永遠少年症候群

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食堂の中心で愛を叫ぶ

 6年生になっても、アンブラは声が出るようになっても文字を出している。6年もの習慣は、そう簡単に変えられるものじゃないらしい。
 それでも大きく変わったことが一つ。アンブラの事件がきっかけで、アンブラとチェルソが付き合い出したのだから驚きだ。

「このグループ内でカップルができるなんて」
「びっくりだねぇ」
「…………」

 ヴォルターと話していると、マーリーが顔を上げた。マーリーは、隣のスツールで本を読んでいた。
 私とヴォルターは、最近二人で背中合わせに座ることが多い。

「あんた達、本気で言ってる?」
「?」
「……」
「まぁいいわ。ココ、何読んでるの?」
「『ノア夫人の宝石放浪記』っていう……エッセイよ」
「宝石がほしいのかい?」
「いいえ。魔石ってどんなものかなぁと思って……調べているの」

 魔石については、大体調べがついている。魔力のこもった石。大体が、微力ながら魔力を吸う(奪うわけじゃない)宝石だ。ただの石ころでも魔石の可能性はあるけれど、身に着けないと魔力を吸って魔力が溜まることはない。
 ただ、プレミアム・ジュエルという魔石はただの魔石じゃない。常に世界に一つあって、願いを叶えると言われている。そしてもっと厄介なのが、願いを叶えると消えてしまって、新たに形を変えて現れること。
 このノア夫人という人のエッセイは魔力もない夫人が宝石を集めるだけのものだけど、時折魔石っぽい記述がある。亡くなっているのが残念だが、まぁ100年以上も前の人なのだから、当たり前か。
 ノア夫人の手記には何度かルカという人に呼び掛ける言葉がある。旦那さんの名前はリュシアンという名前で、彼をルカと呼んでいるのかもしれないけれど、なぜルカと宝石に執着しているのか……。そこがよくわからなかった。

「魔石ねぇ……。アンブラを見てると、普通の人間でも魔石を持っていれば魔法が使えるってことよね?」
「あれは特別よ。校長先生の異常な魔力を吸い取った魔石だもの。他のとはわけが違うわ」
「そっか……」

 プレミアム・ジュエルの発生条件って、どんな感じなのかしら。
 考え込んでいると、ヴォルターの手が頭をぽんぽんと撫でた。そういえば、ヴォルターの好きな人……誰なのかしら。わかりやすいって、エミィは言ってたわ。これも重要な課題だった。
 校長先生のアドバイス通り、私は観察眼を養わないといけないらしい。

「ココ、飲み物買ってくるけどレモンティーでいい?」
「え、えぇ……」
「マーリー、飲み物いるか?」
「あら、助かる」
「ミルクティーでいいか?」
「うん」

 ヴォルターが席を立って、マーリーと目が合った。

「ねぇ、マーリー。ヴォルターの好きな人って、私の知ってる人?」
「はぁ?」
「あれ? 知らない人?」
「あんた、わかんないの? エミィはわかってるみたいって……」
「わ、わかんないから……わかってる……フリ、した……」
「……オーマイゴッドネス……」
「本当にわからないの……。私は脈あるの?」
「……ヴォルターが誰を好きであっても、ココがヴォルターを好きなことには何の関係もないと思う。今の関係を壊したくないと思うか、ヴォルターと違う関係になりたいかはココ次第だけど……、ヴォルターの好きな相手がわからなくても告白するっていうのも、アリなんじゃないの?」
「……関係」

 今の、ヴォルターとの関係。兄妹のようで、甘やかされていて。

「うー……。私、本当にヴォルターのこと好きなのかしら……」
「そこが揺らぐようなら……、私達がココを放っておきすぎたんだね」
「しばらく考えておくわ」

 ヴォルターが飲み物を持ってきてくれて、私は気付けば同じ行を何度も読んでいた。内容が全然入ってこなかった。
 寝る前にはいつも、今日あったことを整理する。
 私、ヴォルターが好きなのかわからなくなってしまった。けれど、前にホンファがヴォルターと腕を組んでいた時、確かに嫌だった。

