永遠少年症候群

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あなたへの想い

 クライヴの言う通り、ヴォルターと恋人同士になっても特に変わりはない。
 ふとした瞬間に、ヴォルターが頬や額にキスをしてくることはあるけれど。私からは、したことない。したくないわけじゃなくて、どうしたらいいのかさっぱりわからない。
 これは私にとって、重要な問題だった。

「私の好きは、ちゃんとヴォルターに伝わっているのかしら」

 真面目な話をしているのに、ヴォルターはにへらーっと変な笑い方をした。

「もう、変な顔しないで。真面目な話をしてるのよ」
「可愛いよ、ココ」
「話が噛みあってないわ……」

 はぁ……っと溜め息をつくと、エミィがくすくす笑った。

「お熱いわね」
「……ごめんなさい、うるさかったわね。……って、違うわ。私はエミィに話しかけたのよ、ヴォルター。なぜいるの?」
「ブレナン先生が呼んでたから、呼びに来たんだよ」
「あら、そうなの。ごめんなさい、エミィ。すぐ戻るわ」
「えぇ。……そうねぇ、30分あればレポートが終わりそうだから、30分待って戻ってこなかったら、部屋に戻ってる」

 図書室を出ると、当たり前のようにヴォルターがついてきた。さっきにもましてニヤニヤしてる。

「オレのこと好きなんだ?」
「!」

 ず、ずるい聞き方。確かにずるいわ。悪魔みたいだわ。しかもわかってて聞くなんて。

「す、好き……よ」
「照れてる」
「照れてない!」
「可愛いなぁ」

 この、ストレートな愛情表現は、きっと日本人にはできないことだと思う。
 私が真っ赤になって歩を早めると、ヴォルターもゆったりついてきた。というか、ヴォルターの方が足が長いから私の早歩きは彼の普通のスピードなのだ。いつも、歩くスピードを合わせてくれていることに気付いたのは本当に最近のこと。

「……ココ。卒業したら、オレもこっちに住むよ」
「本当?」
「本当さ。君が嫌というまで、一緒にいたい」
「嬉しいわ……。でも私、本当にあなたに釣り合うのか……」

 自信がないの。
 年齢は追いつくことはないし、精神年齢もかなり差があると思う。身長だって、まだまだ親子みたいだし。それに、ホンファみたいに美人じゃない。

「ココ、君はとっても素敵だから自信を持ってほしい」
「……そう……ね」

 少なくとも私は、ヴォルターが選んでくれたんだもの。自信を持っていいのね。
 釣り合うかどうかとは……別の問題だけど。

「パパは何の用なのかしら」
「さぁ? オレは呼んできてほしいと頼まれただけだから。オレも部屋に戻るよ」

 クライヴの研究室につくと、彼は私にミルクティーを出した。

「君、卒業後はどうするつもりだい?」
「……え、っと。研究職で、学校に残るわ。校長先生とも話したんだけど……聞いてない?」
「君の意思を校長先生から聞くなんておかしいだろう?」
「そうね……。そうかも。私、研究職で学校に残る。……ドロテアを探すお手伝いをするの」
「……わかった。名前は、どうする?」

 感情の意味の、名前。それが戻ってきたら……。ヴォルターやエミィのことを考える。今までの気持ちが全部嘘になっちゃうのかしら。
 感情がないなんて、今更無理なのよ。

「……いらない。元の名前は、いらないわ……」
「僕が死んだら……。一応僕も魔法使いだから、寿命は長い。けれど……」

 寿命が尽きたら、呪いが解ける。

「でもそれは何十年後の話じゃないの……。そんな……パパが死んだあとのことなんて、考えたくない……パパは何か考えがあるから呼んだんでしょ?」
「僕はヴォルターに呪いをかけなおしてもらうのが一番いいんじゃないかと思ってる。彼なら、僕よりも……君よりも、寿命は長いし、何より死なない。君達が一生愛し合う覚悟があるなら、いいんじゃないか」
「だめよ。そんな迷惑……かけれないわ。私が枷になってしまう。魔力だって奪うことになる。そんなの嫌なの……」

