永遠少年症候群

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魔法理論応用中

 詠唱破棄を習ってからというもの、私とエミィは寮の部屋をカスタマイズしようと図書室で調べものをたくさんしていた。基本的に、カスタマイズは自分達で実験しなきゃいけない。自己責任ってやつだ。
 今私が使える魔法といえば、寝転んだまま電気のスイッチを消すことと、遠くのものを取ることくらいだ。
 初めての魔法は下調べを入念にしないと大変なことになる。これは、昔調子に乗った生徒が自分を瞬間移動させる魔法を使おうとして内臓を置き忘れてしまって大事件になったという話を聞いたからだ。話を聞いただけなら先生たちの脅かしだと思ったかもしれない。実際、そう思ったアルファクラスの子がムバニアの魔法で魔力を使いすぎて、窓を突き破って大怪我をした。実験しなかったからだ。

「それにしても、詠唱破棄って魔法の世界が広がるわねぇ」
「うん」

 小学生の算数で、掛け算を覚えた時のような感じ。
 呪文を考えた人は、きっとかなり偉大なのだと思う。魔力の調節も勝手にうまくいくし、ほとんどミスがない。ただ、全ての呪文を覚えるのはきっと別の言語を覚えるくらい大変だと思う。
 そこで詠唱破棄。無駄に魔力を吐き出して思いもよらないタイミングで思いもよらない魔法を使うってことがないように、自分だけのアクションを決めて、結果を想像しながら魔法を使う。集中力がかなり必要になってくるし、魔力の調節は自分で考えなきゃいけない。

「一番やりたいことといえば、階段の上り下りで楽することよね」
「そうね……。ふくらはぎに無駄に筋肉ついちゃって……嫌だわ」

 メモを取ろうとムバニアの魔法を使うと、エミィはとても驚いた顔をした。

「ちょっと、すごいわココ。今のって瞬間移動よね!?」
「え? ただのムバニアの……」
「違うわ。ムバニアだとすーっと動くもの。今、一瞬消えて現れたわ」

 ……そういわれてみれば、そうかも。

「それって、かなり難しいのよねー……」

 エミィが座ったまま足を浮かせて、かかとを鳴らす。と、エミィのペンは分解されてしまった。中身が飛び出ただけだから直せるけど、人体でこれが起こったらと思うと、確かにゾッとする。

「原理が違うのかしら」

 エミィが、魔法で作っていたハーブティーをマグカップに注ぐ。

「……あ、ねぇ。パパのところにいったら、コーヒーをぱっと出してくれるじゃない?」
「そういえばそうねぇ……。魔法でハーブティーを作るのは、アタシが作るのと同じくらい時間がかかるわ。もしかしたら、時間を省略してるのかも」

 時間の省略かぁ。
 まだ時間があるので、もう一度図書室に行くことになった。基本的な魔法の分類の本を手に取る。
 物を移動させるだけでも、すーっと時間をかけて動くのは体力・労力を魔力で補った基本対価魔法という。瞬間移動は、次元変異魔法というらしい。

「基本対価魔法っていうのは、魔力が補うものが一つだけってことよね」
「確か、そうよね。応用対価魔法っていうのもあるはずだし」
「次元変異って、何かしら」
「何かの代わりに魔力を使うんじゃなくて、魔力を使って何かを変えるってことよね」
「この場合の次元って、時間でいいのかしら……。難しい言葉になるとわからないわ……。次元って何なのかしら」

 もしかしたら、次元変異魔法なんてまだ上級生になって習うのかも……。

「……今日は帰りましょうか」
「そうね。……あ、パパの研究室に寄ってもいいかしら」
「いいわよ」

 冬休みの相談をしなくちゃ。実家のお祖父ちゃんから手紙がきていた。もう少しで陽が沈みそうだったけれど、エミィと二人でクライヴの研究室を訪問した。クライヴはいつも通り私達を迎えてくれた。

