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永遠少年症候群

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ファンタジー、恋愛要素、ハッピーエンド多め。たまに暴力やグロテスクな表現があります。
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俺の絶望

 分家の分家から、娘の貰い手がないのでと見合いを持ちかけられたのが、きっかけといえばきっかけだったのだと思う。

「断ってくれ」
「そう言うな。この子の父親は私のイトコで相手との血は薄いし、この子はなかなか魔力が高い」

 のっぺりした厚化粧の写真――おそらく、この女の成人式のときに撮った写真だろう――を投げると、親父がそそくさと拾った。親父にとって、嫁がどんな人物かは関係がない。ただ、魔力が高ければいいのだろう。いい迷惑だ。

「……親父が断らないなら、俺が直接行って断ってくる」
「おい、こら、待たんか」

 母が生きていたらなんと言うだろうか。というか、本当に死別なのだろうか。親父に嫌気が差して出て行ったのを死んだと吹き込まれているだけでは。だって、あんな親父のどこを好きになって結婚するのか全く分からない。
 封筒に書いてあった差出人の住所は、飯野地区の中でも真逆の位置にあった。

「ごめんください」

 呼び鈴を鳴らしても人が出てこない。が、ガタガタと物音がした。人がいる。

「ごめんください」

 もう一度呼びかけても、返事もない。……出るのが遅くても返事くらいするだろう。
 もしかして、返事もできない状況なのか? 倒れてるとか、空き巣や強盗とか……。書かれていた名前を見てもピンとこないし、心配する義理もないのだが、一応身内だ。

「……」

 掌で筒を作り、ふっと息を吹きかける。鍵がカシャンとあいた。急いでドアを開けて声をかける。

「大丈夫ですか」
「きゃああああああ!!」
「どうした!」
「だ、誰ですかぁ!?」

 下着一枚の女が、顔を泣きそうな顔で引きつらせている。

「強盗! お、犯される……!」
「おい、違う。まず服を着てくれ」

 なんとか女を宥め、客間で向かい合うように座っている。

「……つまりあなたは、お見合いを断るために来て、わたしが居留守を使ったけれど物音がしたため、何かあったのかと心配して入ってきたと」
「そう」
「……すみません、呼び鈴が鳴った時、もう服を脱いでいたので……」

 面倒で、と小さく付け足した女の、口を尖らせたふくれっ面が少し可愛らしく感じた。

「ところで、お見合いって何の話ですか? わたし、何も聞いていません」
「写真に似てないから、お姉さんか妹さんでは」

 そういえば持ってきていた、と写真を取りだすと、女は驚愕の顔をした。表情がよく変わる。

「これ、わたしです。やだ、この写真、着物も化粧も似合ってなくて嫌いなのに……」

 写真と見比べても、別人に見える。

「……あなたに愚痴を言っても仕方ないですね。お断りということなら、両親が納得するように本人たちにお願いします。わたしは……どうでもいいので」
「自分のことなのに?」 
「わたしは外に出れません……。お見合いで拾ってもらえるのなら、それでしか結婚なんてできないんです」
「病気なのか?」
「違います。……怖いんです」

 怖い……。

「……車が突っ込んでくるのでは、……バスジャックが乗り合わせているんじゃないか……、そういう、とりとめのないことが頭からこびりついて離れないんです。家でも怖い事はいっぱいあります。でも、外よりはましなんです。おかしいですよね」

 封筒には、間藤希と書いてあった。のぞみがないと、絶望ばかりになるのか。

「……俺には恐怖がない。恐ろしいことが、何もない」
「ふふっ、わたしと逆ですね。うらやましい」

 逆。確かに、逆なのだろう。

「足して2で割れば、ちょうどいいのかもな」
「お茶を入れなおしてきますね」

 希が席を立った。俺なら魔法を使うことも、希はしない。本家に魔力を見せびらかさないのか、学校にも行けず魔法が使えないのか。

「ただいまー。希、お客さん?」
「えぇ、えーっと……お名前を聞いてなかった……。お見合いのお断りにいらしたみたい」
「あら、またお父さんが勝手にお見合い写真送ったのね」

 筒抜けの親子の会話を聞きつつ茶菓子を食べていると、焦った様子の父親らしき男性がやってきた。この人が親父のいとこなのだろうが、あまり見たことはない。親戚が揃うと人が多すぎるし、覚えていないだけかもしれないが。

「こんにちは、すみません、お昼間にお邪魔して」
「恐くん、よく来たね。でも、あの」
「希さんと、結婚を前提にお付き合いさせていただきます」
「えっ」

 一番驚いていたのは、希だった。

「確かに、お断りしようと思って来たのですが、話してみると気が合いそうなので」
「……大歓迎だよ、恐くん! しんちゃんにも言っておくから!!」
「明日、デートしよう。朝の10時に迎えに来る」
「……はい」

 家に戻ると、親父が気持ち悪いほどの笑顔で寄ってきた。

「受けたそうじゃないか! でかした!」
「うるせぇ」

 希は、今までの女のように俺を変な目で見ないかもしれない。真逆なのに似てる。俺たちは、もしかしたらいい恋人同士になれるんじゃないかと思った。実際のところ、いい恋人であったし、結婚してからはいい夫婦だったと思う。
 ただ、希は魔法のことも名前のことも、何も知らなかった。希が全てを理解するのは、感情のない娘に違和感を覚えたときのことだった。

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