永遠少年症候群

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キミも友達

 夜中、寮にはすすり泣きの声が響く。ホームシックの子達の泣き声だ。

「……はあ……」

 あの泣き声を聞いているととっても気が重くなる。実家を思い出して恋しいと泣けない私は、まだ感情がないままなのかと責められている気がするのだ。

「ココ、寝れないの?」
「……エミィ、起こしちゃった?」
「ううん。アタシ、元々寝ないから不眠気味なのよ。人間の体って、不便だわぁ……」

 エミィは大きな欠伸をして、二段ベッドから降りてきた。ベッドのふちに肘をついて、寝転んだままの私の顔を覗き込む。

「どうしたの? ココもホームシックかしら」
「ううん。逆よ……。何にも感じない。感情、あるはずなのに」
「気にすることないわ」

 エミィの声は、肩にホコリがついてるよ、と言うような軽い声だった。ほんとに気にすることじゃないんだって思える声だった。
 そうね。実家を恋しく思う要素なんて、全然ないもの。

「……ねぇ、エミィは私と逆の立場だったらどうする? もし私が悪魔の学校に行って、人間だから孤立してたら」
「そりゃ、こんなにいい子だもの。他の悪魔から守るわ」
「私もそうしたいだけなの。でも、うまくいかないわ」
「最初から何もかもうまくいくわけないわ。アタシのことは気にしなくていいの。ココはまず、初めての感情をうまくコントロールすることから始めなきゃ」
「……そうね」

 そうか。自分のこともうまくいかないのに、人のことなんて無理ね。

「エミィと話すと、なんでも悩みが解決する気がする」
「ふふ、すごいわね」
「うん。本当にすごいわ。私、エミィ大好きよ」
「ありがとう、ココ。おやすみなさい」
「おやすみなさい、エミィ」

 エミィがおでこを撫でてくれると、不思議とすっと眠れた。
 夢を見た。とても悲しい夢だった気がするのに、起きると何も覚えていなかった。

「おはよう、ココ。よく眠れたかしら?」
「うん。おはよう、エミィ」
「朝ご飯、食べてらっしゃいよ」
「エミィは?」
「もう食べたわ」

 もしかして、エミィが悪い夢を食べてくれたのかな。でも学校の敷地内では人間の体だし……。単に私が忘れただけかな。
 食堂からそのまま教室に向かおうと、荷物を持って階段を下りていく。エミィはもちろん、マーリーやアンブラともいつもご飯の約束はしていない。食堂で会ったら一緒に食べる、というくらいの暗黙の了解はある。エミィが部屋の外で一緒にいることを拒否する以上、3人だけで食べるというのは嫌だった。それはマーリーもアンブラも同じ気持ちだった。

「今年の1年生は呪い持ちが多いんですって。呪い学の先生が言ってたわ」
「アンブラ以外に呪い持ち知ってる?」
「知らなーい」

 一人でのんびり朝ご飯を食べていると、近くを通り過ぎる集団の話している声が聞こえた。
 アルファクラスの子で、名前は知らない子達だ。
 アンブラの名前を知ってるってことは、誰かがアンブラのルームメイトかな。地元出身の子かな? ……それなら、あんな冷たい言い方しないか。

「呪い持ちもさ、悪魔や吸血鬼ほどじゃないけど嫌だよねー」
「うんうん、ていうか、何したら呪われるんだろうね」
「だよね。アンブラも結局、被害者面してるけど呪われるようなことしたんでしょ」

 言葉を失って、彼女達を見た。思わず、箸が折れそうなほど拳を握りしめていた。抗議するために立ち上がろうとすると、先に集団に近付く影があった。

「品が下がるようなことを言わないことだ」
「な、何よ……!」
「君達の汚い言葉は、彼女を好きな人から呪われるには十分だよ」
「!!」

 彼女たちは何も言い返せずに走って食堂を出て行った。

「それに、被害者に非があるのは2割程度だ。無知を晒すのはよくないぞ」

 ヴォルターの声が追いかける。彼女たちに聞こえていたかはわからないけど。

「なんだ、ヴォルター。優しいね」
「……別に」
「ヴォルター! ありがとう!」

 荷物を持って、ヴォルターの横に移動した。
 向かいにはブロンドの髪と緑の瞳が印象的な、ヴォルターより少し幼い、高校生くらいに見える男の子がいた。彼がきっとマティアス・レオンハルトに違いない。

