永遠少年症候群

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アンブラの呪い

「ちょっとアレ、どういうこと?」

 マーリーがあからさまに嫌そうな顔をする。
 視線の先には、リュウ・ホンファがヴォルターと腕を組んで歩いていた。ホンファは楽しそうにおしゃべりしてて、ヴォルターの表情からはなにも読み取れない。

「……ホンファは背も高いし……美人だし、お似合いだわ……」

 先日、好きと言葉に出てしまった時。私はその言葉を自ら否定してしまった。頭を撫でてくれるのが、好きなのだと。つまり、今のところヴォルターにとって私は「頭を撫でてくれる」のが好きであって、それは誰でもいいということになってしまってる。
 ホンファと付き合っていたとしても、私に入る隙間はないのだ。
 ぼんやりとヴォルターとホンファの二人を見ていると、本当にお似合いに思えた。二人とも、モデルさんみたいで。

「……私、教室に戻ってレポートを提出しなきゃ」

 あれ……?
 何度探しても、レポートがない。

「……レポートがなくなっちゃったわ……」

 もう何度目かもわからない。何度書いても、消えてしまう。先生にも説明したけれど、それはただの言い訳でしかない。きっと授業の評価は下がってしまう一方だ。

「私、おかしくなっちゃったのかしら」

 確かにレポートを書いていたのに。
 そんなことが何度も続いた……そんな時に、校長室に呼び出された。

「校長先生、ココ・ブレナンです」
「どうぞ」

 ついに校長先生にまで怒られちゃうんだわ、と思っていた。でも、先生はいつも通りだった。おどおどしてるところや、水晶玉を磨いているところ……。とにかくいつも通りだった。

「少し前に話したことを覚えていますか?」
「えっと……?」
「エドワール・サジュマンの魔力回復タイプについて」
「あ、あぁ……、はい、覚えています」
「結論だけ言いましょう。彼は……魔力を奪って回復するタイプです」
「……やっぱり」
「過去の二人は……彼と関わりあう中で魔力を少しずつ奪われていったのでしょう」

 校長先生は、静かに言った。いつもの水晶玉には、何やら羽のついた盾に剣が鎖で縛りつけられている柄の国旗がはためいていた。……あんなの、見たことないわ……。

「そういえば、進路は決めましたか?」
「いいえ……。でも、以前先生が言っていた研究の道に進むのも視野に入れています」
「その時はこの学校の研究室を使うといいでしょう。歓迎します。いくつかレポートも読ませてもらいました。とても考察も鋭く面白いですよ。最近の、対価計算のレポートは特に」
「え……!?」
「どうかしましたか?」

 ……なくしたレポートだ。それとも、今日再提出した分をもう読んだということだろうか。

「……いいえ、何でも」
「何度も書いている方が、精度が増していていいと思いますが……。そこまで躍起になって書き直す必要はありませんよ」
「何故ですか?」

 そもそも何故、私が何度も書き直していることを知っているのだろう。

「在学している生徒はたくさんいますが、日本語で書かれたレポートはあなたのレポートです。レポート用紙には翻訳の魔法がかかっているので、あなたがイタリア語で書いていると思っている人もいるのでしょうね」
「えっと……どういうことでしょうか……?」
「名前を書き換えたところで、あなたのレポートだとすぐにわかってしまうということですよ」

 ……もしかして、レポートは……盗まれてたの?
 わけがわからなくて、頭がくらくらする。

「盗まれているとは……考えもしませんでした……」
「人を疑うことも、時には必要ですよ」

 校長先生が、ハーブティーを淹れてくれた。カモミールティーだ。

「どうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
「……5年、経ちましたね。感情にはもう慣れましたか?」
「はい。……あの、校長先生は、なぜ私が……その、呪われていること……」
「あなたのお祖父さんには、一度教鞭を執ってもらったことがあります。研究の成果だとあなたを見せられた時にはゾッとしたものですよ」

