永遠少年症候群

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キケンな吸血鬼?

 ヴォルター・リンハルトが一体誰なのかという疑問はすぐに解決した。
 孤立していたからだ。それは、見た目が成人男性のようだったこともあるかもしれないし、やっぱり吸血鬼だからかもしれなかった。

「おはよう」
「……おはよう、何か用?」
「あなた、ヴォルター・リンハルトでしょ? 私はココ・ブレナン。よろしく」
「……よろしく」

 ヴォルターは、日光に当たらない種族らしく不健康な肌の白さだった。切れ長の目は、今にも閉じそうに細い。

「眠いの?」
「元々、昼夜逆転の生活だからね。長い間そうだったから、1週間やそこらでそうそう慣れるものじゃなくて」
「ココ!」

 ヴォルターと話していると、マーリーがとても大きな声で私を呼んだ。チラリとヴォルターを見ると、どうぞとばかりに肩を竦める。

「おはよう、マーリー。なあに?」
「何じゃないっつの」

 マーリーは教室の隅にぐいぐい私を引っ張っていった。そして、小声だけど鋭い声で私を非難した。
 アンブラとチェルソが2、3歩離れたところから不安そうに見ている。

「昨日の話聞いてなかったの?」
「昨日の話って?」
「ヴォルターは純血種の吸血鬼っていう話に決まってるでしょ!」
「聞いたから話しかけたんじゃない」
「だから、何で」
「吸血鬼を差別したら、やっぱりエミィの魅惑にあてられただけなんだって言われちゃうわ」
「ちょっと待って。なんでそうなるの?」

 マーリーは意味がわからないという風に首を振った。

「彼らだって、今は人間と同じよ。差別したらいけないわ」
「違うわ。順番が違う。だって、私はあんたがエミィはいい人って言うから友達になったの。悪魔を差別しないためじゃない」
「ヴォルターだってきっといい人よ。それは、話しかけてみなきゃわからないじゃない。私達にヴォルターがいい人って言ってくれる人は一体誰?」
「それは……」
「そうでしょ? ねぇ、ヴォルター、ランチは一緒に食べましょ? 友達を紹介するわ」
「……彼らに迷惑だよ」

 マーリー達の気まずそうな顔を見ると、そんなことない、とはとても言えなかった。
 ヴォルターは何とも思っていない風で、肩を竦めた。

「ねぇ、私の家にも本家と分家ってあるわ。でも、本来本家と分家って兄弟なんだから、命令聞く必要ないわ。そうでしょ?」
「まあ、そうだね」
「あなたはマティアスが一人ぼっちにならないように一緒に入学した優しい人。そうでしょ?」
「それはどうかな」
「ほら、優しい人は、自分は優しいなんて言わないものよ。絶対、仲良くした方がいいのに」
「ありがとう、ココ。でもオレは大丈夫だよ。彼らの元に戻りなよ」

 ヴォルターは、私を無視して読書を始めた。私はというと、いつもの席に戻った。他に名案なんて浮かばなかったから。

「あんたって、信じられないお人よしだね」
「そんなに怒らないでよ」
『エミィだってきっと怒るわ』
「そうかしら」
「ヘイ、君達。いつの間に《魅惑》と仲良くなってるんだい? もしかして、アンブラも?」
『もちろん』
「私のルームメイトなの。エミィのハーブティー、とってもおいしいのよ」

 でも、女子寮にチェルソを招くわけにもいかない。

「怖くないの?」
「ねぇ、いっつも思うんだけど、何が怖いの?」
「何って、夢魔に生気を奪われたら死んじゃうんだよ」

 チェルソはなぜそんな当然のことを聞くのかわからないという顔をした。

「あぁ、みんなはそこを勘違いしてるわけね。エミィは夢魔じゃないわ。獏よ」
『正確には夢魔と獏のハーフで、獏の生活を選んでるんだって。セクシーなのはきっと夢魔の血のせいね』
「ふーん。そこまでは聞いてなかった」
「昨日、ココがいない間に教えてくれたのよ。私がうまく説明できなかったから」
「エミィね、友達が増えて嬉しそうだったよ」
「おいおい、君達。論点はそこじゃないんじゃない?」

 私もマーリーもアンブラも、チェルソを見て、顔を見合わせた。

「会わせろってこと?」
「口説くつもり? これだからイタリア男は」
「違うよ。《魅惑》は誤解されてるんだよ」
「わかってるわ」
「そんなに簡単じゃないんだよ」

 マーリーが口を尖らせる。先生や校長先生なんかがもっとちゃんと説明してくれればいいのにね、とか、エミィもちょっと諦め気味だから、とかそれぞれ適当なことを言って授業のために教室を移動する。
 1時間目は、魔法史だ。

