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永遠少年症候群

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ファンタジー、恋愛要素、ハッピーエンド多め。たまに暴力やグロテスクな表現があります。
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新しい出会い

 初めての外国というのは、言葉の壁というものが立ち塞がってしまうそうだ。しかし私にはその心配はない。不安や心配する心は元々ないが、そういう意味じゃなくてお祖父ちゃんが言語を統一して聞こえるようになる魔法をかけてくれたので言葉の壁というものはない。
 初めて外国に降り立った時、耳慣れない言葉が雑然としたノイズのようで耳が痛かった。お祖父ちゃんの魔法は効いていないのかと思っていたが、人々の意味不明な言葉が徐々に理解できるようになっていった。それがとても気持ち悪くて、頭の中がぐわんぐわんとシャッフルされているようだった。
 大きな荷物を持ったまま空港でベンチに座り込んでいると、つばが広い深いグリーンの帽子をかぶった女の人が声をかけてきた。

「大丈夫?」
「……あ、はい」
「小さいのに一人で飛行機に?」
「ええ、まぁ……進学した学校がこの辺で……」

 きちんと喋れる。きっと、お祖父ちゃんの魔法が効いているんだ。そうとわかれば、さっさと学校へ行って手続きを済ませなければ。
 私がトランクの持ち手を掴むと、その人は少し首を傾げて微笑んだ。

「でもあなた、黄色人種でしょ。悪いことは言わないわ。田舎へ帰りなさいな」
「助言をありがとう。でも私、急いでるので」
「はぁ?」

 今度は私が首を傾げた。と、後ろからクスリと笑う声が聞こえた。
 振り返ると、線の細い男性がきっちりスーツを着こなして立っていた。髪もきれいに整えている。隙がない印象だ。

「嫌味にありがとうだなんて、キョウの娘らしい」

 キョウ。恐。父の名前だ。
 なぜ父を知っているのか。なぜ私が娘だと思ったのか。どの問いがこの場に最もふさわしいか、私が言葉を見つけあぐねていると、その人はスタスタと早足のようなスピードで私の前に歩いてきた。
 その人が私の前に立った後ろで、最初に話しかけてきた女性はコソコソと歩き去った。最初に親切にしてくれた人にお礼も言えなかった……。

「僕はクライヴ。クライヴ・ブレナンだ。君のお父さんに頼まれて学校までエスコートすることになったんだ。よろしくね、ココロ」
「よろしく……父の知り合いですか。どういう……?」
「悪友ってヤツさ」

 クライヴはウインクをすると、私の荷物を軽々と持ち上げた。またすたすたと歩きだすので、弾かれたようについていく。
 悪友。友達ということは、父と同じくらいの年齢なのだろうか。やけに若く見えるけど。……父も、若く見える方だったと思うけれど。

「父は何か言っていましたか」
「娘を無事に卒業させたら何してもいいってさ。君をお嫁にもらってもいいし、殺してもいいんだって」
「殺すんですか?」
「まさか。マドウの名付けってさ、恐を見てると恐ろしくてたまらないよ。娘を失うのが恐ろしくないなんて考えられない。それで、ココロって日本語ではどういう意味なんだい?」
「えっと、ハート。心です」

 クライヴはぴたりと足を止めて奇妙な笑顔で私に向き直った。笑うタイミングじゃなかったはず。

「えーっと、つまり……?」
「父は恐れる感情が欠落していますが、私は感情そのものが欠落しています」
「マイゴッデス……そんな馬鹿げた話があるか」
「? ……事実です」

 クライヴは微笑んで首をふった。これは落胆・呆れ・憐れみの行動。感情のコミュニケーションできない分、言動を分類分けして覚えた。だから判る。名前の意味を知って、私には感情の区別がつかないと思っている人は多いけど。

「私を憐れんでいるのね」
「へぇ、解るの?」
「わかるわ……」

 クライヴは私に向き直って、私の手を握った。クライヴの緑色の瞳が私を映す。

「ココ。僕は君のことをそう呼ぶよ」
「え……うん」

 そのままクライヴに手を引かれてまた歩き出す。クライヴは何も言わないけれど、私のことを可哀想な子供だと思っているに違いない。気にしなくていいのに。
 温かい手に引かれて町の隅に辿り着いた。が、そこには何もない。町を囲むように広がる絶壁がそびえ立つばかりだ。

「ねぇ、クライヴ。学校はどこにあるの?」
「目の前さ」
「ないわ」

 クライヴは隠してるんだよ、と笑った。

「手を2回叩いてごらん」

 言われるまま手を叩くと、ぺちぺちと情けない音がした。
 すると、地響きのような音と共に絶壁が動きだし、大きな校門といくつもそびえたつ塔、それに広いグラウンドと町を囲む本物の絶壁が現れた。

「魔力を持った者がここで手を鳴らすと見えるようになるんだ」
「ここが――……」
「ようこそ、エヴァンジェリン魔法学校へ」

 ただただ大きな建物を見上げる私にクライヴがささやく。振り返ると、クライヴがにこりと笑った。

「ここに一歩入れば、僕は魔法史の先生だよ。クライヴって呼んだら生活指導の先生に怒られるから気をつけて」
「わかったわ。ブレナン先生」

 私の言葉にクライヴが頷く。そして頭を撫でてくれた。

「でも、学校の外でブレナン先生って呼ばれたら他人行儀すぎて嫌だなぁ」
「えーっと、わかったわ。この壁の中ではブレナン先生で、外ではクライヴね」
「そう。それで君は卒業までココ・ブレナン」
「え……?」
「僕は君を煮ても焼いてもいいって言われてる。本当は卒業させたらだけど……楽しい学校生活のために、君から名前を奪うよ、ココ。君を卒業まで僕の養子にする」
「よ、養子……?」

 あるはずのない私の心の中に、初めて覚える感情――驚き――が、広がっていった。

「僕はたった今から、君の養父」

 名前を奪うなんてできるの?
 だって、私……私は、ココ・ブレナン。本当の名前が言えない。それはまるで呪いのような。……呪い?