「ココ、だめだよ。君の友達はオレのことが嫌いだろ?」
「いいのよ。ヴォルターがアンブラをかばってくれたことを知ったら、みんな喜ぶわ。本当にありがとう。あなたが黙ってたら、私が彼女達を殴り飛ばしてたわ!」
「ヴォルター、この小さくて可愛い、暴力的なオトモダチは誰だい?」
「同じクラスの」
「ココ・ブレナンよ。よろしくね、マティアス。あなたのクラスのエミィとはルームメイトなの」
「なるほど、吸血鬼を怖がらないわけだ」
「怖くないわよ。少なくとも学校内ではね。だって、吸血衝動は魔法で抑えられているんでしょう?」
「まあね。でも長い牙は変わりないよ」
「チャームポイントだわ」

 私が言うと、マティアスは肩を竦めた。

「彼女、柔軟性に富んでる。危機感が足りないともいう」
「優しいだろ。オレの友達になってくれるくらいだ」

 二人は、普通の人間と何も変わらない。吸血鬼の牙だって、ちょっと長い八重歯だと思えば、どうってことない。16、7歳の男の子のように見える。

「ねぇ、二人は何歳くらいなの?」
「200歳とちょっとかな」
「なんで200歳になって魔法学校へ?」
「気まぐれさ。ヴォルターは僕に付き合ってくれてるだけ」

 やっぱり、命令とかじゃないんだ。私が頷いて見せると、マティアスはふっと笑った。

「でも、《魅惑》が同級生で入学してるところを見ると校長が何かしたのかもね」
「なんで校長先生が?」
「《魅惑》が人を探してるって話、聞いてないかい?」
「あぁ、お友達を探してるって聞いたわ」
「探し人は二人。僕と同じ吸血鬼の公爵サクラーティ・サヴァレーゼと校長に魔法を教えた史上最強の魔女ドロテア・チェスティってわけ。サクラーティはともかく、校長もドロテアを探したいはずさ」

 吸血鬼の方は知らないけど、魔女ドロテアの名前は聞いたことがある。突然姿を消した、とてつもない魔力を持った魔女。校長先生に魔法を教えたとは知らなかった。

「……魔女と悪魔と吸血鬼で、仲良しなのね」
「異端同士はつるむものさ。とにかく、僕も《魅惑》と同じ理由で魔法学校に入ったんだ。サクラーティを探す手がかりを掴めないかってね」
「ふーん……」

 世界中が探している人。有名な魔女だ。魔法史にも載ってるはず……パパが何か知ってるかもしれない。

「ココ、もうそろそろ朝ごはんを切り上げないと遅刻するよ」
「そうね。そういえば、二人は寮から校舎まで、どうやって行ってるの? 日光が当たるでしょ?」
「寮の部屋から職員室に繋ぐドアがあるんだよ」
「へぇ……。すごいのね」
「建前はそれだけど、監視にはもってこいじゃないか」

 マティアスが肩を竦めた。そうか、それもあるかもしれない。
 ヴォルター達と別れて寮を出ようとすると、チェルソが走ってきて横に並んだ。

「ヴォルターって、いい奴だね」
「見てたの?」
「もちろん、見てただけじゃないけど……ヴォルターに先を越されたんだよ」

 そっか。チェルソはアンブラのことを昔から知ってるわけだし、私よりも怒っていたのかもしれない。

「アンブラの呪いは、無差別テロみたいなものだったんだよ。今もアンブラの声を奪ったやつが、アンブラの声を詐欺に利用してるはずだ」
「その呪いって、解けないのかしら」
「難しいだろうね。相手が自分で解くか、死んだときにしか解けないはずだ」