「やあ、ベータクラスのみんな。さっそく授業が始まってるけど調子はどうだい?」

 クラスメイト達はまばらに返事した。クライヴは自分から聞いたくせに適当に聞き流して教科書を開いた。

「ロダン先生から聞いてると思うけど、魔法史は世界史と同じペースで進めるよ。まずは創世の神話から。ロダン先生も似たようなことを言っていたが、魔力のあるものの神話は一つだ。たぶん、吸血鬼も似たような神話を知っているはずだ。“女神に捨てられた種族”である悪魔族が女神を信仰しているかは定かではないが、やはり創世については同じ見解をするだろう。長く生きて伝言リレーが少ない分、吸血鬼や悪魔の方が詳しいのではないかとさえ思うよ」

 クライヴは、オリエンテーションの時とは違って一気にそんなことをしゃべった。

×××

 孤独な女神は動物を作った。
 動物は喋らないので父親と母親を連れてきた。これが人間の始まり、青と赤の人間。そして、地球を動かすために他にも人間を増やした。
 青と赤の人間は、女神を大切に扱ったが、その他は女神をぞんざいに扱った。
 女神は人間が嫌いになった。ウサギをトラが食うように、人間を食うものを作ると言った。人間は反対したが、青と赤の人間だけは了承した。
 女神は魔力を持った人間を作ろうとしたが、彼らは実体を持たなかったので、人間を食べることができなかった。女神は悪魔と呼んで、それを捨てた。
 次に女神は、魔力を持った人間ではなく吸血鬼を作った。
 そして女神は、青と赤の人間に力を与えて眠ってしまった。
 吸血鬼は女神を中心に国を作り、人間たちに縋られた青と赤の人間は人間の国を作った。

×××

 全然詳しくないし、これで歴史がわかるのかは疑問だ。
 ただ、いくつか断定されているのは、何故だろう。そりゃ、推定文ばかりでも胡散臭さが3割増しかもしれないけど。

「この、青と赤の人間っていうのが後の王族、そして魔法使いの祖だと言われてる」

 ふーん。としか思えない。
 身近な話題にしてみれば、どうやって日本に魔法が入ってきたのだろうか。

「そして、かの有名なユーロ王は、この子孫」
「……」

 有名かどうかは、知らないけど。
 つまり、世界史と魔法史が繋がっている理由は、ここにあるらしい。
 中東系の顔立ちの男子生徒が手を挙げた。

「はい、メフメト・シケル」
「女神が本当にいるのなら、起きたという史実があるか吸血鬼の国の中心に寝ているはずでは」
「それは魔法史界でも頭を悩ませている問題でね。女神なんて本当にいたのかと疑問視する声もあれば、ユーロ王を支えた者こそ女神だと言う声もある。ま、所詮、神話は神話。歴史的資料がきちんと残っているユーロ王から魔法史も進めていくよ」

 じゃあなんで神話を紹介したんだろう。“青と赤の人間”が昔の人間の王族の先祖だと言うだけのため? 史実も何もないのに。
 ユーロ王という人がキーワードになるのは、ただ単に伝説的な偉業を行った王というだけでなく、書物に記録を残すということを行ったからのようだ。それにしても、覚えてる範囲で父親の活躍とかも書けばよかったのに、とは思った。
 授業が終わって教室を移動しようとするとき、クライヴに呼び止められた。マーリー達に先に行ってもらうことにして、なあに? と尋ねた。

「ヴォルター・リンハルトと仲良くしようとしてるんだって?」
「えぇ。まさか、教師が差別を推奨しないわよね」
「まさか。意外と度胸あるなあとは思ったけど、褒めこそすれ、反対なんかしないよ。でもさ、血を吸われるかも……とか思わないのかい?」
「その時はその時よ」
「ワーオ」

 クライヴはすごくガッカリした感じで溜め息をついた。

「そういう考え方、良くないな。君が怪我をしただけで悲しむ家族も友人もいるんだ」
「……そうね」

 友人は、悲しんでくれるだろうか。
 少なくとも実家の方は悲しむ人はいないけど、養父である以上クライヴは何か感じてくれるかもしれない。

「何かリスクを承知で行動することはいいことだ。君が成長する手助けになるだろう。でも何も考えずに行動するのは違うんだよ」
「……うーん、結局、ヴォルターと仲良くするのはいいことなの? 悪いことなの?」
「それは君が決めることさ。きちんと、ヴォルターを見極めて。ヴォルターだけじゃない、他の友達もね」

 よくわかったような、わからないような。

「ココ、学校は楽しいかい?」
「そうね。少なくとも友達ができてとても嬉しいわ」
「それを聞いて安心したよ」

 クライヴに手を振って、急いで教室を出ると、ヴォルターがポツンと立っていた。

「……あ……えっと」
「待っててくれたの?」
「うん」

 ヴォルターは並んでみると背が高く、見上げていると首が痛くなりそうなほどだった。

「ブレナン先生は親戚なのかい?」
「私の養父よ。先生が父の友人で、保護者をお願いしたの」
「……ココ、保護者になるだけなら養子になる必要なんてないよ」
「あら、そうなの?」
「どういう理由か知らないけど、今後は養子であることだけを言った方がいい」
「そうするわ」

