永遠少年症候群

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魔法理論実践

 月曜日、教室に入るとセフェリノ・ベルスは普通に座っていた。

「おはよう、セフェリノ」
「おはよう、えーっと、ココ……だっけ」
「そうよ。あの……」

 あれは、セフェリノではなかったのだろうか。最年少の男の子と同じ部屋と言っていた気がするけど……。それとも、そもそもエドワールのルームメイトが倒れたという予想が間違っているのだろうか。

「……あぁ、心配してくれてるんだね。ありがとう。もう大丈夫だよ」

 私が言い淀んでいると、彼の方が勝手に判断して返事をくれた。
 やっぱり、彼だったのね。

「魔力も戻ったみたいね」
「あぁ。ここ数日体調が悪かったし、戻らなかったけど……。僕の体質って、かなり体調に関わるみたいだね」
「そうなの。気を付けなきゃね」
「そうだね。おかげでせっかくの週末が保健室で潰れちゃったよ」
「ほんと、よかったわ。元気そうで」

 チェルソによると、セフェリノのルームメイトであるエドワールは大層彼を心配して、ずっとお見舞いに行っていたらしい。確かに、エミィの言うとおり心細かったのだろう。

「魔力もケタ違いだし、まだ6、7歳だからエドワールってどうしても孤立しちゃうんだよ。何考えてるのかわからないとこもあるしね。でも今回の件でかなり見直した。いい子だよ」

 人間だと、誤解はこんなにも簡単に解けるんだ。対するエミィに同情しつつも、仕方のないことなのかと呆れてしまう。

「そういえば、昨日……エミィが飛んでるのを見たよ。実体化を解いてたんだろうけど」
「そうね。実体化って、窮屈で肩が凝るんだって」
「……僕は君達に散々エミィの話を聞かされてるけどさ、やっぱり、偏見ってあるんじゃないかと思うんだ。つまり、実体化を解いた姿で誤解を招くというか……」
『なぜそうなるの』

 アンブラが怒ったような顔になると、チェルソは慌てて言い訳めいたことを言った。すると、黙って聞いていたヴォルターが小さな声で「彼の言い分はもっともだよ」と言った。

「犬が怖い人間にどれほど優しい犬を見せても、きっと怖く感じる。それと一緒。悪魔は悪魔、吸血鬼は吸血鬼。君たちみたいにエマ、ヴォルターだと考えてはくれない。でも彼女に実体化を解くことを制限する必要はない。放っておくのが一番だ」
「ヴォルターは、やっぱり諦めてるの?」
「君たちがよくしてくれるだけで、十分に充実した学校生活になっているさ。エマもね」

 それで本当にいいのかしら。

「みんなが友達っていうのは、あんたがドロテアみたいな魔女だとしても無理ってこと」
「マーリーってクールよねー……。あ、ドロテアってよく聞くけど有名なの? 私、突然消えたことくらいしか知らなくて」
「本当に魔法使いの常識知らないのね。ドロテアにできないことはないって言われるくらい偉大な魔女なのよ」
「でも、ちょっと変な人だよ。創世の女神は魔女だって言ったり、いつもロココ調のドレスを着てたり」

 変な人、か。
 変な人って、チェルソは言い切ったけど、実際に会った事あるわけじゃないわよね?
 一般的に変な人ってことかしら。どういう基準で変なのかしら。

『……どうしたの、ココ』
「あ、ううん。何でもない」

 私が今まで学んでこなかったこと。言葉の裏の、感情。こういうふとした瞬間に躓いてしまう。
 感情を手に入れる前の方が、まだスムーズに受け答えできていたかもしれない。

「そういえば、セフェリノの魔力が回復したなら魔法理論実践の魔法が本格的に始まるわね」
「そうだね。ところで、いつ移動するんだい? もうそろそろ授業が始まるよ」
「えっ!?」
『早く言ってよねー!』

 みんなでバタバタと走って教室を移動する。なんだか楽しかった。
 魔法理論実践の教室は他の教室よりは近いので十分間に合ったけれど、授業が始まってもしばらくは息が整わなかった。