「やあ、二人とも。課題は順調かな?」
「……えぇ、まあ」

 本当は課題のことなんてすっかり忘れていたんだけど。
 1年、2年ともにクライヴは実に立派にパパ役を果たしてくれていた。バケーションはとても楽しい。魔法史の遺跡めぐりばっかりだけど。

「お祖父ちゃんからたまには帰ってきなさいって言われたの。そんなこと言われなかったから、一度も帰ってないわ」
「恐に迎えに来るように連絡しとこうか」
「……パパも一緒に連れてきてって言われたわ。良かったら、エミィも来てくれないかしら。私、あの家怖いのよ」

 無理もない。
 だって私は、ココ・ブレナン。元の名前は思い出せないけど――たぶんお祖父ちゃん達も思い出せないだろうけど――私はお祖父ちゃんが付けた名前じゃない子だ。
 どの面下げて帰れるだろうか。

「招待されてるなら、行かなきゃな」
「アタシも行っていいの?」
「うん」

 冬休みの約束を取り付けて帰ろうとしたら、クライヴに呼び止められた。

「引き留めて悪かったね。もう遅いから、寮まで送るよ」

 クライヴが指を鳴らすと、ドアがわずかに光った。

「……あ、これ。これ、やってみたいの。どこでもドア!」
「なんだい、それ? これは3年生じゃ難しいと思うよ」
「次元変異魔法だから?」
「よくわかったね。変異というよりも、一時的に削除するんだ。次元……つまり、緯度・経度・地上からの高さを限定した二つの場所の距離をね」
「時間は?」
「時間も次元だね。このドアには使わないけど、瞬間移動の魔法なんかで削除するよ」

 エミィは苦笑して肩を竦めた。私も同じような顔だと思う。
 クライヴに促されて部屋に戻ると、エミィはベッドに倒れ込んだ。

「次元変異魔法を習うまでは、足だけムキムキで我慢しなきゃいけないわけね……」
「もうちょっと勉強したらわかるようになるかしら」
「段階があるんじゃない? しばらくは無理そうね」
「うん……。疲れちゃった。おやすみ」

 その日は無駄に多くの魔力を使ってしまったからか、ぐっすり眠れた。

「おはよう、ヴォルター、マティアス」
「おはよう、ココ」
「……おはよう」
「隈がひどいな。きちんと寝てるのかい?」
「えっ、ひどい? ぐっすり寝たわ」
「そんなにひどくないよ。よく見れば、もしかしたらいつもと違うかもっていうくらいさ」
「そう……」

 一度、鏡を見てみた方がいいかもしれない。あんまり気にしなさそうなヴォルターが言うんだもの。マティアスが言うほどいい状態ではないのかもしれない。

「そういえば、二人の部屋から学校につながるドアがあるのよね?」
「あるよ」
「それって、常につながってるの?」
「いや、そういうわけじゃない。普段は廊下に出るドアだよ。ドアにどこに繋ぐか決めるスイッチがあるんだ」
「それで切り替えてるのね」
「カスタマイズの実験してるんだな」
「そうよ。私達の部屋っててっぺんだもの。いい運動というにはあまりにハードで」

 ご飯をちょっとヴォルターのお皿に分けると、マティアスは目ざとく見とがめた。

「ひょろひょろなのにこれくらいも食べないなんて、どうかしてる」
「残すのは失礼なんだもの……」
「大体、僕たちはこんなご飯なんてあまり食べないんだよ」
「マティアス、人には適量ってものがあるだろ? オレはちょっと足りないからちょうどいいんだ」
「まったく……」