「…………」

 感情が、わからなくなっていってる。
 目を閉じてヴォルターのことを考えても、いつも何かしてもらってることしか思い浮かばない。
 私はいつの間にか寝ていた。寝た気は全然、しなかった。
 朝、食堂でヴォルターにおはようと言った時、彼は珍しく驚いた顔をした。

「どうしたんだい? ひどい隈だ」

 ヴォルターが片手を頬に添えて、私の目の下を指の腹でなぞる。それはとてもぞくぞくする感覚だった。
 あ、近い。人にはパーソナルスペースというものがあるという。今は退学してしまったセフェリノは、それがとても広くて。
 ヴォルターとの距離は、30センチも離れてない。私は、とっても好きだからいいの。でもヴォルターは? ヴォルターも、そうなの?
 その考えに思い至った時、ざわざわと体中を電気が駆け巡ったみたいな感じがした。耳元がくすぐったい。

「……あ……あの」
「あ、ごめん。馴れ馴れしいよな」
「……ヴォルター、私のこと、好き?」
「その聞き方はずるい」
「悪魔のようだわ」
「え……あぅ……、なんで? それは悪いこと?」

 自分で尋ねておきながら、しどろもどろになってしまう。

「全然悪くないよ」

 ヴォルターはくすっと笑って、もう片方の手も私の頬を包んだ。そして、私を優しく引き寄せる。
 あれ、顔、近い。あれ?
 目をぎゅっとつぶると、やわらかいものが唇にふれた。これって、キス……だよね。

「オレがどれくらい好きかわかった?」

 食堂。食堂で。人がいっぱいいる食堂で。顔が熱くて、目が回るようだわ
 顔をのぞきこむヴォルターにぶんぶん縦に首を振って見せると、やっと解放された。
 もう、ふらふら……。

「やだ、ヴォルター。この子寝てないのよ! 刺激が大きすぎるわ!!」

 あ、もうダメ……!
 しゅぅっとボリュームを下げたみたいにみんなの声が遠くなっていった。

「また君か」
「はぁ……すみません」

 話し声が聞こえて起きた。
 保健室のようだ。

「……パパなの?」
「ココ! 起きたかい。心配したよ」
「……寝てただけよ」

 クライヴの隣にはヴォルターが立っていた。か、顔が、見れない。

「ココ、熱があるんじゃないか?」
「ち、違うの。パパ……あのね、私、ヴォルターとキスしたの」
「は?」

 クライヴがヴォルターを見ると、ヴォルターは露骨に顔をそむけた。

「あ、あれ? 言っちゃダメだった?」
「いや、いいよ。きちんと報告するなんて偉い子だ」
「えへへー」
「君はヴォルターが好きなのかい?」
「大好きよ!」
「……そう。じゃあ、付き合ってみたらいい」
「先生……いいんですか」
「それはココが決めることだ。……し、コソコソされるよりはよほどいい。僕はね。この子の本当の父親はどうかしらないけど」
「お父さんは私に興味ないもの」

 これで、ヴォルターと付き合うことになった……ってことでいいのかしら。
 あ、そういえば好きって言われたんだった。

「付き合うって、何するの?」
「君たちの間にあった友情は、恋っていう名前に変わる」
「私、ずっと恋をしてたわ」
「その恋が、お互いを想う気持ちだったとき、友達じゃなくて恋人になるんだ。だから、付き合うっていっても何も特別なことをするわけじゃないよ。なぁ、ヴォルター?」
「……そっすね」

 そうなのね。キスは、恋人同士がするものだと思っていたのだけれど。

「あ」

 こういうこととか……キスのこととか、クライヴに……パパに言うべき事じゃないわ!
 私ったら、浮かれすぎ……!!