 肩を竦めると、ヴォルターはくくっと笑った。

「ココって、素直なんだね。とてもいい子だ」
「ありがとう」
「でも、オレとみんなを仲良くさせようなんて思わなくていい。オレは、君の数倍長く生きてるからそういうことくらいちゃんと対処できる。君が気にかけている《魅惑》も一緒さ。あっちはオレなんかよりもっと長生きしてる」
「パパも同じようなこと言ってたわ。でも、1日……1分1秒はみんな同じ長さのはずよ。それなのに、長生きだから一人ぼっちでいいなんて理由にはならないと思うの」
「一人ぼっちでいいわけじゃないよ。ただ、うまく対処できるのさ。だから、君がオレ達を気にかけて友達の気分を害する必要なんて、全くないんだよ」

 私の何倍も生きて、経験がある。それはわかる。

「……でも……。あなたの言うことはわかったわよ。でも、どうしてみんな仲良くできないのかしら」
「怖いからだよ。未知のものは、誰だって怖い」
「…………ふーん……。恐怖ね……」

 それはまだ、鈍い感情だ。お父さんにその感情がない分、見て覚える機会も少なかった。

「私、余計なことはしないわ。でも時々話しかけるのはいいでしょ?」
「もちろん。君は大事な友人だよ」

 次の授業は呪い学。
 教室に入ると、すぐに奥の部屋から先生がやってきた。

「……この時間は1年生ベータクラスの呪い学です。間違えた方はいませんね?」

 神経質そうな先生は、細い眼鏡を押し上げてクラスを見渡した。

「よろしい。それでは教科書の1ページ目から」

 先生は名乗ることもせずに、ただ当たり前のように授業を始めた。

「呪いには様々な種類があります。……あぁ、このクラスにも奪われる呪いがかけられている人がいますね」

 アンブラが恥ずかしそうに俯く。全然不自由しないから忘れがちだけど、私もだ。

「呪いは、リスクが大きいものばかりです。この授業では呪いの種類や呪いをかけられた時の対処法を勉強していきます」

 先生は神経質そうに、舟をこぎ始めたマーリーを睨んだ。
 私やアンブラがハラハラして見守っている中、授業は終わった。

「マーリー・ロングフェロー。ちょっと残りなさい」
「えっ、私ですか」

 マーリーは意外そうな顔で(私はちっとも意外だとは思わなかったけど)、先生の元へ引き返していった。
 私とアンブラは、マーリーを置いて次の魔法理論実践研究室へ向かうことにした。

『ココはブレナン先生になんで呼ばれたの?』
「あー……過保護なだけよ。学校は楽しいかとか、友達はできたかとか、そういうこと」
『ヴォルター・リンハルトと一緒に来たよね。彼も呼ばれてたの?』
「待っててくれたみたい」
『ねぇ、私は魔法使いの家系じゃないけど、吸血鬼の恐ろしさは知ってるわ。どうしてココは怖くないの?』
「どうしてかな。ヴォルターって、そんなに悪い人には見えないし……」

 まさか、恐怖がわからないというわけにもいかない。
 でも、本当に、ヴォルターって悪い人には見えないわ。さっきだって、つまりは私がヴォルターと仲良くしてマーリー達と疎遠にならないように心配してくれたってことだし。

「みんなで仲良くって、難しいことなのかしら」
『私にはそれがわからないわ。なんで“みんな”で仲良くする必要があるの? 気が合わない人って、必ずいるわ』
「一人の人はどうするの?」
『一人でいるのが好きな人だっているもの。私、別に“みんな”って大事じゃないと思う。そりゃ、仲がいい人が多いのはいいことだけど』

 あー、って声が漏れた。“みんな”って、きっと日本の考え方なんだわ。ヨーロッパは個々を大事にするって明おばさんが言ってたもの。

「二人とも、まだ着いてなかったの?」
「マーリーこそ、なんでもう教室に着いてるの?」
『魔法?』
「うん、先生が次の授業に遅れるといけないからって。遅刻しそうなときは寮のドアと教室のドアをつなげばいいんだね。ためになった」

 あれ?

「マーリーって、居眠りしてたことを怒られてたのよね?」
『反省の色ナシって感じ』
「私はちゃんと起きてたじゃない。先生と話したのは、部活のことよ。チェス部。私、チェスが得意でその道では有名なのよ」
「ふーん……。私にはわかんない世界だ」

 それにしても、居眠りには寛容なのかな。先生、マーリーのこと睨んでたと思うんだけど。