 マティアスもヴォルターも、色白ではあるけど筋肉はムキムキだ。
 太るのが嫌……という理由ではないと思うんだけど。

「マティアスって、私のことキライなの?」
「き……嫌いだよ」

 マティアスの顔が引きつった。
 ……がっくりと肩を落とすと、ヴォルターがくすくす笑った。

「嫌いなら一緒にご飯なんて食べないさ」
「そう?」
「そうだよ。君があまりに細くて小さいから、君を小さい子どもだと思ってる彼は心配してるんだよ」
「小さい子どもじゃないわ」
「そうだね」

 ヴォルターがおかしそうにまた笑う。

「二人は、カスタマイズしないの?」
「マティアスはしてるよ。元々研究者気質だからね」
「あら、意外」
「意外かな」
「面倒なことは嫌いなのかと思ってたわ」
「嫌いだよ。実験とか研究は面倒じゃないものに分類されるってだけ」
「ふーん。ごちそうさまでした。それじゃ、またランチタイムに!」

 食堂を出て教室に入ると、何人かがぐったりと机に突っ伏していた。みんな、カスタマイズにはまってるのね。
 手鏡で顔を見てみると、なるほど、確かにうっすらと隈ができていた。

「あら。……まぁ、昨日はいつもより遅かったものね」

 放課後、エミィに隈のことを話すと彼女は少し肩を竦めた。

「ヴォルターって、ココのことよく見てるのね」
「マティアスも目ざといのよ」
「……ココに関わるとみんな面白くなっていくわ」

 エミィがくすっと笑った。
 図書室では静かにしなければならないので、ひそひそと話しているけれど、どうも少しずつ声が大きくなっていってしまう。
 ゴホン、と大きな咳払いが聞こえて、またひそひそと声を潜める。

「次元って、いろんな定義があるのね」
「パパは昨日、緯度・経度・地上からの高さと時間って言ってたわ」
「緯度、経度っていうのは縦と横。二次元よね。それに高さが加わることで、三次元になる」

 よくわからないけど、2D映画は平面で3D映画は立体みたいなものよね。

「四次元目のものが何なのか、限定はされてないわ。時間だったり、質量だったり……、重力とかもあるみたい」
「時間を変異させたら、過去を変えられるのかしら」
「どうかしら。瞬間移動なんかは、未来までの時間を一時的に削除するんでしょ? 過去への時間を削除したとして、その過去は今なのよ」
「?」
「あぁ、わけわかんなくなってきた……」

 二人で頭を抱えていると、人の気配がした。

「……ココ……?」
「あら、セフェリノ。どうしたの? 顔色が悪いわ」
「ここ最近、体調悪くて。部屋で寝てたらエドワールの気が散るかと思って、図書室で……」
「保健室に行ったら? 顔色も悪いし、行っても何も言われないと思うわ」
「そうしようかな……」

 セフェリノは、エミィにも軽く微笑んでフラフラと歩き出した。考えてみれば、セフェリノってエミィに普通に接する数少ない一人だわ。

「大丈夫かしら」
「心配ね。一人だし」
「彼は一人が好きなのよ。えーっと、ストレスを感じない他人との距離が広いみたい」
「パーソナルスペースのこと?」
「そうそう。それで誰に対しても中立だからセフェリノはベータクラスでもクラス長とかしてて……」

 言葉を途中で切ってしまったのは、セフェリノという名前を聞いてこちらに足早に近付く足音がしたから。

「エミィ……」
「あら、エドワール。どうしたの?」

 エミィの声が、いつもより少しだけ優しくなる。子供をあやすみたいな声だ。
 エドワール・サジュマンは、綺麗な青い瞳を不安げに揺らして立ち尽くしていた。

「僕のルームメイトを見なかった? 体調が悪そうなのに、どこかへ行っちゃって」
「大丈夫よ。保健室に行くって言ってたわ」
「……そう。彼、前も魔力が回復しなかったことがあるんだ」
「そうね。随分魔力が少ない子だったもの」
「え?」

 セフェリノの魔力は、ベータクラスの中でも多い方だ。
 もしかしたら、また体調が悪くて魔力が回復してないのかもしれないけど……。