 クライヴがテーブルをぐるっと回って私の隣にきた。

「僕が言うことじゃないとは思う。だけど、君はヴォルターに遠慮しすぎじゃないか?」
「……図々しいお願いをするのとは別の話だわ」
「このこと以外にも、だよ。伝えるのも拒否するのも、良くも悪くも遠慮してるように見える。辛くないかい?」
「……辛い、のかしら」

 ヴォルターのことはとてもとても好きで、なのに、私ばっかり甘えていて。
 いつも申し訳ない気がしている。

「……ごめんなさい、クライヴ。考えておくわ」
「わかった。でもココ、これだけは覚えておいてほしい。僕はいつ死ぬかわからない」

 なぜそんなことを言うの? ……そんな疑問を無理矢理飲み込んで、図書室に戻る。……が、エミィは既にいなかった。30分、もう経ってたわ……。あぁ、遠回りになっちゃった。

「……」

 ふと、目の前の自習席に置いてある本が目に付いた。きっと、誰かがきちんと片付けなかったのね。
 手に取ると、妙にずっしりと重かった。表紙には重厚な文字で『呪い大全』と書いてある。
 呪いには、憎しみによって悪影響を与えるのろいと厚意によるまじないの2種類があります……?
 のろいとおまじない。おまじないって、自分にもするわ。ってことは、名前を奪う呪いを自分にかけることってできないかしら。
 その場合、名前の記憶はどうなるのかしら。私は今本名を思い出せないけれど、術者であるクライヴは覚えているわ。……これは、本名をフルネームで言うと呪いが解けるため……。

「自分にはかけれそうにないわね……」

 やっぱり、ヴォルターに頼むしかないのかしら。
 ……負担をかけるのは、嫌だなぁ。
 本を棚に片付けて部屋に戻る。エミィにクライヴとの話をすると、彼女は首を傾げた。

「魔法使いだって、そんなに簡単に死なないわ。……何かあるんじゃない?」
「何かって?」
「病気にかかったとか、何か命がけのことをしなきゃいけないとか」
「そうかも……。心配だわ……」
「だって、ココが卒業するまでの保護者はブレナン先生だもの。先生がその責任を放棄するとは思えないわ」

 卒業してからの話なのだろうか。
 頭の中が、ぐるぐるとまわる。

「ヴォルターに相談した方が、いいのかしら。彼、とっても優しいから二つ返事で引き受けてくれると思うの……」
「そうね。ヴォルターはココにベタ惚れだし……。あ、そうそう。ヴォルターにはココの気持ち、ちゃんと伝わってると思うわよ」
「そう?」
「あなた、自分では隠してるつもりなのかもしれないけど、隠せてないもの」
「恥ずかしい……」
「いいんじゃない? 素直なのがココのいいところよ」

 ふと、ヴォルターに相談する前に呪い学の先生に相談してみよう、と思った。
 翌日の放課後に訪ねた呪い学の先生は、神経質そうに眼鏡を押し上げた。事情を話せば話すほど、この先生に相談してよかったのかなぁと思ってしまう。先生は、まったく顔色も変えずに続きを話すように促してくる。

「……ブレナン先生の親バカっぷりは、正直引くほどです」
「……そうですか」
「ですから、あなたのルームメイトが言うように何か理由があるのでしょう。わたくしにはわかりません。……それから、呪いを自分にかけることは理論上可能です。名前を奪う呪いは名前を忘れる力の方が強くはたらくので、二度と解けないと思いますよ」
「……二度と解けなくて……いいんです。呪いのかけ方を……教えてください」
「いいでしょう。わたくしもそちらをおすすめします。あなたの名前には魔力がありますから、モノとして傍においておいた方が……どうしました?」
「あの、ちょっと、理解が、追いつかないのです……が……」