 チェルソの声は沈んでいた。

「でも呪いが解けたら、アンブラの魔力は元の……ただの人間レベルに戻ってしまうんだよ。成人したら魔力が消える人とかもいるけど、魔法を突然使えなくなるのは……」

 便利なことを知ってしまったら、戻るのは難しい。チェルソの言いたい事は、なんとなくわかった。

「なんで、アンブラを入学させたんだろう。彼女の魔力は、確実に期限付きなんだよ」

 それなら、私も同じようなものだわ。
 お祖父ちゃんの呪いと、パパの呪い。二重にかかって、アルファクラスに入れる魔力がある。私の実際の魔力はどの程度なのだろう。
 教室に着くと、アンブラが飛んできた。

『なんか、ココが殴り合いのケンカしたって噂があるんだけど!』
「ココは殴り飛ばしたいって言っただけだよ」
『何があったらそんなこと言うの!?』
「あー……」
『言いづらい事?』
「……アンブラの悪口言ってたから、殴り飛ばしてやろうと思ったの。でもその前に、ヴォルターが言い負かしちゃった」

 どう言っていいのかわからなくて、事実をありのままに言った。チェルソが小さく肩を竦めるのが視界の端で見えた。

『つまり?』
「ヴォルターが君をかばってくれたってこと」
「チェルソは何も言わなかったわ」
「君もじゃないか」
「ヴォルターの方が早かったんだもの」
「僕だってそうだよ」

 私とチェルソがギャーギャー言っている間に、アンブラはそっとヴォルターの席に近寄って行った。

「ワーオ、アンブラまでヴォルターと話してる」
「マーリー、おはよう」
「何があったの?」

 食堂での出来事をマーリーに話すと、マーリーも少しはヴォルターを見直したみたいだった。いい奴だから即友達とは限らないけどね、とはマーリーの弁。
 でも今日は、私がヴォルターに話しかけてもランチの時にヴォルターを引っ張ってきても、誰も嫌な顔をしなかった。

「……迷惑だよ」
「そんなことないわ。ねぇ、みんな」
「ご飯くらい、みんなで食べなきゃおいしくないわよ」

 マーリーが素っ気なく言うので、ヴォルターも観念したように席についた。

「彼はチェルソ、彼女はマーリー。それに、アンブラとココ。みんな、彼はヴォルター」
「……よ、よろしく」
「ココってほんと、頑固ね」
「面白いメンバーね」
「《魅惑》も連れて来れば完璧だよ」
「《魅惑》じゃなくてエミィよ!」
「ご、ごめん」
「仕方ないわ。一度はココにそうやって怒られるのよ」

 マーリーがくすっと笑った。

「エミィも一緒に食べればいいのよ。こっちにはもう呪い持ちと吸血鬼がいるんだから」
『呪い持ちなんて呼び方、嫌よ』

 アンブラがマーリーに抗議する。

「……あ、あのね、私も呪い持ちなの」

 みんなが驚いて私を見た。言っていいのかな。ちょっと、ドキドキしている。

「……私、パパに名前を奪われているの」
「だから養子ってことに?」
「説明は面倒なんだけど……元の名前も呪われてて……その呪いだと、学校生活に支障が出るから……えっと、パパが悪い名前を奪ってくれたの」

 悪い名前。はっきり言葉にするのは、なんだか居心地が悪かった。

「先生とお父さんが友達っていうのは嘘?」
「本当よ。お父さんが保護者を頼んだのも本当。パパは先生の立場だし、呪いをかけたなんて印象が悪くなるかもしれないから、呪いのことだけは言えなかったの……」
「ま、そりゃそうよね。本当の名前は?」
「奪われてから思い出せないわ」
『よかった、呪い持ちなんて私だけかと』
「でも、二人だけじゃ呪い持ちが多いとは言わないんじゃないか。毎年一人二人いるものじゃないのか?」

 ヴォルターが助言を求めるようにマーリーをちらっと見た。マーリーは頷いて答えた。

「そうね。実際、呪いってほんとはよくある話なのよ。明日からエミィもランチに誘いましょ」
「マティアスも誘う?」
「いや、彼はいいよ。元々一人が好きな性格だから」
「そう」

