゅうっと抱きしめた。ドキドキするし、嬉しい。好き。
     ようやく、感情が戻った実感がわいた。とても嬉しい。嬉しいっていう感情がわかるのが、嬉しい。

    「クライヴは元気かしら」

     そういえばクライヴ、危険なところへ行ってるのよね。
     あの人なら、何か知っているかしら。ロダン先生を訪ねると、彼はまず私の感情が戻ったことをとても喜んでくれた。

    「ロダン先生、クライヴはどこに行ったんですか?」
    「女神が降り立った地って言われてるところよ」
    「……吸血鬼ばっかりなんじゃ……」
    「それどころか、悪魔もいるらしいわ」
    「なんでそんなところに」
    「さぁ。もう彼は戻らないつもりでしょうね。ずっと探して、研究して……」

     探す?

    「クライヴも、ドロテアを?」
    「そうね……。ドロテアと……女神かしら。魔法史学者のロマンだもの。それから、もうあなたは彼の養子じゃないんだから、クライヴなんて呼んじゃだめよ、間藤ココちゃん」
    「あ……! す、すみません……」

     もう、クライヴはただのお父さんの友達……他人なんだ……。

    「私……魔力を辿る方法の研究を……します」
    「あら」
    「……ブレナン先生は、間違いなく私のパパだったもの。もう私に彼の魔力は混ざってないし、魔力を感じることができるはず」
    「応援するわ。彼、本当はあなたが入学する前に旅立つ予定だったの。この6年間、とっても楽しそうだったわ」
    「はい。でもあんな別れ方、絶対に許せないわ」
    「7年生はほとんど授業がないから、もう研究に着手してもいいかもね。だからこそクライヴも旅立ったんだろうし」
    「はい」

     私はもうすぐ、7年生になる。

    「ココ、デートしましょ」
    「あ……うん」

     7年生は本当にほとんど授業がない。私はエミィに誘われて、本当に久しぶりに外に出た。

    「卒業研究、進んでるみたいね」
    「えぇ……」

     1年じゃ到底無理だから、進んだところまででいいって言われてる。それでも、手を抜くわけにはいかないし、みんなと同じように図書室か寮で調べものをしていた。

    「ヴォルターとはうまくやってる?」
    「……彼も、卒業研究があるもの。……たまに、すっごく会いたいって思う時があるんだけどね」
    「ふふっ、それを素直に伝えた方がいいわ」

     ヴォルターは、久しぶりに会う時いつもぎゅーっと充電するみたいに私を抱きしめた。何も言わないけれど、ヴォルターにもすっごく会いたいって思う時があるのかな。
     そうだったら嬉しいなぁ。

    「ココ、学校の外に家を借りるんでしょう? そっちはどうなの?」
    「そっちは……、うん。進んでるわ」

     チェルソのお母様のつてで、路地の奥の奥にある一軒家を借りることになった。地元の子達が魔女の家と恐れる家らしい。ただの立てつけの悪い空き家らしいので改装が大変そうだけど、名実ともに魔女の家となるのは少しわくわくする。
     実際に見てみると、家はけっこうボロボロだった。

    「うわー、こんなだったっけ」
    「やりがいはあるわね」

     壁紙の中身は鉄筋とコンクリートね。それから、床の木材は……。何かしら。まぁ、適当に黄色がかった木材でいいわね。

    「ココ、俺どうすればいいの?」
    「鉄筋とコンクリートと、この床の木材を買いに行きましょう」
    「荷物係か……昼間だし、確かにヴォルターには無理か」

     お店の資材売り場で適当なものを購入しては運ぶのを繰り返した。どのくらい要るかわからなかったから、とっても大量になってしまった。

    「これをどうするの?」
    「ふふふ……見てて」

     空中に大きなハートを描くと、買ってきた資材がズズズ……っと家に飲み込まれていった。みるみるうちにボロボロの壁は綺麗になり、外からの見た目よりずっと広い部屋ができあがった。

    「次元変異と物質変異を組み合わせたの。物質変異って、思ってるより楽よ。材料と魔力を放り込むだけだもの」
    「……いやいや、分量を考えなきゃいけないじゃないか」
    「そこで次元変異よ! 次元を曲げることで、資材を全部使って外の幅は変えずに中を広く使えるの」
    「わかるような、わからないような」
    「チェルソ……卒業研究大丈夫?」
    「大丈夫だよ。ココが言ってることはちょっと高度すぎてわからないけど。もうそろそろ日が暮れる。ヴォルターも来るんじゃない?」
    「そうね」

     新築のようになった部屋でチェルソと一服しながら日が暮れてヴォルターがやってくるのを待った。

    「アンブラと……遠距離になりそうなんでしょ?」
    「パリはちょっと遠いよねー。俺どうしようかな。ココだったらどうする?」
    「さぁ……。私達、離れるっていう選択肢がそもそもないわ」
    「ヴォルター、ヒモになるんじゃないの? ココ大丈夫?」
    「…………爵位があるから働く必要ないって……。侯爵って、何をするのかしら」
    「えっ、吸血鬼の貴族だとは聞いてたけど、侯爵!? けっこうすごいじゃん」
    「すごいの? 貴族制度なんて全然わからなくて……」
    「吸血鬼は、確か女神を大公としてて、始祖の末裔が公爵で、その分家が侯爵だよ。そうか……直系の分家だったんだな……」
    「……マティアス……公爵って言ってたわ……、始祖の末裔ってこと!?」
    「そ。今の吸血鬼の中じゃずば抜けて重要な人物だね。ココ、知らなかったんだね。……まぁ、じゃなきゃ話しかけないか。けっこう失礼なことも平気で言うし、俺やマーリーは冷や冷やして見てたよ」
    「言ってよ……」

     爵位って、ややこしいのよね……。どれが一番偉いのかもわかってなかったわ。
     それにしても、チェルソもけっこうしっかりしてるのよね。チェルソにはよく魔法使いや吸血鬼の政治経済を教えてもらってる気がするわ。

    「まぁ、ヴォルターは遊んでても十分やっていける金持ちってことだね」
    「そんな認識でいいの? ほら……爵位によって、領地があったり……っていうのは?」
    「それは昔の話。吸血鬼は爵位が高ければ高いほど強い、いわば恐怖政治を敷いてる。下の者が黙って支えてるはずさ。そもそもその下の者も、食材はそこらへんを歩いてるんだから、食費なんか稼がなくていいからね」

     そうか……。全然知らなかった。吸血鬼じゃなくてヴォルター個人が大事だと思ってたけど、吸血鬼のことも知っていかなくちゃいけないわね。

    「二人とも、お疲れ様」
    「ヴォルター!」
    「差し入れを買ってきたよ」

     ヴォルターがケーキの箱をちょっと持ち上げて見せる。

    「ありがとう」

     ケーキを食べながら、ヴォルターがのんびりと部屋を見渡す。

    「ここがオフィスになるのかい?」
    「そうよ。奥にソファーとテーブルを置いて、あとは……壁際に本棚を置いて……」

     あとは、日光をシャットアウトしなくちゃね。
     カーテンでいいかしら。窓をなくしてしまうのはちょっと辛いわ。
     ヴォルターは生クリームを口の端に付けたまま顔をあげた。……まぁいいか。ヒモ上等じゃない。

    「……チェルソ、やっぱり、アンブラと一緒に行くべきだと思うわ」

     離れるなんて、考えられないもの。