永遠少年症候群

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ファンタジー、恋愛要素、ハッピーエンド多め。
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    反省文と喧嘩

     冬休みも終わる頃、予定より2日前倒しして寮に戻ることになった。
     日本での冬休みは思っていたよりも楽しかった。実家の方では私の名前のことも、何も違和感がないようにふるまっていた。クライヴ曰く、呪いというのは不自然さを感じないようにできているそうだ。

    「せっかくのバケーションなのに悪いね、二人とも」
    「何があったの? クライヴ、大変そう」
    「セフェリノ・ベルスの魔力が戻らないらしい」
    「え? また?」
    「……もしかしたら……、もう魔法は使えないかもしれない」

     言葉も出なかった。

    「セフェリノって、この前の……エドワールのルームメイトの子よね?」
    「うん……。彼、ずっと体調が悪そうだったわ」

     クライヴはそっとしておいた方がいいと言ったけれど、わがままを言って保健室で寝ているというセフェリノをお見舞いについて行った。

    「……先生」
    「何か、大きな魔法を使ったのかい?」
    「いいえ、先生。ただ単に、成長して魔力が減っていくんだと思います」

     セフェリノは、まるで他人事のようだった。他人にするように自分にも距離を置いているような、そんな印象。

    「ココ、お見舞いに来てくれてありがとう。エマも」
    「あぁ、セフェリノ……何て言ったらいいのか……」
    「そういう体質だったんだよ。仕方ないさ。それより、エドワールが心配だな……、僕のことをかなり心配してたから……きっと寝てないし」
    「それは心配ね。大丈夫よ、エドワールのことは心配しないで」
    「ありがとう。君とももっとたくさん話したかったよ」

     私もそう思う。
     頷いてみせると、彼は少しだけ笑った。

    「スペインに来たら、案内するよ」
    「えぇ」

     セフェリノに別れを告げて部屋に戻ると、保健室ではどうにか我慢していた涙が出てきた。

    「もっとたくさん話せばよかった」
    「そうね……」

     エミィがぎゅっと抱きしめて慰めてくれた。ようやく泣き止んだとき、いつものハーブティーをくれた。

    「それにしても、セフェリノも心配だけど、エドワールも心配よ。エドワールって、本当に魔力も多くて飛び級したんだけど、家族も次々に亡くなって半分捨てられるみたいにこの学校に入れられたんですって」
    「何て言われてたのかは、想像つくわ……」

     可哀想すぎる。
     エドワールの境遇を思うと、せっかく引っ込んだ涙がまた出そうだった。誰も何も言わないかもしれないけど、きっと傷付いてしまうだろう。
     ハーブティーを飲んで、今後のことを考える。後学期は、もっとたくさんの友達を作ろう。

    「エミィ、いろいろ……ありがとう。今日はもう寝るわ……」
    「えぇ、そうした方がいいわ。そういえば明日は朝から出かける予定があるの」
    「わかった」

     泣き疲れたからか、随分ぐっすりと眠れた気がした。
     起きると、エミィは言っていた通り朝から出かけているらしく、ベッドはもぬけの殻だった。
     ちょっとだけ、試してみたいな。瞬間移動と違って、失敗しても体に害はないはず。

    「よーし……」

     宙にハートを描いて、ドアを開く。……あら、廊下だわ……。

    「ココ!?」

     聞き慣れた声が聞こえたかと思うと、けたたましい警告音が響き渡った。

    「や、やば……!」

     ヴォルターが私の手を掴んで、速足で歩きだす。

    「何で男子寮にいるんだ!!」
    「魔法、失敗しちゃって……。ドアを繋げるやつ……、ちょっと距離感を間違えちゃったみたいで」

     階段をおりきると、エントランス……ユーインさんが仁王立ちしている前に出た。

    「ご、ごめんなさい! 魔法の加減を失敗しちゃって」
    「問答無用よ、ココ・ブレナン。反省文ね。ヴォルター・リンハルト、あなたも共犯かしら?」
    「……はぁ、まあ……」
    「ち、違います! 私が、たまたま……!」
    「はいはい。純愛に免じて二人ともレポート用紙2枚でいいわよ。いい? 私に見せてから生活指導教官のシェーバー先生に提出よ」

     まだ抗議しようとすると、ヴォルターがぎゅっと腕に力をこめた。ユーインさんが行ってしまうと、ヴォルターが小さく溜め息をついて、食堂に歩いていく。

    「ちゃんと誤解を解かなきゃ! 私が勝手に魔法の失敗しただけなのに!!」
    「オレが手を引いて出たら、誰だって関係ないとは思わないさ。まあ、男子寮への滞在時間が短くてよかったよ」