 みんな、私の呪いの話についてはあっさりしたものだった。隠してたことについても何も言わなかった。だからこそ、隠してしまったことを後悔した。
 寮にかえって、エミィにランチの話をすると、少し複雑そうな顔だった。

「どうしたの?」
「ココ、あのね。悪口を言っていたなんて本人に言わない方がいいのよ」
「え? そうなの?」
「確かにヴォルターがかばってくれたことはいいことだし、言いたいことだと思うわ。でもね、アンブラはルームメイトに悪口を言われていたかもしれないし、言われてないかもしれない。本人はどっちにしろ否定するから、確認しようがないのよ」
「えーっと、嘘を言うということ?」
「自分を守るためにね。人は嘘をつくわ。すると、どう? アンブラはルームメイトにこれまでと同じように接することができるかしら」
「……どうしよう、私、なんてことを」

 初めて、自分のしたことがわかった。
 それだけじゃない。私、エミィにいろんな人との会話をそのまま、悪意のある言葉もそのまま言って聞かせてた。

「……私、アンブラを傷付けちゃったの?」
「さぁ、どうかしら。でも、今後は気を付けた方がいいわ」
「それにエミィも傷付けてたのね」
「アタシはいいのよ。ココがいっつも言い返してくれてるじゃない。今までのココは悪意のある言葉にも何も感じなかったのね。だから素直すぎたのよ。今後は気を付けるの。いい?」
「うん。教えてくれてありがとう」

 エミィが出してくれたハーブティーを飲んだ。少しだけ、落ち着いた。

「そういえば、マティアスとも話したの」
「あら、そうなの? 教室じゃ、一言もしゃべらないわよ」
「けっこう普通だったよ。彼が言ってた。エミィが探してるのはドロテアとサクラーティだって」
「ココには言ってなかったかしら。そうよ」
「彼もサクラーティを探してるんですって」
「マティアスが? でも彼、生まれたのはサクラの失踪後よ」

 会ったこともない人をどうやって探すのだろうか。首を傾げると、エミィも同じく首を傾げた。
 同じ吸血鬼同士、探した方がいいという使命感だけで探しているのだろうか。

「あ、そうだ。パパは、何か知らないかな?」
「ブレナン先生が?」
「だってパパは魔法史の専門よ。サクラーティはわからないけど、ドロテアって有名な魔女だもの。何か、知らないかしら」
「そうねぇ……」

 エミィは頬杖をついて考え込んだ。その姿すらセクシーだ。

「……そうね、彼、名前を奪う呪いをドロテアに習ったのかも。昔、名前を奪われた子に会ったことがあるって言ったでしょ?」
「うん」
「その名前を奪ってたのが、ドロテアだったのよ。あの子の場合、ひどく恨まれていたけど」

 あの子、元気かしらねー。エミィがひとり言のように言った。
 あの子というのがドロテアのことなのか名前を奪われていた子なのかは、よくわからなかった。

「じゃあ、決まり。パパと……あと、校長先生もドロテアを探してるみたいって言ってたわ」
「あぁ、エヴァンジェリンはだめよ。話すどころか部屋にも入れてくれないわ」
「そうなの? じゃあ、パパのところに行こう」
「そうね。今行く?」
「うん。善は急げよ」

 エミィを引っ張るように、クライヴの研究室に向かう。

「やあ、ココ。……と、エミィ」
「パパ、ドロテア・チェスティっていう魔女について教えてほしいの」
「ドロテアなら4年生の魔法史でやるよ」
「エミィが探してるのは彼女なのよ」

 クライヴが首を傾げる。

「探してる友達が、ドロテアだって? 彼女は孤高の魔女だ。友達なんて……校長先生は何も……」
「そうよ。孤高の魔女よ。悪魔と吸血鬼しか友達がいないんだから」
「それなら、僕よりも君の方が詳しいんじゃないか? 僕はただ、資料と校長先生の話をまとめるくらいしかしてない」