「……パパ、もう帰って」
「うん。ほら、行くよ」
「あ、はい」

 二人が出て行って、前のめりに倒れ込む。
 浮かれすぎた……。恥ずかし……。
 でも、ヴォルターと私……、私達、恋人同士なんだわ。デートの禁止は、まだ続いてるのかしら。
 ぼーっと考えていると、うとうとしてきた。起きたのは、人の気配がしたからだ。

「あ、起こしちゃったかい?」
「ヴォルター……パパと帰ったんじゃ……」
「もう夕方だから、送ろうと思って」
「えっ、そうなの!?」

 なんて早い。

「あ、あの……ごめんなさい。パパに……キスしたとか、言うべきことじゃないわよね」
「……あぁ、それは……まぁ、言えないようなことはしないから別にいいんじゃないか?」

 ヴォルターは少し照れくさそうに笑った。

「さっきの話だけど、オレは恋人って、独占できる権利だと思うんだ」
「独占?」
「君、マティアスにもエミィにも抱きつくけど、これからは、恋人はオレなんだって引っぺがしていいかな」
「……私、何も考えてなくて……」
「ずっと、君を一人占めしたかったよ」

 そういって、ヴォルターがぎゅっと私を抱きしめた。口元が思わず緩むのをこらえて、ぎゅうっとヴォルターを抱きしめ返す。
 なんて幸せなのかしら。

「……ちょっと……いちゃつかないでくれる?」
「!!」

 びっくりして顔をあげると、マーリーとアンブラがニヤニヤしながら立っていた。

「二人とも……」
「帰るわよ」
「えっ、でも、オレが」
「大体、ココはマティアスには抱きつかないわよ」
「そういわれてみれば、そうね」
「ほら、ココ。帰るよー」

 二人に手を引かれて、寮まで戻る。時折振り返ると、ヴォルターはにこにこしながらついてきた。
 大きな犬みたい……。

「今日はガールズトークしなきゃねー」
「そうよ。3年は見守ったんだから、根掘り葉掘り聞かせてもらわなきゃ」
「3年? 私、ヴォルターが好きって思ったのは去年だけど」
「違う違う、あんたじゃなくてヴォルターよ」
「えっ!? 全然わかんなかった!」
「鈍感にも程があるわよ! 根掘り葉掘り……ヴォルターのアピールに対してどう思ってたか聞かせてもらうわよ……」
「ちょっ、……やめて……それ、オレだけが恥ずかしいじゃないか」

 ヴォルターは外を歩けないので職員室前でお別れして、真っ直ぐ私の部屋に戻った。すると、エミィがお菓子や飲み物をたくさん準備してくれていた。

「あら、おかえりなさい」
「た、ただいま!」
「ふふふ……ココをちゃんと捕まえてきました!」
「ご苦労」

 みんなの笑顔が怖いわ。マーリーやアンブラに彼氏ができたときはこんなのなかったじゃない……!

「まずは、ヴォルターのどこが好きなの?」
「……こ、これ、答えなきゃいけないの? ……えっと、頭撫でたりぎゅーってしてくれるとこ」
「うざいわ……思った以上にうざい……」
「聞いといてそんなこと言わないでよ。ねぇ、マーリーが3年見守ったって言ってたじゃない? 思い返してみても、そんな気配なかったと思うんだけど」
「まず、ヴォルターが言ってた好みのタイプのどんくさい子って、ココのことだと思うわよ」
「……。どんくさくないと思うわ」
「ココが眠いときとか、機嫌悪いときとか、最初に気付くのはいつもヴォルターじゃない。ココのことばっかり見てるってことよ」
「……そうなの……」

 私、ずっとヴォルターの特別だったのね。

「えへへ……。アンブラ達はどうなの?」
『特に何もないわよ』

 食べながら会話できるの、いいな……。

『チェルソって意外と奥手なの。まだキスもしてないわ』
「あら」
「キス、したいの?」
「別に……そういうわけじゃないけど。ちょっと、あぁいうのも羨ましいかなって」
「あー! 私も彼氏ほしいわ……」

 マーリーの理想の彼氏は、とっても難しい。背が高くて、お金持ちで、かっこよくて……とか、いくつも条件がある。
 私みたいに、いつの間にか好きになっていた、というのは嫌なのかな。
 応援したいのだけど。
 やっぱり、私には他人の気持ちがわからない。これはあまりいいことではないと私は思う。