     食堂はがらんとしていたけれどそれなりに人はいた。噂が広がるのはきっと時間の問題だ。

    「それに……純愛とか言ってたし」

     声を潜めると、ヴォルターは噴き出した。

    「オレと君で? どう見たってないだろ?」
    「な、ないけど!」

     はぁ……。溜め息しか出ない。

    「今日はエマは?」
    「お出かけですって。いつも一緒なわけじゃないわ」
    「そうなんだ。ははは」
    「何で笑うの?」
    「いや、てっきり君とエマって、エマが孤立するから君が傍にいるんだと思ってた。君が暴走しないようにエマが止めてるんだね」

     そうかもしれない。いや、そうだ。いつもエミィが、焦る私を止めてくれていた。

    「また心配かけちゃうわ」
    「いいんじゃないか?」
    「よくないわ」

     肩を落とすと、ヴォルターはまたくすくす笑った。

    「今日中に書いてしまおう。図書室に行こう」
    「そうね……」

     ヴォルターとは、図書室の自習コーナーで待ち合わせをした。

    「ココ、聞いたよ。反省文だって?」
    「あら、チェルソ……。おはよう。珍しいわね、図書室に来るなんて」
    「ヴォルターに来てくれって頼まれたんだよ。チェルソは反省文慣れてるだろって言うんだぜ」
    「そんなに反省文書いてるの?」
    「まぁ……、夜抜け出そうとしたり、実験が過激だったり、いろいろね」

     もしかして、しばらく見なかったのは反省文を書いていたからだろうか。
     それにしても、やっぱり男の子同士の方が仲が良いのかな。チェルソがそんな状況だなんて全然知らなかった。

    「ヴォルターね、全然悪くないのよ……。私が魔法で失敗して男子寮に出ちゃって、エントランスまで連れて行ってくれただけなの」
    「ヴォルターが自分で関係あるって言ったんだったら、厚意に甘えればいいんじゃないかい?」
    「そうかしら」
    「そういうものだよ。彼を待たなくてもいいと思うよ。ささっと書いちゃわないと。こういうのはノリが大事なんだよ」

     チェルソに見てもらいながら反省文を書き進めていく。
     ヴォルターも途中でやってきて、3人でひそひそ話しながら書いていった。私は早く書き始めた分、ヴォルターよりもちょっとだけ早く終わった。
     チェルソと二人でヴォルターの背中を背もたれにしながら読書をする。私は魔力の増減について書かれたものを読んでいた。
     セフェリノみたいに若い頃突然回復しなくなることって、すごく珍しいけれどあることみたい。タイプは寝る、食べる、奪うとかいろいろある。
     回復のタイプみたいに最大値の増減にも何パターンかあるらしい。大人になって、増減するもの。思春期に魔力の最大値に波があることもあるし。病気や怪我などをきっかけに増減するもの。など。人から奪った魔力は上乗せされて最大値が増える。これは、私が名前の代わりにクライヴから魔力を貰ってる分、と考えればいいわね。

    「できた」
    「ユーインさんに見せてからシェーバー先生に提出だったわね。行きましょ」
    「あ、ダメ。ユーインはシエスタ邪魔すると怒るから、もうちょっとしてから行った方がいいよ」
    「チェルソ、あなたって……本当に何度も反省文を書いてるのね……」
    「そこは教えてくれてありがとうって褒めてくれよ」

     時間を潰すために読書を続けることにした。
     図書室は、ひそやかに噂が流れていた。魔力が尽きた男の子がいるらしい、と。

    「……誰なんだろう」
    「ココ、顔色が悪いよ」
    「……そんなことないわ」

     ポツンと一人で座っている小さな男の子――……エドワール・サジュマンに気付いて彼に近寄る。彼は何かにおびえたように私を見上げた。

    「こんにちは」
    「……やぁ……」
    「私、ココ・ブレナンよ」
    「……エドワール……」
    「大変だったわね。セフェリノから聞いたわよ。寝てないんじゃないかって心配してたわ」
    「セフェリノと話したの?」
    「えぇ。あなたのこと、心配してた」
    「……僕が……」

     エドワールは泣きそうな顔でうつむいた。

    「……疫病神だから」
    「そんなひどいこと、誰が言うの?」
    「みんな」
    「みんなってだぁれ?」
    「……叔母さんとか……」
    「ここにはいないわ」
    「おばあちゃんも」
    「ここには、いないわ。ここにはあなたを悪く言う人なんて、誰もいないわ」

     仁王立ちして興奮していたからか、軽く眩暈がした。エドワールの向かいの席に座ると、エドワールは立ち上がった。

    「僕は、もう誰とも関わらない。きっとそれが一番なんだ」

     それだけ言って、図書室から出て行ってしまった。

    「……ココ、さっきより顔色が悪いよ」
    「もうそろそろユーインに持って行ってもいいと思う。さっさと提出して、部屋に戻った方がいいよ」
    「……えぇ」

     ユーインさんに反省文を見せて、シェーバー先生に提出した。階段をてっぺんまで登るのは面倒だったけれど、もう実験しようという気力は残っていなかった。
     エドワールと話してから、妙に体が重かった。