「……名前を奪う呪い、聞いたことあるわ」
「さすがだね」
「お父さんの友達っていうのが理解できた。自分勝手すぎるわ」

 嫌味を言うのは、感情のせいだろうか。すたすた歩くクライヴに必死についていく。

「ちょっと待ってよ!」
「いいかい、ココ。名前を奪う代わりに心と僕の魔力をあげる。だから、楽しい学校生活を送るんだ」
「12年間この生活を送ってきたのよ。今更……」
「楽しむために今更も何もない」

 きっぱりと言い切られて、何も言えなかった。だって、私のためだと知っているから。

「寮に案内するよ。といっても、僕は寮監督に君を引き渡すだけだけど」
「それにしても広い学校」

 近付くと、入口付近に1年生寮と書いてあった。教室があるのは、きっと真ん中にある、下が繋がっていて4本の塔が伸びているように見える一番大きな塔に違いない。

「ココは方向音痴かい? 迷わないようにね」
「方向音痴ではないと思うけれど……広すぎて不安だわ」
「僕がいつでも駆け付けるからね」

 うん、と頷くとふいにクライヴが立ち止まった。いつの間に現れたのか、アジア系のスレンダーな女性が寮の入口に立っていた。エントランスは広く、奥に向かって大きな扉があり、左右に階段が見える。

「ブレナン先生、こんにちは」
「こんにちは。1年生を連れてきました。彼女、ココ・ブレナンです」
「あら、ありがとうございます。待ってたわ、ココ・ブレナン」

 さっき名前を付けられたばかりだというのに、もう知っている。クライヴが何かしたのだろうか。
 クライヴに背中を押され、寮監督であろう女の人のもとへ向かう。ぺこりと頭を下げると、彼女は小さく笑った。

「ワン・ユーインよ。あなたの部屋へ案内するわ」
「あっ、よろしくお願いします」

 クライヴに小さく手を振ってワンさんを追いかけて歩き出す。
 ワンさんも魔法使いなのだろうか。中国人……かな。とってもきれいなひと。

「入って正面が食堂兼ホール、右が女子寮よ。あなたと相部屋の学生は一昨日から寮にいるからいろいろ聞いてみるといいわ」
「はい」
「学生間の問題が起きても私を巻き込まないでね。あと、男子寮には絶対に入らないこと」
「えーっと、……はい」
「寮に関する問題とあなた達の健康問題は私の仕事。あと生活態度もね」
「はい、ワンさん」
「ユーインって呼んで。7年間一緒だからうまくやってね。部屋はここ」

 階段をどれくらいのぼったかわからない。螺旋階段沿いにはたくさんのドアが並んでいたが、ワンさんがようやく立ち止まったのは、ココ&エマと書かれた突き当たりの部屋。屋根裏部屋っぽい。部屋からは濃厚な魔力が溢れ出ている。魔力を感じるなんて、相当だ。

「それじゃ」

 ユーインさんが立ち去って改めてドアを見上げる。7年間一緒ってことは相手も1年生だよね。父より……お祖父ちゃんより、魔力が強大かもしれない。
 ノックをするとはぁーいと鼻にかかった甘い声が聞こえてきた。間もなくドアが開くと、黒髪のショートカットが似合う美人が現れた。どうみても11歳じゃないわ。

「あ……」
「相部屋の子ね? アタシ、エマっていうの。エミィって呼んでね」
「ココ・ブレナン……です」
「ココっていうのね、入って入って!! ベッドは上と下どっちがいい?」
「えっと、エミィも1年生?」
「もちろんよ。ちょーっと年上だけどね」

 靴を揃えるのも忘れて部屋に入って、狭い部屋に少しだけ戸惑う。

「狭いわよね」
「えぇ、私の実家の部屋より狭いかも」

 寮には最低限しか用意されてない。でも魔法を使うのは自由。授業で覚えた魔法を使って部屋を広くすることもできるし、階段をショートカットだってできる。魔法の実験もできる。
 だからエヴァンジェリン魔法学校は最初にして最高の魔法学校なのだ。

「ココって、本名? 日本人でしょう?」
「話すと長くなるんだけど養子になってるの。学校を卒業するまでは一応本名よ」
「ふーん。ワケアリ同士を屋根裏に押し込んだってわけね」

 ワケアリ。
 日本人っていうのはワケアリ? それとも養子であること? 名前を奪われていること?
 私は相当変な顔をしていたに違いない。エミィはふふふっと小さく笑った。

「ココ、自覚ないのね。あなたの魔力、人間じゃ有り得ないくらい多いわ」
「……そうかな」
「先に言っておくわ。アタシはね、悪魔なの」
「悪魔……?」

 悪魔って、西洋の神話によく出てくる……、女神に捨てられた種族。でも日本では……。

「日本では、鬼人種……。人間として扱ってくれるわ。こっちは違うの」
「だから、私と」
「たぶんね」

 エミィは肩を竦めてラグの上で胡座をかいた。
 日本では差別されないってわけじゃない。日本人の人間かそれ以外という大雑把な分け方をしているだけ。外国人と魔女と吸血鬼と鬼人種の全てがそれ以外に含まれる。それでも“悪魔”への対応が他の国とは全然違うのも事実。

「それで、ベッドは上と下どっちがいいの?」
「あ……下……かな」

 これから7年。私はこの環境で暮らすこととなる。

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