「いよいよ魔法理論で習ったことを実践していきます」

 ウォーリック先生がかすかに笑った。

「初めは、まず、物を動かすことから。動かすための体力を魔力で補うことが必要です。呪文は“ムバニア”」

 動かすための体力が必要ってことは、重いものになったり動かす距離が増えたりすると魔力を多く消費するということね。

「ペンを10センチ動かしてみましょう。集中して、ペンが動くことを想像してください。それから、呪文を唱えます」
「……ムバニア」

 ペンがぴくっと動いた。けれど、動いたのは2、3ミリといったところだ。
 隣を見ると、ヴォルターはペンがすーっと動いている。

「みなさん、ヴォルター・リンハルトがとても上手でしたよ」
「先生……ペンの中身だけ動いちゃったわ」

 あら、と言って先生が指を鳴らすと、マーリーのペンが元に戻った。先生、呪文言ってない。呪文を言わなくても魔法が使えるようにできるのだろうか。
 もう一度、と集中してペンが動くところを想像する。

「ムバニア!」

 ペンがぱっと消えて、ぱっと現れた。

「できたぁ」
「すごいな、ココ」
「ふふ、ありがとう」

 次々とできるなか、アンブラだけはうまくできなかった。

『全然ダメ』
「アンブラ・タッシナーリ、息を吐きながらやってみなさい。あなたは声が出ないから、息を止める癖があるようですね」
「先生、息も魔法に必要ということですか?」
「そうですね。……マーリー・ロングフェロー! 起きなさい!」

 マーリーったら、また寝てたのね。眠そうな目をごしごしこすってる。

「息が魔法に必要というわけではありません。必要な魔力を使うのに、息に混ぜて吐き出す人が多いのです。慣れれば息を止めていても魔法をうまく使えるようになります。さあ、もう一度試してごらんなさい」

 みんなが見ている中、アンブラのペンがすっと移動した。

『できた……』
「全員よくできました」
「先生、一つ質問が」

 手を挙げたのは、アデル・アビントンだった。

「なんですか?」
「アンブラは声が出ないから呪文を唱えてませんよね? 呪文は、必要ないということでしょうか」
「……まぁ、結論を言うと必要ありません。魔法に必要なのは魔力。時には魔力で補えない時間や体力、血液など。人智の及ぶものではありません。なので、特定の言語の呪文などあるわけがないのです」
「それでは、なぜですか?」
「呪文に意味はありません。ですが、適度な量の魔力になる単語で調節しているのです。魔力の調節がうまくできない間は、呪文に乗せて魔力を吐き出す方が効率的です。呪文を言わなくても魔力の調節がうまくできるようになったら別の方法を教えることになります」

 あの、クライヴやウォーリック先生が指を鳴らすだけで魔法を使えるのは、そういうことなのだろうか。
 何度かペンの瞬間移動を練習して授業は終わった。
 初めて魔法らしい魔法を使った。しばらくこればっかり使ってみようとするかも。
 次の授業は魔法史だ。廊下を歩いていると、マーリーがうーん……と小さく声を漏らした。

「……ちょっと、体調悪い」
「え? 大丈夫?」
「眠くて、仕方ないの……」

 顔色が悪いわ、と一歩近寄ると、突然マーリーが後ろに倒れた。

「わっ!?」

 ヴォルターが受け止めてくれなかったら、マーリーは頭を打っていたかもしれない。

「大変。保健室に連れていかなきゃ!」
「……寝てる」

 私とヴォルターで保健室に連れていって、アンブラとチェルソは先に教室に行ってクライヴにわけを説明することになった。
 遅れて教室に行くと、クライヴは笑顔で迎えてくれた。

「マーリーの様子は?」
「しばらく休めば治るだろうと言っていました」
「そうかい。よかった。二人とも座って」

 クライヴはそのまま授業を始めた。
 ユーロ王。世界史の重要人物で、魔法史では歴史上初の魔法使い。
 魔女や魔法使いはみんな、このユーロ王の子孫なのかな。

「ココ」
「なあに?」
「呼ばれてる」

 チェルソにつつかれて顔をあげると、クライヴがじっとこっちを見ていた。

「日本の魔法使いの祖先と言えば、誰?」
「え……?」
「……魔法で国を統一した女性」
「あ……卑弥呼のこと……ですか?」
「そう。ホンファ、中国はどうかな?」
「武帝、昭烈帝、武烈帝です」