    「ココ、ココ」

     体をゆすられて目が覚めた。

    「あ、エミィおかえり」
    「床で寝ちゃだめよ。風邪をひいちゃうわ」
    「あ……」

     そうか、部屋に辿り着いたはいいけど眠くなってラグの上で寝ちゃったんだ。

    「……エドワールと話したの。すごーく気にしてたし、自分を責めてた」
    「彼も心配だけど、ココ、あなた魔法の実験して反省文書いたそうじゃない!」
    「あ……うん。距離削除のやつ、気になって……。ちょっと失敗して、男子寮の中に出ちゃったのよ」
    「それだけ? けがはないのね?」
    「怪我なんてしてないわ」
    「心配したのよ! それに帰ってきたら床で倒れてるみたいに寝てるし!」
    「その魔法で魔力を使いすぎちゃったみたいで……」
    「そんな魔法、一人で……!」

     うぅ……エミィがすごく怒ってるわ。目がつり上がってるもの。どうしたらいいのかしら。

    「ご、ごめんなさい……。そんなに怒らないで……」
    「何に謝ってるのかしら」
    「……えっ、あの、私が、反省文……」
    「違うわ!」
    「う……うぅ……そ、そんなに、怒らないで……よ……私、悪くないわ……」
    「わからないの? ……もう知らない!」

     知らないって、どういうことよ。ぼろぼろと涙が出てきた。
     ばっと立ち上がって、マーリーの部屋まで階段を駆け下りていく。マーリーの部屋、来るの初めてだ。マーリーのルームメイトがエミィを嫌がるから、マーリーが私達の部屋に来たことしかなくて。

    「マーリー! 開けて!」
    「なーにー? って、うわ、なんで泣いてんの」
    「エミィが、ひどいのよ。怒るの……!」
    「ケンカぁ? ま、入って入って」

     初めて他人の部屋に入った。整頓はされてるけど、女の子らしい物であふれていた。

    「ちょっと、どうしたのよ。泣いてちゃわかんないでしょ」
    「……今日、反省文書いたの」
    「優等生のあんたが?」
    「ドアとドアをつなげる魔法の実験してたら男子寮に出ちゃったのよ。それで。そしたら、エミィすごく怒って」
    「ちょっと待って。反省文書いたから怒ったの?」
    「心配したって言ってた。それに……あ、魔力使いすぎて、すごく疲れて床で寝ちゃってたの」
    「……ははーん?」

     マーリーがニヤリと笑った時、ドアが開いた。マーリーのルームメイトが帰ってきたらしい。灰色の目は鋭く、形のいい鼻の周りにはそばかすが散っていた。

    「客?」
    「うん、ココ・ブレナン。ココ、ルームメイトのレスリー・ラングレー」
    「よろしく……」
    「なんで彼女泣いてるの?」
    「ルームメイトとケンカしたんだってさ」

     マーリーがエミィの名前を伏せて状況を説明すると、レスリーは肩を竦めた。

    「大怪我するかもしれない魔法を使ったんでしょ? そりゃ、心配もするかもね」
    「なのに本人がけろっとしてたら怒りにも変わるってもんよ」
    「わ、私が怪我してたら良かったの!?」
    「違うっつの」

     マーリーが言うと、レスリーは鼻でふんと笑った。な、なんだか嫌な感じ……。

    「勝手に一人で実験すんなってこと。難易度が高いものは特にね。何のためのルームメイトよ?」
    「……うん。私が、危険なことしたから怒ってるのね……」
    「いい奴じゃない、彼女のルームメイト。誰?」
    「エミィよ」
    「……悪魔?」
    「エミィにはエミィって名前があるのよ」
    「あはは、ココのそれ、久しぶりに聞いた。でも無理無理。レスリーは黒人も無理だもん」
    「……素晴らしいルームメイトね、マーリー。お邪魔して悪かったわ」

     肌の色の差別なんて、バカバカしいにもほどがあるわよ。でも、だから彼女、私には一切話しかけなかったんだわ。私は黄色人種だものね。
     大して肌がきれいなわけでもないくせに……なんて言ったら、またいろいろ問題になるわね……。我慢するに越したことないわ。

    「……エミィ、起きてる……?」

     部屋に入ると、エミィはドアに背を向けてぺたんと座っていた。

    「あの、ごめんね。……もう一人で危ない実験なんかしないわ」
    「……」
    「エミィ?」

     私が近付くと、エミィは小さくしゃくりあげた。

    「ほ、ほんとに心配したんだから……」
    「うん、ごめんね」

     ヴォルターが言ったことを思い出した。エミィが孤立するから私が傍にいるように見えるけれど、私の暴走をエミィが食い止めてくれる。でもそれって、正しいようでやっぱりちょっと違うわ。
     私とエミィは、お互いに大切に思ってるかけがえのないルームメイトなの。