 そっか。お祖父ちゃんの研究内容も、“成果”も、知ってるから……。

「シンイチロウには悪いけれど、あなたが楽しそうでとても嬉しいですよ」

 校長先生は、特に嬉しそうな顔はしていない。

「……感情は、解るようになりました。でも、人のは……わからないんです。校長先生、本当に嬉しいと思ってるんですか?」
「あら……。マイノリティーな感情表現もあるのですよ。私は……そうですね、よく声の調子が変わると言われました」
「声……」
「あなたの担任のウォーリック先生なんかは、クールを装っていますから……手が動きますよ」
「うーん……」

 マティアスが一度死んだ時、号泣してたけど……。そっか、いつもはクールを装っているのか……。

「とにかく、よく見てみるといいでしょう。顔に感情が出ない人は、他のところに現れているものです」
「……はい……」

 表情筋の動きは、大体わかるけど……。そっか、それ以外の部分も見なきゃね。

「他に、何かありますか?」
「……先生は恋をしたことはありますか?」
「ありますよ。物陰から見ているだけの、淡い恋でした。あなたは相手のことを、きちんと見ていますか?」
「……たぶん……」

 そう言われると、自信がないわ……。
 校長先生にお礼を言って、教室に戻った。
 ホンファはランチのときもヴォルターにべったりで、大顰蹙を買っているのにも気にしない堂々とした態度には感動すら覚えた。無表情のヴォルターの指が、リズムをとるように机を叩いている。

「ほんと……何アレ」
『デレデレしちゃって……。ココ、大丈夫?』
「……彼がデレデレしてるように見えるの? 見て。机をトントンするの……イライラしてるときの癖よ」
「私達にはいつも通りにしか見えないけど……」
「ココの言うとおりイライラしてるんだとしたら、なぜヴォルターは拒否しないのかしら?」
『何か理由があるのかな』
「自分と付き合わなかったらマティアスに何かするとか言ってるんじゃないの?」
「有り得るわ」

 それって脅しよ。
 ホンファはあれで楽しいのかしら?

「ねぇ、ヴォルター。彼女と二人じゃなくてみんなで一緒に食べたらいいじゃない」
「……彼女じゃないんだけど……、君達に迷惑だろう?」
「報告もあるの。みんな、あのね、最近、私のレポートがよくなくなってたじゃない? あれってね、先生達が見れば私のレポートってわかるのが違う名前で提出されてるんですって。だから、先生達は私のレポートをきちんと評価してくれているわ」
『どうしてわかるの?』
「私、日本語で書いてるから。レポート用紙には翻訳の魔法がかかっているから日本語で書いても大丈夫なのよ」
「その泥棒は退学とかにならないのかしら」
『直接の危害はないし、留年じゃない?』
「留年だったら誰かわかるわね」
「どうしたの? ホンファ。顔色が悪いわ」
「う、うるさい!」

 ホンファがガタッと立ち上がって、どこかへ走って行ってしまった。

「なんだ……オレが証拠を掴んでやろうと思ってたのに」
「やっぱホンファが犯人なわけ?」
「名前書き換えてるとこ見たから間違いないだろうな」

 ヴォルターがぐーっと伸びをすると、骨がぱきぱきと鳴る音が聞こえた。

「じゃあ、ヴォルターは証拠を見つけるために一緒にいただけなのね?」
「他に理由があると思うかい? 疲れたよ。まさかあそこまでベタベタくっついてくるとはね」
「ヴォルター、すごい嫌そうな顔だったわ。そんなに嫌なら放っておいてよかったのよ」
「え、オレ、嫌そうにしてた?」
「ココから見れば、ね。ただの無表情にしか見えなかったけど」
「……怖い顔だったわ」

 ヴォルターは私の頭をぽんぽん、と撫でた。もう怖くないよ、とでも言うように。

「私……ちょっとショックだったわ。あなたがいるのが当たり前だったから……」
「嬉しいよ」

 ヴォルターの目が細くなる。ぐっと小さく拳を握ったのが視界の端で見えた。

「それから……さっき、校長先生に呼ばれて、卒業後の進路について聞かれたわ。私、学校に残って研究するかも」
「すごいじゃないか」

 マティアスの反応が一番早かった。
 私の両肩を掴んで、ぐらぐら揺らす。声が熱っぽい。……あぁ、この人、研究者気質、だっけ。

「校長も元は研究者だ。その校長に認められるなんて、素晴らしいよ」
「卒業かぁ……、私はイギリスに戻るんだろうなー。あとは……考えたこともないや」
「私の呪いはどうなるのかなぁ」