 リュウ・ホンファは自信たっぷりに答えた。私とは大違いだ。

「そう。卑弥呼も三国の王も大体200年頃に現れてる。このクラスにアフリカ大陸出身の子はいないけど、エジプトの魔女の先祖・クレオパトラも、この少し前だ。魔法使いや魔女は、この頃から各地に点在している」

 魔法理論で、魔力は受け継ぐものって習ったわ。神話でも、“青と赤の人間”や吸血鬼達も女神から魔力をもらってる。
 各地の魔法使いの祖先だけ同じタイミングで突然変異ってことあるのかしら。ユーロ王がいくら勢力を広げようと、日本まで来てないはずだもの。
 みんな、不思議に思わないのかしら。魔法史の授業は、再びヨーロッパのユーロ王の話に戻ってしまった。

「あー……よく寝た」

 ランチタイムの時、マーリーが戻ってきた。かなりさっぱりした顔をしている。

「聞いたわマーリー、倒れたんですって? もう大丈夫なの?」
「うん。寝てただけ」
『いつも授業中寝てるのに、珍しく先生に起こされたのよ』
「えー、私、そんなに寝てる?」
「……寝てないつもりなら、逆に危ないと思うよ」
「…………マジ?」

 チェルソが言うと、マーリーが目をキョロキョロさせた。
 え? マーリー、ほんとに自覚ないってこと?

「どうしよ、私、ビョーキってこと?」
「みんな、そんなに脅かさないの。魔力の回復のために寝ちゃうだけよ」

 エミィが言うと、ヴォルターがちらっとエミィを見て、頷いた。

「最初の授業でも爆睡して10分で回復していたから、きっとそうだろう」
「あ、なんだ」

 マーリーがほっとした様子でランチのサンドウィッチをかじり始める。なんだか妙な違和感を覚えたけれど、話しているうちに忘れてしまった。
 この違和感ってのを思い出したのは2年生も終わる頃。私達は1年たっても、新たに友達が増えるわけでもないけれど仲良く平穏に過ごしていた。

「……ばあちゃんが死んだから、帰るわ」

 マーリーは唐突に言って、クライヴに連れられてイギリスに一時帰宅した。クライヴが教室に呼びに来る直前、いつもみたいに爆睡していたのにぱちっと起きたのが、とても印象的だった。
 ランチタイムで私達はマーリーのお婆ちゃんのために祈った。

『マーリーのおばあちゃまって、魔女よね? それにしては短命じゃない?』
「確かに」
「……お婆さまだったのね」

 エミィが静かに口を開いた。
 何か、知ってるみたい。そういえば、前もあった。妙にエミィが断定して話をはぐらかしたこと。

「何か知ってるの?」
「マーリーって、寝る度に少しずつ魔力が増えてたの。あれ……ちょっとでも疲れたら寝ちゃう呪いをお婆さまにかけられていたんだわ」
「……え?」
『マーリーが寝ておばあちゃまに何の得があるの?』
「マーリーの魔力が増えるのよ。ただ、それだけ。魔力を少しずつあげるのに有効な方法が呪いで、一番害がなさそうな効果が睡眠ってだけだと思うわ」
「……マーリーには黙ってた方がいい。本人も、気付いてるかもしれないけど」

 ヴォルターが静かに言った。チェルソも暗い顔で頷いた。

「マーリーの家って、古い魔法家系だろ。けっこうマーリーの魔力が少ないことで風当りキツいんだってさ」

 世界で一番、愛のこもった呪い。
 マーリーのお婆ちゃんは命をかけてマーリーを親戚の悪口から守ろうとしたんだわ。

「そんなのってないわ……」

 ただただ悲しくて、涙が止まらなかった。