 なーんだ。思わず、いつの間にか出されていたミルクを一気に飲み干した。

「先生、そんなことないわ。久しぶりにあの子の家に来てみたらこんな学校になってるから探してるんじゃないの」
「え!? ここって魔女ドロテアの家だったの!?」
「久しぶりって……魔女ドロテア失踪からもう140年も経ってるのに」

 私とクライヴは、それぞれ驚いていた。

「…………ん? 140年? アタシ、120年ほど前に会ったわよ。本人じゃなくて夢を食べただけだけど。その時、ドロテアに名前を奪われた子にも会ったし」
「ちょっと待って。そうだ、その……名前を奪う呪いのことも聞きたかったんだ」

 エミィの話とクライヴの話をまとめると、校長先生によるとドロテアは140年前にサーカスを見に行くと言って出掛けたっきり、失踪してしまったそうだ。ついでに、サーカスのテントがあった場所は何故か壊滅状態だったそうで、ドロテアが何かに巻き込まれたことは間違いない。また、120年前にエミィがあったドロテアは、夢の中にエミィが入り込めるほど魔力が低下していたらしい。その際、ドロテアに名前を奪われているサーカス団員の青年にあったという。しかし二人の姿を見つけることはできなかったそうだ。そして、取り残された校長先生はドロテアの家の跡地に魔法学校を建てた。

「……ふーむ……。何らかの形で、生きてはいるんだろうね」

 結局、その結論しか出なかった。

「まあ、120年前の目撃情報はこちらにとっては大きな収穫だ」
「はぁ……エヴァンジェリンに魔法が使えればきっと一発で見つけられるのにねぇ……」
「校長先生とも知り合いなのかい?」
「えぇ。サクラが行方不明になった方が先で、サクラを日本で見つけた後にドロテアに教えにいったの。そこで弟子になったエヴァンジェリンに会ったわ。今と変わらない見た目でね」
「吸血鬼の公爵が、日本にいたの?」
「なんか、ショーグンサマに飼われてたみたいよ。プリンセスみたいな待遇でお気に入りって暢気に言ってたわ。とにかく、エヴァンジェリンって魔力はばかみたいにあるのに魔法は全く使えないの。だからドロテアの魔法を見ながら魔法理論の研究をしてたのよ」

 エミィにとっては、私はもちろん、クライヴも校長先生も子どもみたいなものなんだろう。

「まったく、ワーズワースといえば“青と赤の人間”の直系なんだから魔法が使えないなんておかしな話よね」

 エミィが冗談みたいに言ったその瞬間、クライヴがマグカップを取り落した。破片が散らばり、コーヒーがこぼれたのを気にもせずにエミィに詰め寄る。

「校長先生が“青と赤の人間”の直系? 今、そう言ったかい?」
「え、えぇ……。今授業でやってるユーロ王だって、ユーロ・ワーズワース……ですよね?」
「さては君、知ってるからって授業聞いてないな? ユーロ王の姓は不明だ。……しかし……そうか、それなら校長先生の魔力も説明がつく」
「ねぇ、エミィは女神も知ってるの?」
「知らないわ。神話の通りならサクラ達が女神を守ってるはずだけど、サクラは女神なんていないって言ってたし。本当にいたなら、サクラが生まれるよりも前に起きちゃったのかもね」
「いると思う?」
「いるんじゃない? だって、確実に誰かをモデルにしたような女神像が町中にあるんだもの」
「そうだね。ああいう像って、誰にでも似るように特徴がないものが多いけど、女神像は誰かに似せようとしてる感じがするな」

 クライヴが我に返ったように言って、パチンと指を鳴らして壊れたマグカップを片付けた。

「ユーロ王……いや、“青と赤の人間”の姓までわかるなんて有益な時間だった。資料さえあればいいんだけどな。……あぁ、そうだ。ドロテアについては力になれなくて悪いね」
「いいえ、こちらこそお時間を作ってくださってありがとう」

 エミィに促されて寮の部屋に戻った。
 結局、ドロテアについて学校で知り得る情報はないのかもしれない。私ががっかりしていると、エミィは笑ってがっかりすることじゃないわ、と言った。