 聞いたことのない、アルトの声が聞こえた。全員の視線が、宙を彷徨って一人に集中した。

「……今、の……。アンブラ?」
「あら? あー……。声、が」
「……呪いの術者が消えたのね」

 アンブラの声は、とても耳に心地いいきれいな声だった。

「……大変。呪いの分の魔力が減ってるわ」
「うーん……自分ではわからないのだけど……」
「随分減ったな……」
「魔法、使える?」

 アンブラが髪をくるっと指に巻きつけて回した。……が、何も起きない。

「……使えない……わ」

 アンブラの肩越しにチェルソと目が合った。以前、彼が危惧していたことが、起こってしまったのだ。
 魔力を増やすには、魔力を持つ何かを捨てる。それくらいしか、私に思いつくものはなかった。

「……アンブラ、1日、時間をちょうだい。エヴァンジェリンと交渉してくるわ」
「エミィ、私も行く」

 エミィは、校長先生の部屋には入れてもらえない。
 意図を理解してくれたのか、エミィは頷いて立ち上がった。エミィと一緒に校長室に向かう。

「校長先生と、どう交渉するの?」
「1日だけ、悪魔除けの呪いを解いてもらうわ」
「……え? それで、どうするの?」
「魔力がこもった、宝石を探すの。魔石っていうんだけどね。アタシが知ってる魔石は夢の中にあるのよ」

 魔力がこもった宝石……。そんなものがあるの?

「校長先生、ココ・ブレナンです。お話が」
「……どうぞ」

 ドアが開く。校長先生は、エミィの姿を見てドアを閉めようとした。が、エミィが閉まっていくドアを掴んで無理矢理こじ開ける。

「……アタシは生徒よ?」
「わ、私に近付かない条件で、ですよね……!!」
「話ぐらい聞きなさい、エヴァンジェリン! ――――!」
「ヒィィィッ」

 禁止用語、ね。校長先生は泣きそうな顔をしている。何を言ったらこんな恐怖に陥るのかしら……。

「……二人とも、落ち着いて。校長先生、アンブラの呪いが解けたんです」
「アンブラ……あぁ、声を奪われる、呪いの」
「あの子の呪いが解けたら、魔法なんか使えないわ。魔石を探すから、呪い除けの呪いを……」
「それはできない相談です」

 校長先生が、きっぱり言い切った。

「しかし、私の持っている魔石を差し上げましょう。以前エマさんがくれたヤツ……だから、本当は、あまりあげたくないけど……身の安全には代えられません……」
「あんた物持ちいいわね……」

 エミィが呆れたような言い方をした。でも、顔は嬉しそうに綻んでる。

「……そうだ、あの件は、どう?」
「各方面に捜索を依頼しています」
「そう」

 あぁ、身内同士の会話ってやつだ。

「ココ・ブレナン。これをアンブラ・タッシナーリに身に着けるようにいってください」

 校長先生から渡されたネックレスは、暗い色の中にキラキラと光が揺らいでいた。
 これが……魔石……。きれい。

「……先生、ありがとうございます!」
「助かったわ」
「……ココ……、今、エマさんが言った『あの件』というものを、あなたにはお話しましょう。私は……ドロテア・チェスティを探すために学校を創立しました。一部の信頼できる卒業生には……捜索を……頼んでいます」
「……はい」

 学校で、手駒を育てる。でもそこまでして見つからないなんて。

「エマさんによると、お師匠サマは……とても珍しい魔石を探しているそうです」
「プレミアム・ジュエルっていうの」
「……私に、それを研究しろと?」
「…………。強制では、ありません」
「考えておきます」

 校長先生とエミィがここまでして探しているひと。
 自分の意思で隠れているなら、見つかりそうもない気がする。
 そして……、先生の意志を聞いてしまった以上、もう戻れない気がする。私は、ドロテア捜索のための歯車として生活していくの?

「……行きましょう、ココ。アンブラに魔石をあげなきゃ」
「うん」

 教室に戻る途中、エミィは小さな声で、「巻き込んでごめんなさい」と言った。