永遠少年症候群

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片想いの憂鬱

「川口さん」
「うぁっ!?」

 名前を呼ばれて、思わず声が裏返る。名前を呼ばれただけなのに。かぁっと顔が赤くなるのを感じて、恥ずかしくて俯いてしまうと、首を傾げる気配がした。

「もしかして、体調悪い?」
「ち、違うの、あの、えっと、今日暑いよね! あはは……」
「そうだねー」

 花井くんがパタパタと下敷きで扇いでくれる。前使っていた下敷きがボロボロになって折り目がついていたから、誕生日にプレゼントしたものだ。使ってくれていることが嬉しいけれど、特別だとばれてしまって気まずくならないように、他の8人への誕生日プレゼントと大して変わらない。恵ちゃんには髪を結ぶゴム、徳田くんには失くしたと言っていたのでシャーペン、運動部に入ってる3人には、ミサンガ。そんな風にささやかで気を使わないでもらえるプレゼントを……。だけど、本当は(できれば一緒に選んで)、欲しいと言っていたネクタイや靴をプレゼントして花井くんの中で私の存在を大きくしてしまいたかった。物で釣られるような人じゃないのはわかってるんだけど。
 だけど迷惑をかけてはいけない。花井くんにとって私はただの友達だから。花井くんは誰にでも優しいから、きっと大事な友達、と言ってくれると思う。でもわがままな私が欲しいのはその言葉じゃない。

「あのね、もしよかったら、母の日のプレゼントを一緒に選んでくれないかな?」
「え? 私が?」
「うん、……付き合ってくれない?」

 くらぁっと目眩がした。わかってる、買い物に、だ。それがわかってるから泣きそうで、花井くんが私を指名してくれたことが嬉しくてやっぱり泣きそうだ。
 間違っても他の女の子に言わないでほしい、なんて傲慢な独占欲が心の中で叫んでる。

「いいよ。駅前辺りまで行こうかー」

 出来るだけ平静を装って返事すると、花井くんは真剣な様子で頷いた。

「でも、本当に体調悪くない? 熱とかない?」

 それは花井くんのせい。……なんて、言えるはずもなく。

「大丈夫、朝ご飯のショウガが効いたのかなー」

 あはは、なんてごまかそうとすると、花井くんの手がにゅっと伸びてきた。わけがわからず固まっていると、私の首筋に手の甲を当てて自分の体温を比べているらしいことを理解して、これ以上体温が上がらないようにと何故か息を止めてしまう。

「うーん……やっぱり熱があるんじゃない?」
「へ、平熱高いから……」
「本当に? 体調悪いなら、買い物は延期でもいいよ? そんなことより川口さんの方が大事だからね」

 心臓が死ぬ……。花井くんは暗殺者か何かかもしれない。私を殺す気だ……。
 目が回りそうな、顔が火を噴きそうな、プールにでも飛びこみたいような、そんな気分で思わず立ち上がった。

「ぐっちょん、ねぇ、ポニテ結んで」
「あ、うん! それじゃあ花井くん、また放課後にね」
「うん」

 恵ちゃんに呼ばれてほっと息をついて席から離れる。花井くんも席に戻って城野内くん達と話してる。恵ちゃんのさらさらの髪をポニーテールに結ぶのを、大木くんが嬉しそうに見ている。いいなぁ。

「好きな人が鈍感だと辛いねぇ、お互い」

 あ、助けてくれたんだ。これ以上テンパってしまわないように。あれ以上ドキドキさせられたら、きっと私はあの手を払ってしまう。自分が恥ずかしいからというだけで。

「大木くんは鈍感なの?」
「鈍感だよ。あたしのこと妹だと思ってる」
「それはそれできついなぁ。でも、ただの友達ってよくわかるのも、きついよ」
「片想いはしんどいねぇ」
「うん。それなのに楽しいよね」
「うん」
「はい、ポニテ完成」
「ありがとー」

 買い物頑張って、と小さな声で言って恵ちゃんは大木くんにポニーテールを見せている。大木くんは確かに鈍感かもしれないけど、きっと妹だとは思ってない。恵ちゃんも十分鈍感だ。
 母の日のプレゼント、かぁ……。何がいいのかなぁ。

***

 意味のわからない状況に陥っている。
 放課後、私は花井くんと駅前の大きなショッピングモールまできて母の日のプレゼントを選ぶことになった。平日だと言うのにとても人が多く、はぐれないように、と手を繋いでくれている。少女漫画のような展開にドギマギしつつ、ついでにじんわりと汗ばんできた手のひらに焦りつつ、歩幅を合わせてくれていることにようやく気付いたところだ。

「あのっ」
「あ、クレープ食べない?」
「……た、食べる」

 デートだ。デートだ。これ、デートだよね?
 舞いあがる気持ちを抑えきれそうにない。告白してもいいかな。勢いで言ってしまいそうだ。
 歩幅を合わせてくれたり、さりげなく車道側を歩いてくれたり、優しさに気付けば気付くほど好きになる。
 でも次の瞬間には、きっと誰にでもそういう風に優しいんだ、と思ってしまう。そんな誰にでも打算なく優しいところが好きなんだからどうしようもない。

「はい、どうぞ」
「あ、あれ!? ごめんぼーっとしてた! お金……っ」
「いいよ、今日のお礼ね」
「……ありがとう」

 チョコバナナ……。意外にバナナが大きくて食べにくい。

「あはは、クリームついてる」
「えっ、どこ?」
「とってあげる」

 ほっぺたを指の腹でなぞられる感覚に、ぎゅっと目を瞑る。
 恥ずかしい。残りは優雅におしとやかに食べよう。

「……あのね、花井くんのお母さん、お仕事がいつも忙しいんでしょ?だったら、マッサージグッズとか……アロマとか……うーん、リラックスできるもの? とかいいんじゃないかな」
「そっか、喜ぶものばっかり考えてたけど、母に感謝する日だもんね。えーっと、そういうのってどこらへんで売ってるのかわかる?」
「雑貨屋さんになら大体あると思うよ」
「じゃあ、連れていって」

 ぎゅっと手を握られて、仕方ないなぁと笑って花井くんを引っ張って歩く。ひ、引きつってなかったかな、顔。
 花井くんは女の子の扱いが上手いのかな。それとも、天然なのかな。……ドキドキ、しないのかな……。

「片想いは辛いねぇ」
「ん? 何か言った?」
「ううん。お母さん、喜んでくれるといいね」
「うん、川口さんのおかげで、喜んでくれそうだよ」

 どくんどくんと、今日の心音は一段と大きく、速く。
 私と花井くんの体温が混ざる、この熱い手のひらの存在を、彼の好意だと勘違いしてもいいのだろうか。花井くん、花井くん。花井くんが、昨日より、さっきより。ずっとずっと大好きになりました。