 先生は、一つの指輪を取り出した。キラキラ光る石が一つついている。

「呪いで奪う場合、この指輪を奪われて、その代わりに魔力を与えます」
「はい……」
「しかしこれが魔石の指輪だとしたらどうですか? 魔石には魔力がありますね。魔石の分の魔力があなたから減り、呪いによる代償としての魔力があなたに増えます」
「つまり……私の名前には魔力があるから、プラスマイナス、ゼロなんですね」
「そういうことです。本来自分に呪いをかけることは魔力が減ってしまい大変危険ですが、名前に魔力のあるあなたなら、問題はないでしょう」

 そうなんだ……。魔力が多いのはクライヴの魔力が増えたからだと思ってたけど……。そうだと教えてくれたエミィは出会ったときには私の名前に魔力があるって知らなかったから、当たり前か……。クラス分けは、単純なミスだったってことかしら。

「あの、私、入学前のクラス分け、ベータクラスだったんです。でも、入学式の時に、ウォーリック先生は私の魔力がアルファクラス並に多いって……。だから、この呪いで魔力が増えたんだと思っていました」
「あぁ……。……今はアルファクラスにいるから、言えることではありますが……。あなたと《魅惑》のクラスを離して寮の部屋を同じにしたかったのでしょうね。悪魔を怖がらないのは日本人くらいのものですから」

 そ、そんな理由で。アルファとベータで授業内容の難易度が大幅に変わるのは5年生からだったから、いいんだけど……。

「……あ、えっと、指導よろしくお願いします」
「はい。また明日来てください。まずはブレナン先生に話をするべきです」
「はい」

 呪い学の研究室を出てクライヴのところに真っ直ぐ向かう。ドアに手をかけたところで、中の話し声が聞こえてきた。

「いずれわかることとはいえ、ココちゃんには伝えておくべきなんじゃないの?」
「いや……ココに心配をかけるわけにはいかない。これは僕のわがままだ」
「……私だったら嫌だなぁ」

 思わず、ドアを開けていた。クライヴとロダン先生が何もないような顔で私を迎えてくれた。

「やぁ、ココ」
「今の話、何? 私に内緒のことがあるの?」
「……魔法史跡の、旅に出ようと思ってるんだよ」

 クライヴは肩を竦めてミルクティーを出してくれた。

「呪いのこと、どうするのか決めたのかい?」
「えぇ……。自分で、自分に呪いをかけるわ」
「そんなことできるわけ……!」
「呪い学の先生に相談して、大丈夫って言われたわ」
「ボスホロヴァ先生が?」

 ……そんな名前だったかしら?
 うーん……呪い学の先生、名乗ったことないから、わからないわ。

「名前がわからないならボスホロヴァ先生だと思うわ。彼女、名乗らないから」
「とにかく、呪い学の先生にあなたなら大丈夫って言われたの」
「そうか……。それなら、僕は心置きなく旅に出れるよ」
「……そう」

 ロダン先生が言った、『私だったら嫌』って、何なんだろう。
 ただの旅でそんな風に言う?

「……私がもし、呪いをかけていたとして……。命の保証がない危険な旅なら、呪いを解くわ。死んだってバレるもの」
「どうしてこう賢い子なんだろうなぁ……」
「だから、呪いを解くのね? ふざけないで。絶対嫌よ!」
「そういうと思ったよ、間藤心」
「!」

 その名前を聞いた途端、息ができなくなった。ぎりぎりと締め付けられるように胸が痛い。これはきっと、心を引き裂かれる痛み。
 名前が、戻ってくる。

「もう決めたんだよ」
「……それが事実なら仕方ないわね。気を付けてね。クライヴ」
「ありがとう、ココロ」

 寮に帰る途中、ヴォルターに会った。

「ココロ」

 呪われた名前。みんなの記憶を書き換える呪いの本質だわ。

「……ヴォルター、名前が戻ったの。意味、わかる?」
「名前が……? あれ? でも、君はずっと間藤心で……あれ?」
「今、私、あなたを好きだった事実しかないの」

 想いは、ないの。